梅雨
「今日から、梅雨のシーズンとなるでしょう」
テレビから聞こえてくるその言葉に僕はテンションが上がった。「やったー!梅雨だ!」
僕は雨が好き。だって、雨の日に外に出ると雨が大合唱してるから。晴れは人がいっぱいいてそれも、それで大合唱だけど、なんだか居心地が悪い。
でも、雨の日には人も少ない。最高だ。
みんなは梅雨が嫌いらしいけど、僕にはなぜ嫌いなのか分からない。
今日もいつもの長靴を履いて、傘を持って、外に出る。「わぁ」いつもより、多い雨に僕は感動する。
あちらこちらから止むことなく音が聞こえてきて、大合唱より大大大合唱のほうが合ってるぐらいだ。
僕は、傘をさして、道路に出る。傘が水をはじいて音が出る。それもまた、楽しい!自分が下にいるから、まさに特等席で、大合唱を聞く。
今度は、長靴で歩く。すると、地面の水が「ピチャピチャ」鳴る。大袈裟に歩くともっと大きな音が鳴る。水溜まりに入ると、1番おおきな音がする。
これで、僕も大大大合唱の仲間入りだ。
普段友達が苦手だから、この友達はとても大切となる。だから僕は雨が好き。
fin
終わりなき旅
俺はある人を探している。その人がどこにいるのか何をしているのかは一切分からない。
ただ、見た目と名前、性格だけを知っている。
だから、行くところどころで聞き込みをしている。
目撃情報がなかったら次の町、都市へ…またなかったら次の所へ…を繰り返している。
今現在、俺はほとんどすべての町、都市を巡った。
彼女はエルフだ。そう見た目が変わるわけではない。訳ではないはずなのになぜこんなに見つからない!一向に兆しが見えないのだ。でも、諦める訳には行かない。なぜなら、彼女と追いかけっこをしているからだ!
絶対に見つけ出してみせる!こんな些細な戦いにここまで燃えれるものなのかと不思議に思う。
でも、きっと心のどこかでは気づいているのだ。
自分が旅好きなことは…
「まったく…俺も師匠に似ちまったもんだ…」
そう言いながら空を見上げる。
師匠も同じ空みてんのかな……?
「まぁ、いいや!さぁ、聞き込み聞き込み!」
そう思い空から視線を反らしたときにある1人の女性とぶつかってしまった。
「すいません、大丈夫ですか?…………え?」
ぶつかった相手は僕がずっと探していた彼女だった。
「おぉ、久しぶり!大きくなったなぁ!」
そう言いながら僕の頭をなでる。
(そういうところはほんと変わんないよね。)
さぁ、俺たちの追いかけっこは終わり!これからどうやって、のんびり過ごそうか……
「そういやお前さん色々な所に行ったらしいな!」
「あぁ、ほとんどの所は回ったさ。」
「じゃあ、これからは一緒に旅をしよう!
その案内役をお前に任せる!」
「えっ、なにそのムチャ振り…」
「さぁ、そうと決まったら行くぞー!」
「あぁ、はいはいしゅぱーつ(棒)」
乗る気でなさそうな返事をしながらも内心嬉しくなっている自分が悔しい。
これからの俺の…嫌、俺たちの旅にはどんな試練が待ち受けているのだろうか……。
そう思い太陽を見上げる。旅立ち日和な快晴。
いいスタートだ!「おぉーい!置いてくぞー」
「えっ!まてよ!」
さぁ、俺たちの終わりなき旅の幕開けだ!
fin
「ごめんね」
私の母は物事が悪い方向に向かっていくと決まって
「ごめんね」と口にした。
たとえ、自分が悪くなくとも……。
その言葉に本来の意味は込められていなくとも、
物事をおさめるために使っていたその言葉は無意識に母の心の中に塵積もっていたのだと今なら思う。そして、その言葉は自分が悪くない立場のときほど、自分の中で無意識に不の言葉と変換されて、塵積もっていく。
その結果私の母は「他者承認欲求」になってしまった。なにかあるたびに「私は必要?」「私、役に立ててる?」と聞いてくるようになった。
そして、適当にあしらってしまったあかつきには、
「私は必要なかったの?私はあなた達にとって邪魔だったってこと?」
「じゃあ○んだほうがいいわよね」
と包丁を自分の首に当てるようになった。
だから、なるべくいつも頑張って返事をしている。
母をこのようにしてしまったのは自分達の失態なんだから…と言い聞かせて……。
でも、あのときはなるべく時短で済ませたかった。
なんてったってあの日は母の日だったからだ。
私の家は母の日をしっかりする家で、私も小さい頃から手紙を書いていた。母が他者承認欲求になってからもなんとか合間をぬって毎年書いていた。
その手紙を渡すとどんなときの母もとても喜んでくれて、その顔を見ると私も嬉しくなるほどだった。
だからあの日はなるべく話かけないでほしかった。
だが、そんな思いが届くはずもなく、なんならついもより多く話かけてきたほどだ。
始めの方はしっかり対応していたが、だんだん時間が迫ってきて、あまり母の方に意識が回らずつい
軽くあしらってしまった。
