あじさい
一昔前、あじさいはまさに6月の花だった。
令和の今、母の日の贈り物としても人気がある。
梅雨入りが毎年早くなっていくにつれて、あじさいの時期も早くはじまるようになった。
新種が増えて、より華やかになって。
だけど、たいていの人が花だと思っているのは、形を変えた萼で、花弁ではない。
君が本当に咲かせている花を私はちゃんと観ているのだろうか。
本当の君は強かで、たくましいね。
好き嫌い
好き嫌いって、はっきり言えるの羨ましい。
好きじゃないけど、まぁ、食べられる。
嫌いじゃないけど、まぁ積極的に食べたいとは思わない かな。
好きとは言えないけど、まぁ努力家だってのは分かる。
嫌いってわけじゃないけど、毎日顔合わせてると疲れるよね。
最近の本音表現法は、ざっとこんな感じ。
強烈にはっきりと好き!嫌い!と思うエネルギー不足?
…年の功とは、まだ言われたくない今日このごろ。
街
私は街が好きだ。
それも住宅街より商業地の繁華街。
テナントビルの合間に人が住んでいるような場所では、誰もが自分に心地良い距離感で、人づきあいをしていて、多様に入れ替わる。ご近所づきあいなんて、そもそもそれくらいのゆるさがちょうどいい。
別に賑やかさを求めているわけじゃない。
だから1番好きなのは、朝。
燦く朝日に照らされて、夜の毒気がさっぱり抜けた街はどこかひっそりとしていて。
ゴミ袋をつつくカラスをよけながら、ランドセルを背負った子どもが、人気のない道を学校へと急ぐ。
どこからか湧いてくる活気が、喧騒を呼び醒ますまでの、ほんの数時間。そこには穏やかな静寂が確かにある。
不夜城の妖しい美男美女が、無垢な人に戻って羽根を休める時の街が、何とも言えず愛おしい。
やりたいこと
やりたいこと…
なんだろ。わかんない。
そう思い続けて、四捨五入半世紀。
やりたいことの芽が、産まれて十数年以内にことごとく踏み潰されてしまったから、やりたいこと探しをとうの昔に諦めてしまった。
もし神様に平均寿命くらいは全うせいとおっしゃっていただけるなら、四捨五入四半世紀以上残っている。
ここで諦めてはいられない。もう後が無い。
今から探す!
やりたいことの種。
朝日の温もり
夜明け前は最も暗いとよく言われる。
24時間人間か人工物が活動している現代では、多くの人が忘れつつあるけれど。
同様に、夜明け前の気温は最も低い。
この事実は、今でも体感できる。
これから語るのは、たぶんそんな時間に観ていた夢のこと。
私は、出アフリカを果たしたばかりで仲間とはぐれてしまったホモ・サピエンス。
やっとたどり着いた岩穴は、獣の襲撃を受けたのか、もぬけの殻。沈黙の闇の奥に獣が潜んでいるかもしれないが、もう動けない。これまで身に受けることのなかった冷たい風を避けたくて、岩陰に縮こまる。吐く息が白い。
ああ、この夜は最後になるかもな。星が一段と鋭く燦めいている。新月の夜は、岩穴と空の境目が分からなくなるものなんだな。星が瞬くところからきっと穴の外の世界なんだ。暗闇と冷気に包まれて、優しかった爺さんが逝ったという彼方にいけそうな気がした。体の重さが増し、微睡みに引きずりこむ。
そんな時だった。冷気が消えていく。ほのかな温もりが沁みてくる。段々力強く体に流れこんできた熱に突き動かされて、目を開けた。
生きろ
山の稜線から現れた鮮烈な光が、そう言っていた。
夜が明けた。また、今日が始まる。