Ryu

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3/8/2025, 11:09:01 PM

親と喧嘩すると、いつも僕は二階に駆け上がり、自分の部屋にあるクローゼットの扉を開けて、その先の大空に飛び込んだ。
雲を突き抜けて、落下してゆく。
地上が遠く見え、それがみるみるうちに近付いてきて、気付けば目の前にアスファルトの道路が迫る。
鈍い音がして、破裂して、体が粉々になる感覚。
僕の意識だけが、今度は上昇を開始して、地上が、見知らぬ街が遠ざかっていく。
雲を突き抜けて真っ白になったところで、いつものようにベッドの上で目を覚ます。

もう何度、自分を破壊しただろう。
あのクローゼットの扉の奥は、僕の秘密の場所。
お母さんが開けても普通のクローゼットでしかない。
僕が普通に開けても同じだ。
何故か、僕が嫌な思いをした時だけ、あの場所が現れる。
だからそんな時は扉の向こうの大空にダイブして、地上で自分を木っ端微塵にしてイライラを解消する。
初めて大空を見た時は、下を覗いたらミスって落っこちて地上でバラバラになったけど、気付いたらベッドで目を覚ましたことで、これは夢なんだと思った。
夢なら別に壊れたっていいじゃないか。
壊れた後の目覚めは爽快で、さっきまでの嫌な思いはどこへやら。

高校を卒業し、家を出ることになった。
もう、あの大空ダイブともさよならか。
残念だけど、大人になるってこーゆーことなのかな。
最近は、以前よりイライラすることも少なくなったし、受け流すことも出来るようになった。
あの秘密の場所は、もう自分には必要のないものとなっていた。
クローゼットの中も空にして、住み慣れた部屋を後にする。

ある日、大学の帰りに友達の家に寄った後、初めての街を、スマホを頼りに家路についていた。
そして、ある場所で立ち止まる。
何故か、無性に苛立ちが湧いてくる。
何だこれは。
辺りを見回すと、デジャブに襲われ、初めての街が見慣れたものになっていることに気付く。
自分が破壊される直前に、何度も目にしていた光景。
「ここか…でも、なんで…」
そんな思いは、理不尽な怒りに塗り潰され、いつのまにか自分の右手には、覚えのないナイフが握られていた。

もう、雲の向こうへ飛ぶこともなく、ベッドの上で爽快に目を覚ますこともないのだろう。

3/8/2025, 2:48:38 AM

人間、なんてららーらーららららーらー。
これを知っている人、どれくらいいるんだろう。
1990年頃に、とらばーゆのCMで使われてた歌の歌詞。
とらばーゆを知らないかな?
まあ、今で言う、ジョブアイデムやタウンワークみたいな、要するに求人情報誌だ。
そのCMで、サディスティック・ミカ・バンドのMICAが歌ってた。
オリジナルは吉田拓郎の歌で、それは1971年まで遡る。
こっちは私も知らない。

このCMを見て、この歌を初めて聴いて、「そっか、人間なんて、ららーらーららららーらーなんだな」と感銘を覚えた。
当時20歳くらいで、たぶんいろんな悩みもあっただろう。
悩みなんて、ほぼすべてが他人に起因するものだ。
そこに、人間なんてららーらーららららーらー、だからね。
気持ちも軽くなる。
いや、この歌詞を作った吉田拓郎の意図は知らないが。
でもとにかく、ずいぶん救われたのは間違いない。
女性の求人情報誌のCMだったが。

CMでは、画面に一人の女性、その真ん中に「私にキッス」と表示され、ナレーションは「私が一番、可愛い」。
ホントに求人情報誌?てな内容だったが、これもまあ、他人に振り回されるな、自分をもっと大切にしよう、とも受け取れて、当時の自分には結構響いたのだろう。
嫌なことがあると、よく心の中で口ずさんでいた。
今思えば、ラララに何を当てはめるか、それは人それぞれなんだろうな。
人間なんて、という言い方から、あまりポジティブな印象は持てないが、諦めとともに解放された気分になったのも確かだ。
お前の人間関係の悩み、実はたいしたこっちゃないよ、と言われてる気がして。

実際、他人とのトラブルなんて、自分に危害を加えられる案件でない限り、どーでもいいことばかり。
まさに、ららーらーららららーらーだ。
だって、相手の気持ちはどうこう出来ないし、ありのままの自分で接して変わってくれたらラッキー、くらいでいいわけだから、深く悩む必要なんてない。
それで付き合っていくのに抵抗を感じるのなら、もうその人とは離れてゆく心づもりでいるしかないかなと。
人間なんてラララだから別にいいじゃない。
また新たな出会いがきっとあるし。
きっと、人生だってららーらーららららーらーなんだと思う。

言いたいことをいっぱい書いた。
うん、まとまらない。
まあ、いつものこと。
もっとこう、伝えたいことはいろいろあるのだが、それをうまく言葉に出来ないもどかしさ。
だからこそ、ららーらーららららーらーが有効なのかな。
ここには人それぞれ、十人十色の解釈が含まれる。
想いなんて、簡潔明瞭にせずに、このくらいボカすのが丁度いいのかも。
相手の受け取りも柔らかくなるし。
まあ、就職の面接でそれはマズイだろうけど。

ヤバい。終わり方が分からない。
次から次へと言葉があふれてくる。
もうこの辺で無理くり終わりにしよう。
それでは皆さん、ららーらーららららーらー。

3/6/2025, 9:46:22 PM

風が運ぶもの。
それはきっと、匂い。
夕暮れの帰り道、どこかの家から漂ってくる夕飯の匂い。
それはきっと、当たり前の幸せの匂い。
どこかの灯りの下で、家族の団らんが繰り広げられている。

