あいまいな空
空が暖色と寒色がきれいにグラデーションしている時間。そんな時間にあるマンションの一室、落ち着いた声が響いていた。
「今は朝、昼、夜のどの時間か分かる?」
「分からない。」
その答えで僕の心は喜びで満たされていた。
それもそうだ。こんなに時間がかかったんだから…
1週間ほど前、ある1人の女性を誘拐した。
始めは反抗的で、毎日叫んでいた。「助けて!」と、助けなんてくるはずないのに………
そう思いながらその光景を眺めるだけで、僕がこの子を誘拐した利益が十分にあったと言えた。
その子のいる部屋はシャッターが完璧にしまっていて、日の光なんてものは1ミリも入ってきてこない。おまけに時計もない。いつか狂って、朝か夜か区別できなくなってしまったらどれだけよいものか………。そう期待を高めながら、毎日同じ質問をする。
「今は朝か昼か夜どれか分かる?」
「夜。」
まぁまだ1日目だし、こんなもんだろ。
そう思って始まった誘拐生活も早1週間。
長かったやようで短かった。
(けっこうこの子ちょろいな)
そんなことを思いながら、さっきの答えが脳内をループしている。(「分からない。」)
あぁ、まさか1週間で感覚が麻痺するなんて…。
おかげで、あの子は虚ろな目をしている。
部屋の隅には睡眠薬。
(あぁ、可哀想。なんもしてないのにね。)
そう思いながら笑みを向ける。
彼女は無表情。だが、それすらも可愛さを感じた。
(よし、今日はこれぐらいでいいかな。)
そう思ってその一室から出る。「ガチャ。」
鍵かけも万全だ。
この先は僕がしらない話。
僕が去っていった瞬間、彼女の目は一回まばたきをすると、しっかりと焦点があっている目へと変化した。
(まじ、あいつちょろすぎ)
今は、朝か、昼か、夜か、それともそれ以外か……
彼女はシャッターを開けながら思った。
(ほら、やっぱり夕方じゃん。)
彼女が見上げる空には、虹色に近いあいまいな空が広がっていた。
あじさい
「どうしたの?急に」
「いや、なんでも、ただ青い紫陽花きれいだなーって思って見てるだけ………」
そう、ただ見てるだけ………
別にあなたへの疑いなんかじゃない……
でも、それでも、あなたからはそんな気がする。
「ほら、やっぱり。」
あなたの部屋には、あなたも私も、使ったことのない濃い色のリップ。
どこからでもかすかに匂う甘い香水。
その瞬間決定的になったそれ。私は冷淡に対応した。元々少なかった荷物をまとめ、家で育てていた青い紫陽花と手紙をあの人の家の机において帰った。
「さよなら。」
青い紫陽花の花言葉→「移り気」「浮気」「冷淡」「無情」
やりたいこと
「チュン、チュン」
今日もいつもと変わらない鳥の鳴き声で目が覚める。ペットボトルの水で口をゆすぎ、顔を洗う。
そうして目が覚めたらカーテンを開ける。
目が覚めていても突然の太陽の光には勝てることはなく目を細める。「まぶしっ」そう言いながらも、毎日同じことをしている。いわば日課だ。
朝起きてから服を着るまでのルーティンは毎日一緒。違うところといえば、毎日服が変わる。
高級ブランドの日もあれば、プチプラの日もある。すべては気分だ。気分で決まることはファッションだけでなく、今日1日することも決まる。
今日することが決まると足取り軽く友達の家に突撃をしにいく。これもまた日課だ。
「よっ!今日することが決まった!」
「ふぁぁぁ、なに?」
友達はまだ寝起きらしく大きく欠伸をしていた。
「ずばり!…………寝る!」
「あっそう。じゃあ、おやすみ」
「ちょ、まてまてまて。冗談だよ。」
「えっ、なんだよ……まじかと思ったじゃん。」
「そんなわけないじゃん!」
「はいはい、じゃあ本当は何ですか?」
「よくぞ聞いてくださいました。すばり………決まっていない!」
「なんだよ、てめぇ、しばくぞ。」
「いや、ごめんってたまには2人で考えてようかなって……」
「あー、なるほどね。」
さぁ、今日はどんなやりたいことをしようか。
2人しかいないこの広い世界で……。
fin
世界の終わりに君と
「ねぇ、世界が終わる日なにして過ごしたい?」
「なに、急に」
「よくあるじゃん!あと数時間で世界が終わるなら 何しますかー的な?」
「まぁ、あるけど、」
「あるよね!だから何がしたい?」
「あるけど、それからそこまでとんでいくのは意味 が分からん」
「まぁまぁまぁ、そんなケチなことは言わずに…」
「じゃあ、いつも通り過ごしていたい。」
「えっ!もっと何かないの?!」
「なんかー……贅沢したい!とか学校サボりたい!
とか…ない?」
「ないよ。ただいつも通り過ごしていたい。」
「ちぇっ、つまんないの、」
そう、ただいつも通り、貴女と喋りながら過ごせたら…ただ、それだけを望む。
出来ることなら、この世界が終わる終期まで、貴女と喋っていたい。
貴女といるこの時間が宝物だから…
「ねぇ、なんで突っ立ってんの?」
「はやくしないと置いていくよ!」
「ちょっと待って、すぐ行く!」
やっぱり、貴女は私の太陽だ……
バックを背負って、セーラー服を着ている2人組。
1人は楽しいそうに喋ってて、1人は分かりにくいがきっと嬉しそうに相づちをうっている。
そんな2人は夕陽に背を向けて歩いていった……。
fin
失恋
高校生の僕はいわば陽キャだ。
正確に言えば高校生デビューをした陽キャだ。
始めはどうなるかとことかとひやひやしていたが、高一の秋になった今ではそんなことは少しも思わなくなった。
そんな高校生デビューした僕にも好きな人ができた。僕は自分の良いところをさりげなくアピールしたくて、とにかく人あたりの良い優しい人なった。
おかげで雑務を任されるようになってしまったが仕方がない。僕も好きでこれをやっている訳ではないのだから……。
そうして過ごしているうちに一学期が終わりそうな季節になっていた。
そして、修了式の今日、あの人に告白しようと思う。僕は今まで、人当たりの良い優しい人を始めとし、さまざまな仮面を被ってきた。すべてはあの人と付き合うため。
正直とても苦しいこともあった。それでもがんばれた。それで、彼女の彼氏になれる可能性が上がるのならば………。
「好きです。付き合って下さい。」
王道のセリフを放課後、体育館裏で言った。
「ごめんなさい。今の君とは付き合いたくない。」
あぁ、呆気なく終わってしまった一年間の恋…
「そう、ですよね。高校デビューした僕なんてまだあなたには相応しくないですよ…ね、」
徐々に自分で言ってることが苦しくなって、語尾が濁る。
さっさとこの場から立ち去りたくて、早足に言った。「返事を返してくれただけでも、嬉しいです。」「ありがとうございました。」
「あっ、ちょっとまって。」
「私は仮面を被った君が付き合えないの……。」
「だから、仮面を全部外せた時、まだ好きでいてくれたら、告白しにきてくれないか…な?」
えっ、まさかの言葉に頭が真っ白になるが、すぐに嬉しさの色にそまる。
「はい!絶対行きます。」「待っててください。」
まさか、好いてもらおうと被ったものが逆な結果をうむなんて…やっぱり、自分らしくいたほうがいいよね。
fin