君が出ていってしまった部屋で
君の残り香に心を震わせる
遠く雷鳴が響く夕暮れ
切なさがボーダーラインを超えて溢れ出す
cloudy heart
意味深な夜のサイレンに怯え
cloudy moon
その身を隠しながら 孤独という夜の静寂に揺れる
もう会えない なんて信じない でも会えない
部屋のカーテンは色を失って
カラカラに乾いた屍のような姿で
君の残り香に心を震わせる
cloudy heart すべてがcloudy
密やかな憂鬱 君がいない週末
cloudy moon おぼろげなcloudy
闇に堕ちる夜 その静寂に揺れる
もう会えない ならば夢を見る 君を探す夢
君の残り香を手掛かりにして
灰色の雲に覆われた世界を彷徨う
君が出ていってしまった世界を
今になって思う
何がこうさせたのか
答えなど出せないまま
すべてがcloudy
おぼろげなcloudy
闇に堕ちる夜 その静寂に揺れる
大空に架かる、虹の大橋🌈。
あれを渡り、会いたい人のもとへ。
どれくらいの距離があるのだろう。
あの角度は登れるのだろうか。
そもそもが、空気中の水滴の反射でしかない。
実体として、人が渡れるようなものではないはずだ。
それでも、会いたい人がいるのなら。
試してみる価値はある。
二年前から音信不通のあの娘。
LINEのメッセージには既読がつかない。
今の居場所も分からない。
この虹の大橋が、僕を連れて行ってくれるだろうか。
彼女に会いたい。
僕はスマホひとつ持って、そのふもとへ向かう。
だけど、歩き続けて、もう虹の橋は消えてしまった。
雨上がりの街の真ん中で、途方に暮れる。
そこに、LINEの着信音。
画面見ると、音信不通のあの娘から。
「お久し振りです。来月、結婚します」
未読だったメッセージがすべて既読に変わっている。
そうか、ここからだ。
来月、結婚式で会えるかな。
虹を渡るリスクが無くなった今、僕が命を賭けるべきはひとつだけ。
君を奪還する。
あの虹のように、僕の前から突然消えてしまった君を。
帰宅したら、妻がいなかった。
部屋は真っ暗。
夕ご飯の用意もされてない。
明かりをつけ、リビングのソファに座って妻にLINEしてみる。
しばらく待ってみたが、既読がつかない。
メッセージはシンプルに、「どこにいる?」
少しずつ、不安が押し寄せてくる。
朝は何も言ってなかったな。
出かける予定があるとは聞いていない。
何か、突発的な用事でもできたのだろうか。
それでも、何かメッセージを残すくらいは出来たはずだ。
お風呂に入り、スマホを確認するが未読状態のまま。
これは明らかに…何だろう?
事故にでも遭ったのか?それとも、家出?
昨夜の自分達を思い出してみる。
喧嘩をした記憶はない。
いつもの夜だった。
…いや、何か、光を見たような気がする。
ベランダの向こう。
眩いほどの光。
あの光は…吸い込まれるような美しさを放っていた。
現に、吸い込まれたのではないだろうか。
…そしてその後、どうなった?
おぼろげに、あの時の情景が蘇ってくる。
いかにもな宇宙船内。三人ほどの異形の存在。
彼らは、私より妻に興味があるようで、私は軽く身体検査のようなものをされただけで、気付いたらリビングのソファに座っていた。
…妻は?
その時、脳の奥の方で何かが鳴り出した。
アラームのような耳障りな音が鳴り響いている。
…あれ?なんで歯ブラシが二本あるんだ?
私は一人暮らしなのに。
寝室のベットに入り、スマホを操作する。
一人寝の寂しさにLINEを起動すると、つい先ほど、私から「どこにいる?」というメッセージを送っていたが、相手が誰なのか、いくら考えてみても分からなかった。
既読はついていない。良かった。
こんなメッセージを誰とも知らずに闇雲に送っていたら、きっと不審がられるに違いない。
LINEからメッセージを削除し、何かを失ってしまったような不思議な気持ちに駆られながら、それが何故なのかも分からずに、私は深い眠りに落ちた。
急に涼しくなって、夏色が突然、秋色に変わる。
稼働続きだったエアコンが止められる。
寝苦しい夜もしばらくないだろう。
オレンジ色に染まる季節。
春と同じように短く、春と同じように好きな季節だ。
外に出かけたくなる。
暑いからやめとこう、と思っていた場所に、やっと重い腰を上げて訪れることが出来る。
イイ季節だ。
だけど、ホントに短い。
ともすれば終わってしまう。
そして凍える冬が来る。
オレンジ色が白に染まる。
色づいた木々が枯れ落ち、動から静へ。
世界が秋色に染まっているうちに、秋ならではの行楽をいくつ楽しめるか。
短いからこそ、そのひとつひとつを堪能しようと思う。
外に出ることも躊躇する長い夏を終えて、ハンディファンも塩分チャージタブレットも持たずに楽しめる季節。
秋らしく、落ち着いた楽しみ方を模索してみよう。
ハロウィンでの混雑を避けて、クリスマスムードが漂ってくる前に。
もしも世界が終わるなら。
何もせずに、ただ、終わりゆくこの星を見つめていたい。
数えきれないほどの生命を育んできたこの星。
その生命を大切に守り続けてきたが、いつしか綻びが生じてしまっていた。
身勝手すぎる生命。不条理すぎる生命。
世界は、誰の手に治められるものでもない。
ただ、人はそれが出来ると錯覚して、あらゆる兵器を作り出した。
綻びが生じる。世界が終わる。
だから、その時は何もせずに、大切な人達と一緒に終わりゆくこの星を見つめていたい。
自業自得だとは思わない。
人はこうして生きることを選んだのだから。
ただ、その時が来たら、何か他に道は無かったのかと悔やむだろう。
この、大切な人達とともに、もう少しこの場所で生きることは出来なかったのかと。
綻びの生じない生き方。
この星に受け入れられる生き方。
私達には、それを選択する権利があった。
もしも世界が終わるなら。
何もせずに、大切な人達と一緒に終わりゆくこの星を見つめながら、涙を流すだろう。
流した涙は潮流となり、この世界で同じ想いの涙を流す人達にきっと届く。
動画はSNSで拡散され、たくさんの人々の祈りがそこに集結する。
だけど、この星の運命は変わらない。
世界の終わりの饗宴。
この星のために涙を流した人達の、最後のバズリとなる。
「お腹空いたね」
「夕飯、どうしようか」
「お腹空いたままで最後を迎えたくはないね」
「じゃあ、ガストにでも行ってお腹いっぱい食べようか」
「ガスト、やってるかな?」
「そっか。皆、自分の大切な人達と過ごしてるよな、今頃」
「やっぱり、家にあるもので最後の晩餐にしようよ」
「そうだね。お腹がいっぱいになれば同じだよね」
最後まで幸せだったと。
そう言い合える人とこの場所にいられたことを、何よりも嬉しく思う。