羽化

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3/7/2026, 8:47:39 AM


スペース取っときます(;;)
思いついたときに書く用……

3/6/2026, 9:10:52 AM

たまには


「ねえ、たまにはさ…
…毎日がんばってるんだから、どっか行かない?」

貴方は笑う。
それが、貴方の口癖だった。

「…だから、大丈夫だってば。」
そう私は、呆れた顔でそちらへと振り向く。
貴方はいつもそうだった。
私より苦労しているくせに、私より賢いくせに、毎日毎日へらへら笑っては私の心配をする。
私以外にも友達がたくさんいるくせに、私の元にばっかり来る。
そんな、まるで天使のような貴方が……

好きだった。どうしようもなく。

……私のそんな想いも知らず、貴方はいつも、私を外へと連れ出した。
二人きりで行った海も、
学校を抜け出して行った遊園地も、
どれも夢みたいで。
かけがえのない想い出で。


「…ねえ。たまにはさ…
 …現実のわたしにも、会ってあげたら?」


嫌だ。 嫌だ嫌だいやだ!
夢から醒めたら、私のことなんてすぐ忘れるくせに。

それでも、貴方はただ笑う。
目を見開く私なんて気にもせず、ただ、寂しそうに。

3/5/2026, 7:48:17 AM

大好きな君に




142通目のラブレターを書いた。
宛先は、もちろん君。

大好きな君へ。
「君の笑顔が、いつだって頭から離れない……」
書き綴ったのは、正統派な愛の言葉!
142通目のラブレターを、僕は君の机に入れた。
…次の日、返事はなかった。


大好きな君へ。君は、この星空より美しい…
「夜空を見上げる度、君もきっと…同じ空を見ている気がして…」
書き綴ったのは、くすぐったくなるロマンチックな言葉!
143通目のラブレターを、僕は君の靴箱に入れた。
…次の日、やっぱり返事はなかった。


素敵にさわやかな言葉で書いてみても、
可愛らしくポエムで書いてみても、
情熱的に俳句で書いてみても、
何回書いても返事はない。
君への愛は、こんなに、こんなに積もっているのに!
…でもね、僕は書き続けるよ。
何年でも。いつまででも。
ずっと、ずうっと。


花瓶と、細い花が置かれた 君の机。
その中を僕の手紙だけが満たしていった。

3/3/2026, 3:56:55 PM

「親愛なる妹へ。
 結論から言うと、私は未来からやってきたんだ。」


そんな書き出しから始まった、小さな手紙。
……3年前に死んだ姉からの、最後の言葉だった。

「いやあ、いつ言おうか迷ったんだけどさ。こんな形になっちゃってごめんね」

あっけらかんとした文章、やけに達筆な字。
それは間違いなく姉のものだ。
…毎日毎日、学校も家業も、上手くいっていたように見えたのに。
ある日突然、自室で……

「まぁ、私がいなくなっても…あんまり深く考えないでほしいんだ。何も、考えなしに死んだんじゃないし。」

姉は、私よりすごく頭が良かった。
運動や体力こそあんまりだったものの、周りや本人は、その賢さをすごく誇りに持っていた。
…姉は、頼りにされていた。期待されていた。
一家の跡継ぎとしても、四姉妹の長女としても、期待の若手としても。
姉は、私より綺麗で。
姉は、
姉は、
姉は。

どうして…


そんな考えばかりがぐるぐる働いては、遺体を見つけて以降、姉の自室へはこの3年間一度も入れていなかった。
葬式はとっくに終わった。母も父も、二人の妹も、姉の部屋の荷物整理に来ていた。
でも、机だけは。
それだけは、姉と一番仲の良かった私が見るべきだって…

「実はこの手紙はねぇ、お前にしか書いてないんだ。 次女の、お前にね。 あっ、もし他の人が読んでたらどうしよ……恥ずいな…」
「……とりあえずね。お前にだけは、伝えておこうと思ったんだよ」

……姉さんが死んだ理由が、わかる?
三年間。ずっと空白だったあの時間を。
知りたくもない、と思ったことだってある。でも。
でも……知りたい。原因があるなら、わたしは…

