暑苦しい、サウナのような夏が終わると、生ぬるい秋が始まる。ただそれも束の間のことで、すぐに冬が押し寄せてくる。忙しないルーティンのなかで、秋風を感じるのはときどき難しい。恋人たちは冬を待ち望んでいる。
うちの主様は暴君で、理不尽に怒っては私たち使用人をよく殴った。そういうわけだから、お屋敷の顔ぶれはほとんど毎日入れ替わっていた。耳をすませばどこででも主様の陰口が聞こえた。
だけど私だけは知っている。主様が殴るのは感情をうまくコントロール出来ないから。使用人を殴ったあとにいつも泣いていることも。ああなんと不器用で可哀想な主様!私だけが愛してさしあげます、永遠に。
ところがある日を境に主様は変わった。どうやら旧友に態度を改めるように忠告されたらしい。主様は見せたことのないさわやかな笑みをたたえながら、
「いつか恨まれて後ろから刺されるぞって言われたんだ。そんな死に方はつらいから、自分も努力してみようと思ってさ」
と言っていた。
使用人たちは初めこそ病気まで疑っていたが、今や優しい主様に敬愛まで示している。ああ、なんて素晴らしい素敵な主様!もう私からの愛だけでは生きていけないのですね……。
そんな生き方はさぞおつらいでしょう?
私は永遠に眠った主様をバラバラにして焼いて海に流してあげた。
「さようなら、私の主様。地獄でまたお会いしましょう」
カラフルをまとうのが好き。そりゃあ全身ってわけにはいかないからワンポイントって感じだけど、やっぱり明るい色があると目を引くしテンションも上がるよね。
「待てっ!ドロボー!!!」
それに泥棒するときもこうやって見つかりやすくしておくとドキドキしていい感じじゃん?映えるし。
「ねえ、新しい靴買ってもいいかなあ」
彼女がこう言うとき、もう靴は買ってあって、俺はただ
「うん」
とだけ返せば良い。あとは
「今度デートで履いてきてね」
とか付け足しておけば完璧である。
「わかった!実は靴にあわせてワンピースも買ったんだよね、デート楽しみ」
上目遣いであざとく見つめられて、俺も悪い気はしなかったので
「そうだね、バイトがんばってね」
と言っておいた。ここは夜の街。
いつも月とともにあらわれる彼は、一年で最も美しいと言われる中秋の名月の日には姿を見せなかった。一応メールを打ったものの、その晩は返事がなかった。せっかくお団子やら里芋やら準備してみたのに、結局一人で空を見上げていた。夜が更けるのにはずいぶんと時間がかかりそうだったので、酒を持ってきて窓辺で彼について考えることにした。
晴れた夜には必ずやってきて、長くなると一晩中語り合う。そしてまたフラっと帰っていくのである。よく考えると名前しか知らないような男だ。いや、好きな酒のつまみも知っている。言ってみればただそれだけだが、やはりあのように美しい月夜にはススキのうわさ話なんかしながら、彼と酒をのみたいと思った。