愛なんて小さくてもいい。
ただ、一緒にいて欲しい。
君がここにいるだけで、もう少し頑張ってみようかなと思えるんだ。
僕からの大きな愛が重荷になるなら、その思いはしばらく抑えておくよ。
ちょうどいいくらいに丸めて縮めて、君が心地いいくらいに小さな愛に変えて。
時に、強い思いは相手を縛り付ける。
良かれと思う愛情が、君を不安にさせる。
愛は反比例することだってあるんだ。
それならば、まずは小さな愛で君を包み込もう。
何となくそばにいて、何となく心地いい時間をともにして。
芽が出て膨らんで、花が咲いたら枯れないように水をあげて、あとはもう、その花をゆっくり鑑賞するだけでいい。
咲き誇ることもなく、道端の一輪であっても、僕はいつまでだって見ていられる。
勇気付けられて、小さな愛を感じて、まだこの世界は希望に満ちていると感じられるんだ。
君という花が咲いてくれただけで。
Someday we'll walk this path together.
そう願いながら、信じながら、夢見ながら。
今日という日を、胸を張って生きよう。
いつの日か、君の隣で堂々と花を咲かせられるように。
台風はどうなったのかな?
いつもこんな風に、来るぞ来るぞと脅される。
でも、フタを開けてみたら?ってなパターン多すぎない?
空はこんなにも穏やか。
熱帯低気圧に変わったみたいだけど、雨すら降ってない。
まあ、これから降るんだろう。
出勤時には、傘を忘れずに。
朝のこの時間。
憂鬱な気持ちで過ごしてる人、多いんじゃないのかな。
一日の始まりに希望を持てないなんて、それは寂しいことだと思うけど、人のデフォルトはネガティブらしいから、まあこれはこれで仕方ない。
だからこそ、自分を守る術が身に付いたとも言える。
能天気には出来ない芸当だ。
きっと、自分の中で毎朝台風警報出して来るぞ来るぞと脅しておきながら、実際に出向いてみたら空はこんなにも穏やかで、なんだ心配する必要なかったなってのを繰り返してるんだと思う。
雨をしのげる傘さえあれば万事OKな感じで。
能天気になれば、いつだって晴れ渡る空なのかもしれないけど、空のいろんな表情を見られるのも悪くない。
時には嵐や雷の警報を鳴らすことがあっても、ちょっとワクワクするくらいの気持ちで、立ち向かってみるか。
どうせ、そんなに大したことはない。
だってほら、空はこんなに穏やかじゃないか。
そしてもし、空が荒れた時の対処法だって、私達は知っている。
能天気には知り得ない方法かもしれない。
子供の頃の夢は、遊園地スタッフだったんだよね。
その夢が叶ったって言えるのかな。
子供達とか、家族連れがたくさん来て、私を見て楽しんでくれるの。
私はただ立ってるだけでいいんだ。
子供の頃、描いてた夢はこうじゃなかったけど⋯。
ううん、窓口係じゃないよ。
アトラクションの中にいるの。
てゆーか、いつのまにか、いた。
確か、彼氏とこのアトラクションに入って、そのまま出てこなかったんだよね、私。
⋯え、なんでかは知らない。
うん、アトラクションは「お化け屋敷」。
分かるでしょ?
皆、怖がりたくて来るわけだから、そこに本物がいたらもっと怖いじゃない?
怖がって楽しんで、帰っていく。
きっと、幼い子供の頃の夢に出てきてると思うよ、私。
だって、私がここに立ち続けて、もう30年になるの。
あの頃、幼かった子供達も、もう立派な大人だよね。
そしていつかきっと、あの日私を置き去りにした彼がここを訪れるのを待ってる。
もう、くたびれたおじさんになってるかもしれないけど、もう一度会いたいんだ。
会って、子供の頃からの夢を叶えてくれてありがとう、って伝えたい。
そして彼に、私を置き去りにした理由を聞いて、そろそろこの役目を終わりにしてもいいかな、って。
私がこの場所から消えたら、あのアトラクションには本物がいた、って騒ぎになるかな。
⋯でも、聞いたの。
もうすぐこの遊園地、取り壊されるんだって。
このまま、この遊園地とともに私も消えていくのかな。
もしかしたら、ここから解き放たれて、自由になるのかも。
そしたら、必ずあなたを探し出す。
居場所が無くなったら、あなたに責任取ってもらわなくちゃ。
この週末、どこにも行かないで過ごした。
リビングのソファに座って、ずっとスマホかテレビの画面を見てた。
不健康極まりない。
だけど、外は暑くてさ。もはや夏の暑さ到来だよ。
エアコンの効いた室内に籠もりたくなる。
ゲームをしたり映画を観たり、YouTubeを漁ったり。
生産性はほとんど無く、ただただ無為な二日間だった。
だけど、考えてみれば、休日にまで生産性を上げる必要はないよな。
特に何の予定もない週末なら、一番安らげる我が家でのんびりと過ごせればいい。
ただ何となく、「人生は進んでゆく」という事実が、「こんなんでいいのか?」と思わせる。
何かしなくちゃ、この時間がムダになっているのでは?と。
例えば、職場の同僚がLINEで「ロードバイクで海まで走ってみた」とか言って画像を送ってくる。
青い空と青い海をバックに、笑顔で自撮りの画像を。
そうすると、「休日の過ごし方の正解はこれなんじゃないか?」なんて、自己否定が開始される。
正解なんてないのに。
どこかに出かけなくちゃいけないルールもない。
もしかしたらLINEの彼も、走ってる最中に「この暑さはヤバいぞ。家でのんびりしてれば良かった」なんて後悔した場面もあったかもしれない。
「そっちが正解だったかも」なんて。
正解なんてないのに。
…そうやって、あーだこーだと自己弁護を繰り返す。
これが一番良くない休日の過ごし方かもしれない。
それぞれがそれぞれのやりたいことをやれば、それでいいんだろうな。
まあでも、健康維持のためにも体は動かさなくちゃ。
どこへ行くかじゃなくて、何をするか、だ。
そろそろ、沈黙状態のエアロバイクを復活させよう。
エアコンの効いたリビングで、有酸素運動をしよう。
テレビの画面には、青い空と青い海の画像でも流して。
駅からの通報を受けて、近くの交番から駆けつけた。
「刃物を持った男が、駅のホームをうろついている」
それだけの情報だった。
駅に到着してまもなく、対象の後ろ姿を確認し、後を追う。
男の右手には、鈍色のナイフ。
フードを被り、背中を丸めて、人の流れに逆らって歩いてゆく。
人混みをかき分け、君の背中を追って。
見覚えのある背中。
心が潰れそうなほど悲鳴を上げている。
男が、一人の女性の前に立ち、ナイフを持った右手を振り上げた。
私は、腰のホルスターから拳銃を抜き、警告を発しながら、その照準を息子に合わせた。