人生は長く、そして悲しみに包まれたものである
人との出会いと別れ
永遠の時間を共に過ごすことは許されない
大切なあの人だって
記憶の中でしか会うことができない
会いに行くのは簡単なのかもしれない
きっと、決意が固まればいつだって会いに行ける
でも、そうしないのはきっと
記憶の中のあの人が
笑いかけてくれるから
下を見る
辛い時は下を見る
真っ黒なコンクリートが一面に広がって、自分が今どこに立っているのかも分からなくなる
上を見る
永遠の暗闇に星が眩い
どんな暗闇の中にも、必ず光があるのだと
教えてくれる
小学生になれば好きなことができる
中学生になれば友達が増える
高校生になれば夢が増える
社会人になれば自由が増える
いつだって希望は未来にあった
どんな未来になるかは自分自身が決めることだ
まだ見ぬ景色は自分が作るものだ
夜な夜な、仕事終わりにコンビニに寄る
人の少ない店内で、一人用のショートケーキを購入する
雪が降る中、イルミネーションの前でいちゃつくカップルを横目に、家路を辿る
悴んだ手でドアノブを捻り、誰もいない室内に
「ただいま」
と呟く
荷物は放って、無造作にスーツを脱ぐ
先ほど購入したショートケーキと、一緒に買ってきたコンビニ弁当を広げ、テレビをつける
クリスマスの特集だ
クリスマスの思い出
街ゆく人は必ず相手がいる
弁当を貪り食っていると一人の男性が目についた
何でも独身で、今から帰宅するそうだ
自分と同じ境遇の男に自然と親近感が湧く
『じゃあクリスマスは誰かと一緒に過ごす予定はないんですね』
とある芸能人の質問に、鼻を赤くした男が答える
早く帰りたいだろうに
『そうですね、今年も相手はいないので一人です。クリぼっちです笑』
『今街ゆく人にクリスマスの思い出を聞いているんですけど、何かありますか?』
『思い出かぁ、、そう言われると、思い浮かばないけど、、あ!でもね、毎年両親に感謝の電話をかけてます』
『ご両親に?そりゃまた何で?』
『だって、クリスマスってキリストの誕生日を祝うじゃないですか。でも日本はキリストと深い関わりがあるわけでもないし、ましては教会に出向くなんてこともない。それに仕事とか学校も祝日にならないし笑。ヨーロッパではキリストが何よりも大切な存在なんですよ。生き方を教えてくれて、人生の苦悩から救ってくれる存在だから。じゃあ、僕にとって生き方を教えてくれて、辛い時はそばにいてくれたのって誰だろうって考えた時、不思議と両親の顔が浮かぶんです。だから僕は毎年、両親に感謝の電話をするんだと思います。』
スタジオで「偉い!」という言葉が飛び交った
『じゃあ今日も帰ったら電話するんですか?』
「そうですね、もう寝てるかもしれないけど、ダメ元で電話してみます笑』
何よりも大切な存在か
そう考えた時、自分も両親の顔が浮かんだ
電話、してみようかな
先ほど放り投げた鞄を引き寄せ、中から携帯を取り出す
母の電話番号を押し、携帯を耳に当てる
何故か緊張している
『はい、もしもし』
母の声だ
すぐに出たな笑
『あ、母さん?俺だけど…
風邪
「あちゃー、38,5℃かー。今日はゆっくりと寝なさいよ。」
そう言うと母は、お粥を置いて出て行った。
久しぶりの熱で抵抗力の弱った体では、この頭痛も喉痛ま堪ったものではない。
世界が渦巻いて見える視界で、天井を見る。
ぐるぐると回る電気や、天井が気持ち悪い。
この部屋は和室だから、私は畳の上に敷かれた敷布団の中で眠っている。
母の消えて行った障子を見つめる。もう夜の7時だからだろう。電気はついていても、何処となく薄暗い。
風邪を引くと、どこか虚しい。
「おばあちゃん。」
3年前まで生きていた祖母は、私が熱を出すと、ずっとそばにいてくれた。
会いたいな。
久しぶりにそう思った。
私はゆっくりと目を閉じ、少しでも寝れるように心がけた。
その時、不意に外がパッと明るくなった。
まるで真昼のような光が、障子を超えて、室内に入ってくる。
なんだろうか。
不思議に思って、障子へ目を向けた時、何か狐のような影が見えた。九つの尻尾、こちらを見るような顔、
これが世に言う九尾の狐だろうか。
そう考えた瞬間、唐突に眠気が襲った。
私は抗うまもなく、眠りについた。
次の日、目を覚ますと風は完全に完治していた。
「すごいわね、あんなに高かったのに。」
お母さんが驚いて言う。
「そういえばね、お母さん。私、昨日不思議な夢を見たの。」
私は昨日見た事を事細かに話した。お狐様のような影を見た事、不思議と怖くなかった事。
「なんか、お義母さんも同じ事を体験したって、昔話してくれたわね。」
不意に母が言った。その言葉で、私はもしかしてと思った。
あの時、私は祖母に会いたいと願ったのだ。もしかしたらあのお狐様は祖母の代わりに私を看病してくれていたのだろうか。
不思議と心が温かくなった。