「…ただ、この世界の未来はね…やさしくなかった。それだけなんだ。 
…って言ったら、語弊があるけど…もし気になるなら、見に来てほしい。」

少し、へにょりとした字で書いてあった。

「実はさ、私の研究室に、すべて置いてあるんだ。
 パスワードキー、ここに書いとくよ。」

姉さんを見つけてね、とだけ添えて、キーと共に私の持っている手紙は終わっていた。
……やることは、ひとつ。



バスで一時間。
生前、ことある事に通っていた研究室……
いつも姉が作っていた、よくわからない機械の匂いすら懐かしい。
ふと顔を上げると、見覚えのない扉があった。
鉄で出来た、頑丈で…重たそうで……
…数字を打ち込める場所がある。
0303ーー私の誕生日を入力すると、扉は開いた。

「お見事! 流石、我が自慢の妹よ。」

…という書き出しからはじまる。
地下室。同じ日付のカレンダーが三枚。机に、『三回目』と刻まれている。
そんな中、また手紙は落ちていた。
……この部屋は、なんなのだろうか。

「ご褒美に、教えてあげる。姉さんの死んだ理由。」
「目の前に、ポッドがあるでしょう?」

手紙の通り、顔を上げると…3mほどある、管が沢山ついた白いポッドがあった。内側は曇っていて、中は見えない。かすかに、水の揺れる音がした。
初めて見るはずなのに、何故かその音が……酷く懐かしい。
これが、……なんだっていうの?


「実は……姉さんね、未来から来ただけじゃなくてさ。ここ数年をループしてるの。 
わたしが死ぬと、世界ごとリセットされる。…はず、なんだけど……
ふふ。そんなの、信じられないかな?
何があったかなんて、そんなには言えないんだけど…
でもね、中々酷いんだ。この先の未来は。
…で、死んだ理由……簡潔に言うとね。

姉さん、失敗しちゃった。
これで3回目。

ごめんね。次は絶対、成功させる。
大切な妹を……わたしが救ってみせるからさ。」


ループなんて、子供騙しだと思った。
でも…あの賢い姉の言うことだ。もし、本当だったら?
……いま、私が生きているのは… 姉に置いていかれた、ループとやらにあぶれてしまった、
「三回目の失敗」の残骸で。

未確定な、このあとを。
貴方が「やさしくない」と表現したこの世界に、起こるであろう悲劇を、わたしは…


ポッドの表面に映った私の顔が、
少しだけ、姉に似ていて…… 思わず、曇りを拭う。 



……姉が死んで3年。
ポッドの中には、まるで死んだばかりのような……

3/3/2026, 3:21:14 AM

たった1つの希望


希望製造工場。
俺は最近、そこでバイトを始めた。

友達と遊ぶ金がなくて、なんとなく求人チラシを眺めていたんだ。
そん中に一つ、目を引く求人があった。

☆☆希望製造☆☆
アットホームな職場です。
年齢問わず大募集!住み込みもOK!

そんな、やけに派手な見出しから始まって…
概要はシンプル。工場で、「希望」とやらを作る。
ただそれだけ。なんとも怪しいが…時給が、すこぶる良かった……。
好奇心と欲に駆られ、ダメ元で連絡してみた。すると、面接も何もなしに、いきなり工場まで行って働けることとなったのだ。
 メールで伝えられた場所まで、自転車で30分程…
着いたのは山の麓にある、やけに町外れの工場。壁にはあのチラシがビッシリ貼られていて、鉄で錆びた配管が、床からにょきにょきと生えてる。
「ああ、新人さんかなあ!」
背後から声がした。振り向くと、白髪の、やけにクマがある、俺より年上そうな…お兄さんが立っていた。
「お兄さんについておいで。説明しよう」

 鉄の扉がギギギと音を立てて開いた。立て付けが悪いんだよねえ、とか言いながらお兄さんは進む。
随分と音が響く、殺風景な廊下を歩いて…
5つ目のドアの先、ベルトコンベアの前に着いた。
「手袋はつけてねぇ〜」
お兄さんは軽い口調で、俺にゴム手袋を手渡す。
「えっと…ここで、俺は…何すればいいんですか」
「ん?あぁ! 君の仕事はねぇ、希望の梱包だよ。
 お手本なったげるからさ、見てて」
希望。 チラシにも書いてあったが、なにかの商品名なんだろうか?
「希望って、そもそも分かる? おにーさんも最初に来た時はさあ、よく分かんなかったのよ」

