足音。
幸せな時って、幸せな音がする。
たんたんたん
打楽器みたいに跳ねる音。
スキップして気分も跳ねる。
次は何があるのかな。
悲しい時は、切ない音がする。
すたすたすた
布を引き摺る悲しい音。
気分も引き摺ってしまうね。
次は何があるのかな。
怒った時って、怖い音がする。
どんどんどん
花火みたいに爆ぜる音。
気分も爆ぜて怖い音。
次は何があるのかな。
足音が聞こえないね。
ほら、何もない。
なんでだろうね。
次は何かあるのかな。
ずるずるずる
ずるずるずるずる
ずるずるずるずるずる
ずるずるずるずるずるずる
ずるずるずるずるずるずるずる
ずるずるずるずるずるずるずるずる
ずるずるずるずるずるずるずるずるずる
ずるずるずるずるずるずるずるずるずるずる
重いものを引き摺る音。
お引越しの音かな。
次は何があるのかな。
残念!
何もありませんでした!
終わらない夏。
やり残した事があるんだ。
俺、ちゃんと伝えれば良かったよな。
お前とは友達でいたいってさ。
なんて言ってもお前には聞こえないだろうって分かるさ。
ずっと白の前で泣いてるから。
俺はお前の傍にいるのにさ。
こんなに不甲斐ない俺より他の男選んだ方がお前も、
俺も幸せだったんだよ。
分かってくれよ。
お前のために俺は線を引いたんだ。
幸福の真ん中に白い線を。
恋愛友情の曖昧な線を上塗りしたんだ。
いきなり消えてごめん。
俺にも予想できなかったんだよ。
まさか病院に入れられるとは思わないじゃないか。
俺さ、お前に笑ってほしかったんだ。
結構はお前が元気で笑っていれば良かった。
だけどそんな俺がおまえを今泣かせてるんだよな。
返事してよなんて泣いてるんだもんな。
愛してるからだなんて泣いてるんだもんな。
俺はここにいるぞって。
馬鹿だなぁ。
気づけよ、俺はどうなってもお前の後ろにいる。
お前が死ぬまで支えてやる。
だから幸せになれ。
俺の分まで。
名前なんて呼んでも届かないだろうからさ。
誰かに気づかれても恥ずかしくないように気持ちをここに遺しておくよ。
お前なら気づけると思う。
線は引いても糸は途切れてないからな。
涙に染まる目元よりも鮮やかで、深くて。
それでもって強い血の色で結ばれてるんだ。
だから大丈夫。
これが俺の返事だけどさ。
早く気づけよ。
俺は待てないからな。
湿度と気温と談笑でもしていろよ。
どうせミモザも向日葵もリナリアもアネモネもこっちには無いからさ。
何度も言うけど俺は待てないからな。
何時か攫いに行く前に思い出に花を咲かせてくれ。
そうでもしないと終わらないんだ。
これは報われない円環。
伝えたいのに伝えられない。
抜け出す条件は俺の生存とお前の幸せ。
やり残しがあるから進めない。
だから終われない。
震える手を固く結び、再び光へ消えていく。
画面に映るはニューゲーム。
次は何になれるんだ。
何時幸せになれるんだ。
俺の話じゃない。
お前の話だからな。
手紙なんか書かせない。
俺のいるところで伝えろよ。
拝啓だなんてかしこまるなよ。
こっちこそ、名前を呼べよ。
遠くの空へ
拝啓
そちらの生活は慣れましたでしょうか。
私の方は全然慣れなくて、未だに胸に空いた体温が時折恋心を締め付けてきて苦しいです。
あなたがいなくなったと聞いて初めは私何かの御伽噺だと思っていました。
だって直ぐに死ぬような弱い人じゃなかったもの。
そんなことを思っていたのは私の主観で、実際のあなたの弱さに気づけなかった。
そんな私にも責任はありますよね。
拝啓だなんて格好つけたけど私らしくもないですよね。
天国、と呼べるかは別として。
あなたの幸せを、何時までも、何時までも祈っております。
ずっと、ずっと、大好きです。
あなたの骨が風の前の塵と同じ価値になっても。
何時か終わる花火より下の価値だとしても。
私にとってはどんな宝石よりも大切だから。
ねぇ、気が向いたらお返事をください。
私、幾らでも待てるよ。
死んでも待つからさ。
だから、お返事が欲しいの。
何時もみたいな明るい声で、一言。
ただ名前を呼んでくれればいいの。
霞掛かった声からはもう、分からないから。
大切でも声は薄れてしまうから。
だから、声が聞きたいの。
お願い。
一生の、お願いです。
私の全てを捧げてもいいのよ。
