#21 空が淡い虹色になっていた。
夕焼けの時間。下の方は、暖色で上に行くほど寒色になっていく。綺麗な虹色のようなグラデーションだった。
あの頃が懐かしい。
何も考えなくて、ただ毎日が楽しかった。
必ず、明日が来ると思っていた。
幸せだった、あの頃に戻りたい。
1年前のあの日が一生、来なければ良かったのに。
___懐かしく思うこと
#20 空は、鰯雲に覆われていた。
青色の白色。バランスの良い美しい色だった。
あの"彼女"みたいに……。
クラスメイトの"彼女"は明るくて、いつも笑顔だった。心優しい人だけど、元気で天然なところもあるのが可愛らしい。
つい、そう思ってしまう。
でも、あの日、廊下を歩いていただけなのに、
見てしまった。一人で苦しんでいるところを。
同じクラスになってから、俺とどこか似ているところがある気がしていた。同じ雰囲気があるような気がした。
だから、助けたいと。
俺自身、苦しく辛い時でも誰にも頼れなくて、ずっと一人で抱え込んできたから。本当は、平気なんかじゃないのに、平気なふりをするのが笑えるほど、うまくて……。
何も聞いていないけど、いつもの"彼女"の様子から、気持ちが痛いほどわかったから。
そして、「大丈夫…?」と声をかけた。
本当は、「大丈夫?」と言ってはいけない。
答えは、必ず「大丈夫」になるから。
けど、今の俺の立場と"彼女"との関係からして、
知ったようなことはいけないから、ただ、誰でも言ってしまいそうな言葉をかけた。
案の定、"彼女"は「大丈夫」。そう言ったけど、しゃがんでいた身体を起こして、走り出した瞬間にきらっと光が見えた。
それは、目から溢れ出した雫。綺麗だった。
走っていく、その背中にもう一度「大丈夫」と言った。
俺は、助けたいと思った。
………………きっと、"彼女"と同じ命だから。
___#12のもう一つの物語
#19 曇った灰色の雲が広がっていた。
暗がりの中で生きている。
なのに、必死に明るさをたもって、好かれる人を演じていた。
無理に強がって、「さすが」や「安心する」そんな言葉が似合うようになった。別にそれが良かったのに、嫌じゃないのに、とても苦しくなった。
そのうち、体はさらにボロボロになっていった。
あの日、告げられたこと。
日が経つうちに、発作が激しいなっていく。
それはもう、頻繁に。
誰にも迷惑をかけないように。
暗闇の中でもがきながら、人には笑っている。
___暗がりの中で
#18 気持ちのよい秋風。
冷たい空気の中、ゆっくり深呼吸をする。
体の中のものが全て入れ替わったような感覚がした。
"沢山の人生がある場所"から家へ帰る。
あの場所は、楽しいけど疲れる場所でもあった。
ドアを開けると、紅茶の香りがした。
久しぶりだな。そう思いながら、柔らかい椅子に座る。
心の余裕なんかなくて、紅茶を飲もう、とも思っていなかった。生きることだけに必死で。
淡い色のマグカップから、白い湯気が出ていて、
なんだか、可愛かった。
ふぅ〜、と息を吐きながら、温かい紅茶を飲む。
体も、心も、一気に温まる感じがした。
やっぱり、心に余裕がないとリラックスなんてできないし、
この一日が大切だということも気づかない。
世の中には、そんな人がたくさんいる気がする。
昨日も今日も、いい日だった。
明日という日がきますように。
そして、多くの人の心に余裕ができますように。
この世が平等になりますように………。
現実は、何も平等ではないから。
そう願って、紅茶を飲み干した。
___紅茶の香り
#18 今日は、ただ晴れていて明るかった。それでも、風は少し冷たくて、秋を感じられた。
自分の心も、晴れていた。
とても小さな事だったけど、良いことが沢山あったから。
何気ない日々の中の小さな小さな事でも、積み重なって、大きな幸せを感じる。
クラスメイトの"彼"とも話せたわけだし。
愛とは、まだ違うけど、もう一つの……あの言葉では表せるのかもしれない。
少し、顔を赤らめながら、楽しかったな、と思い出す。
自分には、"いつか"は来ないかもしれないけど、今すぐじゃなくて、"いつか"愛の言葉を言ってみたい。
明日も、明後日も、、。生きることができますように。
___愛言葉