『明日雨なんだって』
『そうなのですか?ならば、傘を忘れないようにしなければいせませんね』
『雨のち曇り、ところにより快晴。気温は16℃前後、湿度90%あたり。風速はおよそ10m/s』
それで、次は確か…ああ、そうだ
『横殴りの雨が降るでしょう。』
『…つまり、傘では事足りないと?』
『正解』
あたしは外に出る予定は無いから覚えてても意味無いけど、こいつは出かけるらしいから一応。
前から気になってたワンピースがあるとかで、聞いてもないのに延々と素晴らしさを語ってきた。
昔からそうだ。一度気に入ったものはとことん好きになって追求したがる。それが人間だろうと虫だろうと無機物だろうと変わらない。
そのくせ、手に入れたら一気に興味をなくす。今まで悲惨な目に遭ったものを何回見てきたことか。
「…別に、お前まで"被害"に遭わなくていいんだけど。」
まあ、自業自得ってやつ?
雨で滑るから気を付けろって注意してやったのに。
バチが当たったんだよな、きっと。
相手の気持ちを考えないからこうなるんだ。
でも、できればお前をプラス一にはしたくなかったな
最後のメッセージは、無事にワンピースを買えたことに加えて、車について語ったものだった。
@寝華
#君と最後に会った日
「見てあれ!」
「は?」
「いーから!!」
ぴょんぴょんしながら空を指す。
そこに目をやっても、見えるのはただただ真っ黒な世界。
こんぺいとうみたい!と横で騒ぐこいつには何が見えているのだろう。
「…帰るよ」
そう言いながら手を差し出す。
「え〜…?もうちょっと見てようよー!!」
「いや、だから…」
やだやだ、と子供のように首を振る。
家帰ってもベランダから見ればいいだけなのに。
最近めちゃくちゃ寒いから、と言って引き出しの奥の方から引っ張り出した白いマフラーが、暗がりの中でもよく分かる。
少し、もう少しだけ。
「帰ろう」
「いーやーだ」
@寝華
#星座
「なんそれ、アロマ?」
「んーん、香水」
明日恋人と初デートするからオシャレなもん買ってくる、と意気込んで買い物に行って6時間。
ショッピングとか興味無いやつだったから、きっとすぐに帰ってくるのをからかってやろうと思っていたのに拍子抜けだ。
しかも6時間も買い物していたくせに、買ってきたのは香水のみらしい。
普通は服やバッグなど、ぱっと見てすぐに分かるようなものを買うのに。やっぱり、こいつに"普通"は通じない。
「なんの匂いのやつ?」
「え、あー…分からへん」
「はあ?」
「見た目がオシャレやったから…つい。でもこれ1万してんで、そこそこええ匂いするやろ」
いい匂いだったとしても、付け方が違かったら匂いが強くなって、たちまち不快な匂いになる。そうなってしまえば元も子もない。
「お前、付け方知ってん…ちょ、付けすぎやって!」
「うわ、ごめんごめん!」
「ほんま…自分の部屋でやれや!」
ああもう、絶対気持ち悪くなる。
今のうちに窓を開けておかないと匂いが移ってしまう。
それにしても、今回はどうもらしくない。前にいた恋人との初デートでもこんなに張り切ることはなかった。けど、服は買ってこない。オシャレな服なんか持っていないのに。
俺が貸すしかないかもな。
…嫌だな、俺の服着て、その香水を付けられるのは。
「じゃ、俺、明日どこ行くか考えてくるわ」
「……おー」
浮かれ野郎が去って、窓も開けているというのに、匂いは残ったまんま。
「あまったる…」
気持ち悪い。
@寝華
#香水
いつか夢見た空。
青くて、きらきらしてて、なんでこんなに綺麗なものがこの世界にあるのだろう、と不思議だった。
でも今なら分かる。
「…なにしてんだろ〜ね、」
ほんとに。
あんな腐った施設には耐えられなくなって、自立しようと決心した5年前。
少しずつお金を貯めて、やっと溜まった2年前。
無事抜け出すことは出来たけど、施設の人間に見つかって連れ戻された今日。
お仕置きと称して入れられた拷問部屋。
でも、殴られるようなことなんてされなくて、逆に何もされない。食べ物も貰えないし誰も来ないから、多分もう餓死しかない。
ただ、見張りのようなやつはいる。
見たことある、というより見慣れすぎている。施設にいた頃よく仲良くしてたやつだ。こいつも俺のこと恨んでたりするのかな。
それにしても、見張りをつけるまでして俺を逃がしたくないのか。なんか光栄だな、そいつに煽ってみても反応しない。
他の子を助けずに1人だけ逃げた罰なのかなぁ、なんて。
今日の空はあいにくの曇り。
きらきら輝いていた青は灰で覆い尽くされてしまって、
悪に染められた人間のよう。
「…ね、」
@寝華
#空模様
「あのね、私、あの人と付き合うことになったの」
ずっとあの人のことが好きだった。
友達にあの人の好きなところを言ったり、相談したり。そんな日々を過ごしてた。
好きで好きでたまらなくて。だから、告白してくれたときはその場で飛び跳ねてしまいそうなほど嬉しかった。
これからあの人と一緒に歩んでいくんだ、って信じてやまなかったのに。
「わたし、あの人のこと好きかも」
ふざけないでよ、ぽっと出の存在で。
あんたなんかが私からあの人を取ろうとするなんて。
「ねぇ、わたし今日あの人と話せたの」
話せただけで何?
あの人の隣は私だけなの。
「あの人ね、今好きな人居ないんだって
だからわたし、立候補してきちゃった」
みんなにはこの関係を内緒にしてるから、あの人は気を使ってくれただけ。
そんな嘘に騙されるなんて。
やっぱりあんたはあの人のこと分かってない。
「あのね、私、あの人と付き合うことになったの」
分かってない、はずなのに。
いつから?
あの人はいつからわたしに飽きたの?
「ねぇ、私の気持ち、分かった?」
うん、分かった。
わたし、あなたに酷いことしちゃったんだね。
あの人の目には、誰も入っていないらしい。
@寝華
#視線の先には