大福猫

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朝日の温もり

 夜明け前は最も暗いとよく言われる。
 24時間人間か人工物が活動している現代では、多くの人が忘れつつあるけれど。
 同様に、夜明け前の気温は最も低い。
 この事実は、今でも体感できる。
 これから語るのは、たぶんそんな時間に観ていた夢のこと。
 
 私は、出アフリカを果たしたばかりで仲間とはぐれてしまったホモ・サピエンス。
 やっとたどり着いた岩穴は、獣の襲撃を受けたのか、もぬけの殻。沈黙の闇の奥に獣が潜んでいるかもしれないが、もう動けない。これまで身に受けることのなかった冷たい風を避けたくて、岩陰に縮こまる。吐く息が白い。
 ああ、この夜は最後になるかもな。星が一段と鋭く燦めいている。新月の夜は、岩穴と空の境目が分からなくなるものなんだな。星が瞬くところからきっと穴の外の世界なんだ。暗闇と冷気に包まれて、優しかった爺さんが逝ったという彼方にいけそうな気がした。体の重さが増し、微睡みに引きずりこむ。
 そんな時だった。冷気が消えていく。ほのかな温もりが沁みてくる。段々力強く体に流れこんできた熱に突き動かされて、目を開けた。
 
 生きろ

 山の稜線から現れた鮮烈な光が、そう言っていた。
 夜が明けた。また、今日が始まる。

6/10/2023, 4:06:02 AM