僕はコンビニのお弁当を引っさげて、一人暮らしの部屋に帰る。
着替えて、お弁当温めて、YouTube見ながら一人飯。
でも、最近のコンビニ弁当は美味い。
カップのクラムチャウダーも買ってきた。
大好きなYouTuberの新しい動画が配信され、腹を抱えて笑う。
これも、当たり前の幸せ。 

君とのLINE通話。
「お疲れ様。夕飯食べた?」
君の声は、風ではなく電波が運んでくれる。
だから、君の匂いは届かないけど、耳元で聞こえる君の声は、まるでこの部屋に君がいるようで。
「今、クラムチャウダー食べてる。これ美味い」
「好きだね、クラムチャウダー。今度レシピ調べとくよ」
「マジで?こんなの作れんの?」
「だからこれからレシピ調べるんだってば」

風の噂で、地元の友達はほとんど結婚したと聞いた。
やっぱり風は、誰かの幸せを運んでくるようだ。
地元に残る君は、不安を感じていないだろうか。
夕暮れに漂ってくる美味しそうな匂いに、焦りを感じてたりしないだろうか。
それを聞くと君は、
「まずは、お腹空いたなって思う」と答える。
作るより食べる方が好きだもんね。
そんな君がクラムチャウダーを作ってくれるなら、きっとそれはコンビニに負けない美味しさだろう。

通話を終えて、君との電波が途切れる。
YouTubeも見終えて、突然一抹の寂しさに襲われる。
いつものことだ。
この寂しさは誰にも届かず、風に運ばれることもない。
でももう少し頑張るよ。
今夜の夜風は冷たくて、夜が一層暗く思えるけど、熱々のクラムチャウダーはまだ冷めない。
僕の情熱だって負けてないよ。
この街で成長して、必ず君を迎えに行く。

そんな風に思えることが、当たり前の幸せ。

3/5/2025, 11:31:40 PM

宇宙の果てはあるのかな?

異星人はいるのかな?

死んだらどうなるのかな?

幽霊になるのかな?

猫は何を考えてるのかな?

あの人は私のことをどう思ってるのかな?

分からないことだらけ。

Question!Question!Question!

でも待って。
あの人の気持ちを知る方法はある。
私が勇気を出せばいいだけ。
どうしたら勇気が出るんだろう。
誰か教えて。
Question!Question!Question!

異星人とか幽霊なんてどうでもいい。
猫の思惑は気になるけど、一番知りたいのはあの人の気持ち。
だってそれ以外のことは、私の人生に影響を与えない。
むしろ知ってしまった方が、何かと面倒な気もする。
あなたの気持ちを知ったら…涙することもあるのかな。

私からの Question。

好きな人はいますか?

それは私ではない誰かですか?

その人と幸せになれますか?

その気持ちは変わりませんか?

私がこのまま想い続けたら迷惑ですか?

そんなに悲しそうな顔をするのは何故ですか?

誰か、この涙を止める方法を知りませんか?

3/4/2025, 1:54:17 PM

幼い頃、実家の裏山の頂上にひっそりと建っていた小さな神社で、言葉の話せるキツネと不思議な約束をした。
「お前が16歳になった冬、お互いの一番大切なものを交換しないか。俺はこの神社でずっと待ってる」
と、彼は言った。
「キツネの大切なものなんて、私は別に欲しくないけど」
お供えの油揚げとか、お賽銭とか?
何となく、キツネが、この神社に祀られてるお稲荷さんの使いだということは分かった。
「願いを叶える力があるとしてもか?それが俺の一番大切なものかもしれない」
10年後のことなんて分からない。
この神社だって、朽ち果ててしまっているかも。
「じゃあいいよ。私の一番大切なものが、セールで買った髪飾りだとしても交換してね」

あれから10年が過ぎた。
キツネとの約束はすっかり忘れていた。
今の私の一番大切なものは、セールの髪飾りなんかじゃない。
先月から付き合い始めた男の子。
私にとっても優しくしてくれる。
キツネと交換なんかしなくても、私の願いはちゃんと叶っているのだ。
まあ、約束したことすら忘れていたのだが。

ある冬の日、彼に誘われて、裏山に登った。
私が、「ウチの裏山に登るとね、すごく見晴らしがいいの」なんて彼に教えたからだ。
神社のことも、キツネのことも忘れていた。
軽く汗をかきながら、ものの数十分で頂上に辿り着く。
そして、朽ち果てた神社を見つけた。
あの日のことを思い出した。
私の一番大切なものは、今私の隣りにいる。

「私ね、幼い頃、この神社で、言葉を話すキツネに会ったの。信じてもらえないだろうけど」
「キツネ?それはあの狛狐のこと?あれは話さないでしょ」
「ううん、ホントのキツネ。んー違うか。ホントのキツネは話さないよね。やっぱりあれは、神様の使いだったのかな」
「面白いこと言うね。神様と話したの?」
「違うよ。神様の使いのキツネ。…でも、どうして私はあのコと話せたんだろ。そんな力も持ってないのに」
「さあ…もしかして、そのキツネが君のこと気に入ったからじゃない?それで君と話したくなったとか」
「キツネが?そんなことあるのかな。あの時、私そのコと約束したの。10年後、一番大切なものを交換しようって」
「ふーん、そしてそれは、セールで買った髪飾りではなかったんだね」

「…え?」

私の一番大切な人。
裏山に登ったあの日から、何かが違う気がする。
気のせいかもしれないけど。
あの人は理想の彼氏で、私の願いは叶えられた。
誰かのおかげ?誰かの力を借りたから?
そんなはずはない。
私は私の力で…告白して、OKをもらって…。
待って。その日の記憶がない。

私は本当に、大切なものを交換してしまったのだろうか。

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