(よしっ!できた!)「お母さん!出来たよ!」
そう言い振り向いたときはもう手遅れで、私の母は自分の首に包丁を当てようとしていた。
「私、邪魔になってるんだね……」
私は必死で弁解をし、やめるように頼んだ。
それと同時に私がしてしまった事への重大さを身をもって実感した。
なんとか止めないと、自分がしてしまったんだ、自分でなんとかしないと………。
そんな膨大な思いを体は処理出来なくて、ついに私は、泣き出してしまった。
そんなこともお構い無しにどんどん包丁を首に当ててゆく母。
それを見ているのが本当に苦しくて、悔しくて、
どんな手をつかってでも止めたかった。
私が撒いてしまった種なのだから。
だから私は、自分の片手を母と包丁の間に入れ、もう片手で手紙 を持った。そして泣きながら言った。
「ねぇ、○ないで!!手紙、今年も書いたよ。」
その声はあまりにも細くて、とても震えていた。
私の目から溢れる涙は、手紙の上にぽたぽたとおちていて、そのところの色は濃くなっていて、水玉模様のようだった。
床には赤い液体がぽたぽたと音をたてて水溜まりをつくっていた。
母はやっと、正気に戻ったようで、包丁を手放し、膝から崩れおちて言った。
「ごめんね。こんな母でごめんなね。」
ここ数年は聞いていなかった口癖になんだか、昔にもどったような気がして、私の涙腺はもっと緩んだ。「私もごめんなさい。」
fin
半袖
あつーーい!!
最近は暑すぎる。雨でも暑い。
学校の帰り道なんて特に地獄。
「うぁー、とぉ~けぇ~るぅ~」
そう唸っているのは私。そんな私の横で、普通にキョトン顔でいるのは私の友達。こんなにも違う理由は周りからみれば一目瞭然。私の友達は涼しそうな半袖。それに対し私は長袖。
とけそうな日も長袖な理由は簡単、私は半袖が苦手なのだ。この文章だけを見ると私がとても悪いように思えるがそうではない。
私は小学生の頃いじめられていて、そのときの季節は夏。服装は半袖だった。だから高校生になった今でも、半袖を着るのには少し抵抗があり、買ってもすらもいない。
でも、こうして友達を見ていると本当に羨ましくなる。心情は着たいのに、身体が本能的な拒否をだす。同じ私の体だというのに、まるで意見が違う。
意味が分からない。
それでも、変わらないことにはかわりがないのだから、これからもとけそうな日を耐えなければならない。
「早く冬来て~」そう嘆きながら今日も長袖でとけそうな日を過ごす。
fin
月に願いを
僕は夜が好きだ。
誰にも邪魔されない、昼間のようにうるさくない、静かなこの刻が……
静かで何も考えない夜だからこそ、無意識にあの人のことを考えてしまう。どこに行ってしまったのだろうか。
あの人は、僕の胸と記憶に深く刻みを入れたあと、突然消えてしまった。
満月の日はあの人を思って手紙を書く。本人には届かない手紙を。手紙の内容は、その日その日にあの人に向けて思ったことを書く。そして、最後には
いつも決まって「ありがとう。」この5文字の感謝を書き、封をする。
あの人に会うことができたら1番に伝えたい言葉。
あの人に出会う前の僕の世界は黒白だった。僕のしている仕事にも誇りを持てなかった。でも、あの人に逢えて僕は、僕のしている仕事に誇りを持つことが出来た。世界だって様々な色を放った。あの人には感謝してもしきれないほどだ。
こんなに気持ちがあっても、あの人は僕の前に姿を表すことはなかった。以前より、仕事に誇りを持てるようにはなったが、あの人がいなくなってからの僕の世界はまた黒白の世界に戻ってしまった。
それほどまでにあの人の影響力は大きかった。
「もう1度逢いたい」
だから、満月の日に月に願いながら手紙を書く。
満月に願うと、どの日の月より願いを叶えてくれそうと、そう思ってしまうのだ。
僕の力では見つけ出すことが出来なかった。
僕は、あの人の何も知らなかった。力不足だった。
だから、皆が見えるであろう、月に願ってしまう。
あの人も見ることのできる月に向かって……。
「ここに帰ってきて」と、「逢いたい]と、
「あなたの居場所はここではないのか?」と、
願ってしまう。問いてしまう。あの人ではない月に…。
そして、あの人に会えた日の夜には
「今日は月が綺麗ですね。」とそう言いたい。
こんな膨大な想いや願いさえ受け止めてしまう月なら、僕の願いを叶えてくれると、そう錯覚してしまう。そう望んでしまう。そう願ってしまう……。
「逢いたいから」この理由だけで、がらでもないことをしてしまうほど人間は欲深い者なのか、と自分のことながら失笑してしまう。それでも願ってしまう。人間は真に大事にしたい者の為なら何でも出来てしまう。そういうものなのだと感じた。
「どこにいるの?」「逢いたいよ。」
「ここに帰ってきてよ。」「俺のいる場に……。」
そう願いながら眠りにつく。1粒の涙をこぼして…
fin