結局さ、あんたは何になりたいわけ?
…なんだろう。何になりたいんだろう。
突如姉から投げつけられた問いは即答出来るものでなかった。
「歌手になりたいんだ、わたし。言えなくてごめん。」
「大学も行かない。春から東京に行く」
『…そっか!いい夢じゃん。大変だと思うけど頑張ってね。』
友達の告白にも即答出来なかった。なぜなんだろう。
私は何になりたいんだろう。
夢はあった。小学生の頃はアイドルになりたかったし、中学生の頃は医者になりたかった。
どれも現実的に無理だと知った中学3年生、夢を失った。
なりたいものも無く、3年間で見つかるだろうと進んだ普通科高校でも夢は見つからなかった。
高校3年生、夏。机に1枚の志望校調査と1本のボールペン。
この問いの答えは、
「終わらない問い」
10月25日、午後2時
ふと窓の外を見ると木が大きく揺れていた
空はとんびが一匹だけで雲一つなかった
揺れる木の葉と不変の空を眺めていた
それだけであった
ずっとなにかを求めていたんだと思う
自分には才能が眠っているんだ、ずっとそう信じていたんだと思う
才能の持つ者しか与えられない大きな羽は、自分の背中にはなかった
代わりに付け焼き刃のようなちいさな羽根が何枚か背中に付いているだけであった
なにかを諦めるたびに僕の羽根が落ちる音がする
今日もまた一枚、僕の羽根であったものが空気を揺らす。
「揺れる羽根」
あぁもうこんな時間なのか。
腹時計が昼を知らせた頃、私はようやくペンを置いた。
親の反対を押し切ってまでなりたかった職業、漫画家。
原稿の締め切りが近い。にも関わらず、急ピッチで仕上げなければならない原稿があまりに多すぎる。
ふと伸びをした時1つの棚が目に入った。
吸い寄せられるように棚に近づき真ん中の段を開けると、そこには小学校の卒業制作で作った、であろう砂時計があった。
なにか時間を測りたかったわけじゃない。
けれどどうしてもひっくり返してみたくなった。
カタン、サァー、サァー。
たった5分。されど5分。
それだけでも砂の落ちる音が頭から離れない。
「砂時計」
生きるって何だろう。
時折考えてしまう時がある。
美味しいものを食べてる時、音楽を聴く時、仲のいい友達と話す時。
幸せは感じるけれども、これが、人生なのだろうか。
いつしか過ぎていく日々にあの頃の心を置いてきてしまったように思う。
あの頃のほうが生きていたな。
生きるとは、答えは、まだ、
「生きる」
だるい、だるすぎる。
なぜこんな日でもここに来なくてはならないのだろうか。
来ているこちらを少し、いやかなり褒め称えて欲しいものだ。
傘が意味をなすかなさないかの狭間の雨。
そんなに暑くはないが異常に高い湿度でジメッとした外。
これらが私を感情のどん底に落としてくる。
昨日はあんなに空は青かったのに。
入道雲を見たときに嫌な予感はしたが、こうも当たってしまうとは。
知識とは時に残酷だなと思う。
ぼぉっと空を見ていると、山の向こうが光った。
光ってからいち、にぃ、さんと数を数える。
…きゅう、じゅうと数えたところで音が鳴った。
およそ3,4km南に落ちたのだろう。そう遠くない、いや遠いのか?
その辺りは知り合いの家がある、はず。
もうずっと行っていないから曖昧な記憶だけれど、確かにそうだろう。
……知識あってよかったなぁ。
「遠雷」