だから、また、声を聞かせて。
その形の綺麗な整った唇から、名前だけを。
吐いた息すら美しいだろう、その声を。
何度も言います。
何度でも言います。
また、声を聞かせてよ。
お返事、ずっと待ってます。
そしてその時に聞かせてね。
あなたの今いる遠い空の景色の事。
私への気持ち。
全部。
全部全部。
全部全部全部。
全部全部全部全部。
全部全部全部全部全部。
全部全部全部全部全部全部。
全部。
愛おしいから。
住むべき環境の変わり目ですが、
どうか、ご自愛くださいませ。
敬具。
2025/08/16
君の愛した私から。
私の愛する君へ。
!マークじゃ足りない感情。
例えば何があるだろう。
初めて産声をあげた時か。
差し出された体温が優しかったことか。
初めて自然に足を踏み入れたことか。
初めて海を見た時か。
初夏満天の星に恋をした時か。
初めてテストが百点だった時か。
流星群の様に時間が過ぎて行くことか。
戻れない過ちを犯した時か。
病気になってしまった時か。
好きな人と両思いになった時か。
その人に振られてしまった時か。
他人に好意を向けられることか。
行為だけを求められた時か。
脈を流れる水に覚えがあったことか。
体にモニターが繋げられた時か。
本当に好きな人と出会ったことか。
幸せに結ばれることか。
考え出しても、やっぱり私には分からない。
吃驚する事は、悲しみにも、嬉しみにも、愛しさや辛さ、切なさにさえも変化できるから。
万年を通して語り継がれてきた感情でも、やっぱり語れないものがある。
だから吃驚で済ませてしまう。
だけどそれだけじゃあ足りないでしょう?
言葉にならなくても表現をして差し上げないと。
名前の無い感情さえ育ててあげなきゃ、駄目でしょう。
何時かそれが、植物の様に、花開く。
それがどんな色か、姿か分からなくても。
私には精一杯愛してあげる他、ないのですから。
だから、名前を付けるんです。
まだ語り足りない感情を育てる為に。
可愛い、私だけの、大切な感情のために。
それに裏切られてしまっても、結局は糧になるのです。
経験値として、積まれていくのです。
だから、無駄ではないと思います。
無駄な感情なんて、一切ないのですから。
君が見た景色。
ふわり、海月が宙を舞う。
くらり、体が傾いていく。
おっと、なんて声が出そうになる。
ぴたり、地に足をつける。
ゆらり、上に移る水面が煌めく。
アクアリウムの檻の中。
自由にふよふよ舞っている。
ハイカラな間接照明に照らされて。
それは様々な色に変化する。
桜吹雪の様に優しい色になり。
雪景色の様に冷たい色になる。
草原の様に青々と茂り、
野花の様に華やかに。
僕も知らない君の横顔。
青い光に照らされて。
海月と融解してしまいそうな君は。
何を見て何を感じていたのか。
僕が見ていた景色には、
必ず君が笑ってて。
君が見ていた景色には、
僕は既に雑草同然か。
何に恋をしていたの。
君の内面を暴きたい。
珊瑚礁の様に彩やかだろう。
臓物引きずり出してその後、
朽ちた死骸のような白く脆く儚いだろう。
君の脳みそを食べたいの。
顔は綺麗に整えましょう。
だって僕の好みだから。
食べてもきっと分からない。
君の恋してたあの景色。
いつか追いつきたいのにさ。
君はもう既に僕から居ない。
そうしてここで待っている。
君が来るのを待っている。
体感約一世紀の恋愛。
実際約三ヶ月の恋愛。
長く続いたよこれでもさ。
君の理想には追いつけないけど。
何時か理想を塗り替えたいな。
全てを僕色にしたいから。
もう居ない君と海中散歩。
僕も海と融解していく。
意識朧気呼吸困難。
だけどそれが心地良い。
早まる心拍は子守唄。
目に映るのは海月の慈悲。
溶けて融けて解けて消える。
次があるならまた会おう。
青い横顔を暴きたい。
君の景色を見てみたい。
それから今度は結ばれよう。
桜散る季節に巡り会おう。
海月の幻想じゃないんだ。
本物の桜を二人で見よう。
肌を滑るカッターの様に。
やらなければ始まらないから。
葡萄酒の様に心を酔わせ、
脳髄が麻痺してしまうまで。
コープスリバイバーの様に爽やかに。
溢れ落ちる赤い宝石の様に。
深く魅惑的な恋をしよう。
ダイアモンドの毒のように
マラカイトの様に溺れよう。