どんなときも毅然と背筋を伸ばす人。
そんな印象だった。
黒い礼服はピンと張っている。
結った長い黒髪に光が反射する。
整然とした進行、堂々としたスピーチ。
冷酷、という揶揄も聞こえる。
冷たいかはともかく、不思議だった。
連れ添った人を看取った後とは思えない。
いっそ直接聞いてみた。
彼女は困惑したが、ポツポツと話してくれる。
彼のために泣いてくれる人は大勢います。
皆さんが存分に泣ける場を作るのが役目ですから。
彼女に、あなたはいつ泣くのですか、と聞いた。
彼女は、もう散々泣きました、と微笑んだ。
そんなに強い人間ではないです、と続ける。
ただ今は、涙が空っぽなだけです。
題:涙の理由
今もどこかで歌を聴いてくれている君へ。
電波でどこでも歌が届く時代。
天国の君は何で歌を聴くの。
もし暇してるなら耳を澄ませて。
君に歌を届けるよ。
そんなの無理って笑わないで。
いつだって君のために歌ってるの。
誰よりも大きい声で。
誰よりも通る声で。
空だって突き抜ける声で歌うよ。
どうかどこかで聴いていて。
私の一番最初のファンへ。
題:力を込めて
あなたは宇宙人。
人のようでいて形が溶けている。
あなたは色々な星を知っている。
色々な星の星座も知っている。
地球にはいない生き物や道具の星座。
地球から見れば当然その形には見えない。
そもそもどんな形かも知らない。
でも私は嬉しかった。
繋いだ星の線から異星のことを知る。
私たちはお互い星座を教え合った。
あなたは言った。
君に宇宙からの星座を見せてあげる。
色々な星の星座を見せてあげる。
だから、と言葉を切る。
私はうなずいた。
あなたなりのプロポーズだと思った。
宇宙人式のプロポーズ。
あなたとならどこにでも行ける。
わたしを星座に連れてって。
題:星座
死体たちが踊り狂っている。
深夜の仕事中、ビルの外が明るくなった。
夜が明けたのかと思った。
窓の外に、道を覆うほどの死体の群れ。
彼らは燃えながら踊っていた。
背後で爆発音が鳴る。
死体たちが壁を突き抜けて部屋に押しかけてきた。
熱い。顔を手でかばう。
広がっていく炎の中に見る。
死体は笑っていた。
笑いながら歌っていた。
一人に手を差し伸べられる。
溶け落ちた顔で、むき出しの目で、笑う。
手を取った。
体に炎が行き渡る。
髪も服も燃やしてでたらめに踊る。
私は笑った。
こんなに簡単なことだった。
こんなことで人生は楽しくなる。
死体の群れは夜を練り歩く。
そうして夜明けと共に消えた。
題:踊りませんか?
昔、好きでした。
もう一度会えたら笑って言いたい。
言ってくれたら、とか。
実は気づいてた、とか。
あることないこと付け加えて思い出にしてください。
そう思ってすくむ建物の前。
同窓会の門。
肩を叩かれる。
振り向けば君がいる。
少し老けて、面影が残る。
声が詰まる。
恋は昔にできない。
ずっと好きでした、から抜け出せない。
題:巡り会えたら