うちの主様は暴君で、理不尽に怒っては私たち使用人をよく殴った。そういうわけだから、お屋敷の顔ぶれはほとんど毎日入れ替わっていた。耳をすませばどこででも主様の陰口が聞こえた。
だけど私だけは知っている。主様が殴るのは感情をうまくコントロール出来ないから。使用人を殴ったあとにいつも泣いていることも。ああなんと不器用で可哀想な主様!私だけが愛してさしあげます、永遠に。
ところがある日を境に主様は変わった。どうやら旧友に態度を改めるように忠告されたらしい。主様は見せたことのないさわやかな笑みをたたえながら、
「いつか恨まれて後ろから刺されるぞって言われたんだ。そんな死に方はつらいから、自分も努力してみようと思ってさ」
と言っていた。
使用人たちは初めこそ病気まで疑っていたが、今や優しい主様に敬愛まで示している。ああ、なんて素晴らしい素敵な主様!もう私からの愛だけでは生きていけないのですね……。
そんな生き方はさぞおつらいでしょう?
私は永遠に眠った主様をバラバラにして焼いて海に流してあげた。
「さようなら、私の主様。地獄でまたお会いしましょう」
11/14/2024, 5:32:14 AM