ベルトコンベアに運ばれて、機械音と共に空っぽの缶がお兄さんの手元へ流れてきた。
「何かの食べ物かなあ、とか。製品名かな、とか。そんなこと考えてたっけなぁ」
お兄さんは、機械の下の箱から、何か光っているモノを出した。直径5cmくらい。ほわほわしている球体。
「でもね、実際はコレだったの」
それを手袋で掴み、流れていく缶に詰める。
ぎゅむ、と音がした。
「これが、希望。そのものだよ。
 きみの仕事は、今おれがやったみたいにさ、希望をカンヅメにし続けること。」
休憩は1時間に1回。
希望の持ち出し、及び盗みは禁止。
「やってみなよ。見てたげるからさ」
見よう見まねで、機械を触ってみる。
恐る恐るその、「希望」とやらを掴むと……ふんわりしていて、あたたかい。
持っているだけで、不安が浄化されて…安心する……
「そーそー。上手じゃーん!」
お兄さんも褒めてくれた。
でも、この物体が一体なんなのか分からない。気になる…

 その日から、俺は「希望」の正体を知るためにも、毎日その工場に通う。働く。
お金も貰える。お兄さんも良い先輩。素敵な仕事だ。
でも、何より…希望目当てで通うようになっていた。
フワフワのそれに触れているだけで、人間関係への不安や、将来への恐怖が和らぐ。
精神的な疲れも、肉体的な疲れも、すべて……
「おつかれー。よく働いてくれて、ほんと助かるよ」
気づけば休憩時間だ。
単純作業の繰り返しってのは、すぐに飽きて、疲れるものだとばかり思っていた。 …でも、この作業は…
「あはは。分かる分かる。休憩より、作業のが待ち遠しくなっちゃうよねぇ」
おにーさんも一緒だよぉ、とケラケラ笑う。
俺は心の何処かで、未だ希望の正体を疑っていた。

 そのうち、働きはじめて1週間が経った。
働く。働く。家に居ようが、学校にいようが、希望に触れていないと、手が震えて…不安で押しつぶされそうになった。
眠れないんだ。こんなのおかしい、おかしい…
「…今日も頑張ってんねぇ〜」
お兄さんの声が、また隣から聞こえた。
意を決して、尋ねてみる。
「…………お兄、さん」
「ん? なあに」
俺に顔を近づけて、聞く素振りをみせる。
「この希望って、… なにで、できてるんですか」
「……。」
お兄さんは少し間を置いて、それから。
「…たぶん、聞かない方がいいよ。教えられない。
 おにーさんみたいになっちゃうからね」
そう言って、俯いた。
彼の白い髪が揺れる。骨みたいな、薄い身体。
「それでもいいんです。教えてください。最近、よく眠れなくって…」


「…おにーさんもね、きみと同じだったよ」
  目を合わせずに、ぽつ、ぽつと話し始めた。

「まともな仕事、中々つけなくてさあ…
 生活費がなくて、いよいよお家もなくなった時…」
この工場を、落ちてたチラシで知った。住み込みもOKだったから、おれにとって、たった1つの希望で。
ほんとに縋る思いで工場に来たの。

そしたらね、そん時のおれより、背が高くて、不健康そうな細身な先輩がいて………
 おれさ、働きつづけた。ずうっと、一心不乱に。
気がついたら、その先輩はいなくなってて…働いてんのはおれ1人になっても、まだ詰めつづける。
希望に触れていれば、なんにも考えなくて済むから。
それを何年か…もしかしたら、何十年か続けたのね。

いつもみたいに、ダンボールに詰められて届いた希望を運んでたある日。
なんとなく、(どこから届くんだろうなあ)って気になってさあ。おれ、ベルトコンベアの先まで辿ってったの。暗い、地下に繋がっててさ。


箱の中さ、
先輩…だったもの、が、いっぱい入ってて。


そこに繋がってる管から希望が出て、ダンボールに詰められて、おにーさんたちの場所に、届いてたの。




「おにーさんもいつか、ああなるのかなあ」
…俯いたまま、そう云う。


俺、この仕事、どうやって辞めよう。

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