「信頼できる仲間を探しているんだ」
そう言って手を差し伸べてきた勇者を、怪訝そうな顔で見上げる魔物
「僕は人間を殺した魔物だ。信頼も何もないじゃないか。憎むべき存在じゃないか」
そう言うと勇者は憐れむように眉をひそめ、
「それは彼らが君を殺そうとしたからだろ。正当防衛さ。それに僕は君を信じちゃいない。僕は、君を信じる僕自身を信じているんだ。」
懐かしい夢を見ていた
魔王を倒した勇者一行は既に死去している
今、世界の秩序を守っているのは、勇者一行の生き残りである魔物、たった一人だ
「ねぇ、なんでせかいのちつじょをまもりつづけているの?」
街の子供が尋ねると、魔物は決まって答えるのだ
「僕は彼らが迎えにきてくれるのを待っているんだよ。だって彼らは唯一僕を信じてくれた『仲間』だもの」
彼にとっての仲間は種族でも年齢でも性別でもなく、本当に信頼できる存在なのだろう
勇者が彼を信頼していなくとも、この魔物は心の底から勇者たちを仲間と思っているのだ
日の沈む中、小さな小さな手を繋いで、帰宅道を歩いていた
小さな小さなその手のひらは、似つかわしくないギュッと力強く私の手を握る
ニカっと笑い、
「お父さん、今日の晩御飯は何?」
と聞く
嗚呼、この生活がいつまで続くのだろうか
幸せは永遠には続かない
だから、私はこの手の力強さを忘れないように、この子に負けないようにギュッと握り返し
「お前の好きなものさ」
とキザに答える
この日が永遠の思い出になりますように
ありがとう、ごめんね
屋上の柵の上
不安定な底に立つ貴方
スローモーションに感じるが、僕の手は貴方に届かない
「待って、行かないで!」
叫ぶ僕に君は笑いかける
「ありがとう、ごめんね」
重力に従い、君の体は真っ逆さまに落ちていく
笑いかける君が、頭の脳裏に焼き付いて離れない
「ごめんね、守れなくてごめん」
どうすることもできず、僕はその場に崩れ落ちた
部屋の片隅で寂しそうに見つめてくる貴方のぬいぐるみ
もう、持ち主と再会することはない
貴方はもう、戻ってこないから
このぬいぐるみと私を置いて
部屋の片隅で寂しそうなのはぬいぐるみだけで無いことを貴方は知らないのでしょうね
逆さま逆さま
いつも喧嘩ばかりのあの子
私にとってあの子は悪、間違ってる存在
でも、あの子からして私は善?
きっと悪
逆さま逆さま
私の敵はあの子であり、あの子の敵は私である
じゃあ、私の味方は私?あの子の味方はあの子?
きっと私の敵は私だろう
逆さま逆さま
善も悪も世には無く、あるのは矛盾と思い込み