#26 抱えていた秘密。
一年前のあの日は、自分の命の長さを知った日だった。
余命。まさか、自分にそんな言葉が降りかかるとは。
絶望、その2文字だけ頭の中を埋め尽くした。
でも、その気持ちを乗り越えて、残りの人生を明るく楽しもうと決意した。それから、身体が弱っていくのを感じてはいたが、挫けることはなく楽しく過ごせていた。
そんなある日に、初めて発作が起きているところを見られたのだ。今まで、タイミングが悪いときに発作が起きることもなくて、救われていたのに。
そして、見られたのは…クラスメイトの"彼"。
落ち着いている雰囲気で、優しい人だった。そのイメージ通り、見られた時はすごく心配されたけど、必死に大丈夫、だと言い張り逃げてしまった。
見られてしまったという気持ちと、助けてくれる人がいたという気持ちが混ざり合い、複雑な感情が生まれた。
せっかく、自分の気持ちも押さえて、誰にも迷惑をかけず、秘密にしておこうと思っていたのに。
心のどこかでは、すごく嬉しかったけど、本当に幸せになることはもう、諦めていたのに……。
"彼"のせいで素直に楽しみたくて、仕方がなくなったじゃん。
この先も、本当の気持ちを出して、幸せになりたくなった…。
もう、誰も悲しませないように、
自分は幸せにならないって決めたのに………。
複雑な感情にも、慣れなくて不思議な大粒の涙を流した。
___哀愁をそそる
#25 完結。
鏡の中の自分は、いつも泣いていた。
本当の自分はいつも悲しくて泣いていたのに、みんなにはずーっと、明るい笑顔を見せていた。平気なふりをするために、何も考えていないかのように笑っていた。
自分が何かを抱えているということを
知られたくなかったから。
ずっと隠してきた事。
_________病気。そして、長い命ではない、ということを。
平気なふりをして、病気だということを感じさせたくなかった。普通の中学生でいたかった。
"沢山の人生がある場所"。それは、学校で、みんな未来があって、その未来が輝いているということが羨ましくて……。
誰にも分からないように、明るい笑顔な自分を演じてた。
でも、自分の心には嘘はつけない。自分だけが見える鏡の中の自分は泣いていた。崩れ落ちて、ただ孤独で泣いていた。
助けてほしい、という思いさえも誰にも届かずに。
苦しみを見せて、一人で抱え込まなければ、助けてくれる人がいる、ということも気づかないで。
___鏡の中の自分
#24 半月が綺麗な夜空の下。そろそろ、寝よう。
ベットの中に入る。でも、なかなか眠れない。
毎日考えてしまう。あと、何日だ、と。
確実ではないけれど、宣告されている日付はだいたいわかってしまう。今日も、時間を大切に、楽しく過ごせたと思い返し、明日も来ますように、と願う。
今日は、いつもよりも発作の痛みが倍になっていた………。
そう悲しく思いながらも、できる限り、この現実から目をそむけて、必死に忘れようとした。
自分で自分に声をかけて、心の奥の恐怖を慰めていた。
大丈夫、大丈夫。と。
___眠りにつく前に
#23 月が雲にかかってぼやけていた。
いつもよりも優しい光がある。
心も落ち着いて、優しい気持ちになった。
こんな気持ちが永遠に続いてくれれば良いのに。
そしたら、ずっと幸せでいられる、苦しむこともなく。
なのに、なんで…私だけがこんな目に………。
平気なふりして生きて、泣きたい気持ちを必死に隠して、溢れ出す涙を堪えながらよく笑っていた。
誰かに心配して欲しかった。
___永遠に
#22 夜になりかけている空に三日月が光っていた。
月の光が眩しくて、美しい。
ずっと、笑っていたかった。
何も考えずに、何も気にせずに。
今は、笑うだけでも、何かしら考えておかないといけなくなったから。笑いすぎると、息が苦しくなるから。
何もストレスなく生きていけないのだろうか。
自分が楽しくて、ただ幸せで仕方がないような毎日を。
月夜に自分自身も輝けるような。
月にならないことを願うけど。なりたくないよ、生きたい。
こんな夢が叶わないことは知っているけど、
どうしても願ってしまう。叶ってほしいと、毎日。
___理想郷