青と赤と黒。
そして時に、雲に覆われた白。
この四色は、風水の世界での方角を表すという。
そしてそれぞれの方角に、四人の神様が存在するという。
青龍、朱雀、玄武、白虎。
どこまでも続く青い空を、青い龍が飛んでゆく。
その色に紛れるように、溶け込むように、伝説の生き物である所以だろうか。
赤く染まる夕焼け空には、鳳凰、つまり火の鳥か。
まさに燃えるような、真っ赤な空に翼を広げて、優雅に舞う姿が心に浮かぶ。
黒く闇に沈む夜空には、亀と蛇が絡み合うような霊獣が潜む。
得体の知れぬ、暗黒の守護神。
長寿や健康が融合し、最強の力を誇る。
そして時に、雲に覆われた白。
ホワイトタイガーなら東武動物公園。
幕末維新の会津の少年達は、燃え盛る会津の町を見て自決した。
最後の方は少し血迷って、力不足を否めない。
それでも、どこまでも続く青い空を見てたら、その辺はどうでもよくなってきた。
ただただ、空って基本の四色構成なんだなーと思っただけ。
そこから話を広げていこうかと思ったが…力不足は否めない。
もう何年もネクタイを締めていない。
それが許される職場なので。
スーツは着ているが、襟元は緩めた状態で、窮屈さもない。
そもそもが、ネクタイって何のため?って思いが強かったから、現状はとても理想的だ。
単なる布を、体の真ん中にブラブラさせて、あったかくなる訳でもなければ、涼しくなる訳でもない。
見た目がカッコいいかどうかは人それぞれだと思う。
スーツとセットで身につけるものとして存在するんだと思うけど、無くてもなんも困らない。
いや、あってなんのメリットが?
気になって調べてみたら、一本何万円もするネクタイもある。
何ですか?これ。
これが、富の象徴ってやつなんでしょうか。
同様に、腕時計。
折しも、つい先ほど仕事仲間のグループLINEで、最近新調したという腕時計を自慢するメッセージが回ってきた。
腕時計って、出先で時間を知るために使うものなんじゃないの?
今の時間を知るために、何十万円の出費が必要なの?
私には分からない。
もっと有意義なお金の使い方がある気がする。
いやこれは、過去、ギャンブルにハマって日々お金を溶かしていた男の言うセリフじゃないですね。
あのお金がもしまだ手元に残っていたとしたら、いったいいくらの腕時計が買えたやら。
まあ、買わんかったけど。
人それぞれ、お金の使い方には正解不正解なんかないってことで、今回はシメとさせていただきます。
そして、お題の「衣替え」を完全に無視していることに今気付いた。
なんとなく、それっぽいこと書き始めたつもりだったんだけど。
ショッピングモールで買い物してたら、どこかの家族の幼い娘さんがギャン泣きし始めた。
耳を塞ぎたくなるくらいの大音量で、周りの人達の視線が一斉に注がれる。
若い夫婦は焦り戸惑い、一生懸命娘を宥めすかしている。
私はといえば、奥さんと娘達がコスメを物色している間、手持ち無沙汰に廊下をウロウロしていたところ。
何となく、ホントに何となく、足を止めて、ギャン泣きしている子供とその家族を眺めている。
自分にも、こんな時代があったんだな。
そんなことを考えながら。
若い夫婦だった時代もあった。
親を困らせるほどギャン泣きしていた時代もあった…たぶん、覚えてないけど。
今や、いっぱしの大人みたいな顔して、おやおや、大変だねえ、みたいな立場で傍観している。
イイ気なもんだ。
そんな、イイ気な立場から言わせてもらうと。
声が枯れるまで泣いていいよ。
泣いて想いをぶつけられるのは君達の特権だ。
でも、きっと君の願いは届かない。どれだけ泣いたって。
どれだけ君が可愛い娘でも、親にだって叶えてあげられない願いもある。
何だって叶えてあげたいけれど、出来ないことだってあるんだ。
だから、声が枯れるまで泣けばいい。
泣いて、泣き疲れて、ああ無理なんだと気付いて、世の中というものを少し覚えて。
きっとそうやって、私は大人になったんだと思う。
まあ…とはいえ、耳をつんざくような甲高い泣き声は、この距離ではなかなかツライものがある。
やっぱり、飴玉あげるから泣き止んでくんないかな。
そしたら、家族皆で楽しく買い物が出来るんだけどな。
現金なおっさんでごめんなさい。
喧嘩の始まりはいつも、至極些細なことだった。
自分より多く取ったとか、正しいと思うものが違うとか。
譲り合う気持ちと認め合う気持ちがをあれば、喧嘩なんかしなくてもよかったのに。
にんげんだもの、いつも同じ方角を見ていられるとは限らない。
世界は、たくさんの思惑で成り立っている。
それを受け入れれば、和解する道もきっと残されているはず。
その、ミサイルの発射ボタンを押す前に、着弾地点にいるのは自分と同じ人間だということを思い出して。
家族がいて、泣いたり笑ったり、恋をしたり喧嘩したり、大切な命を守り続けている人間だということを。
始まりはいつも、すべてが終わる可能性を秘めているから。
夜道で女とすれ違った。
すれ違いざま、「ついてきて」と耳元で囁かれた。
振り返ったが、女は淀みなく去ってゆく。
「何だったんだ今のは?」
前を向くと、目の前に一人の男が立っていた。
ピエロのマスク。
血まみれのシャツ。
右手にサバイバルナイフ。
もう、逃げるしかない。
何とか逃げきった。
「何だったんだ今のは?」
このセリフしか出てこない。
女は、私を助けようとした?
だが、女はピエロのいた方向からやって来た。
平然と、歩いて。
ピエロは俺だけを狙っていたのか?
俺が逃げ出した時、まだ近くに女はいたはずだ。
姿は見えなかったが。
考えても分からない。
とにかく、今は無事に家に帰ることだ。
警察に行くことも考えたが、何の被害も出ていないし、ピエロが単なる仮装だった可能性もある。
それでも物騒極まりないが。
正直なところ、面倒なことに巻き込まれたくなかったのが、本音かもしれない。
家に着いて、風呂に入り、落ち着いたところで、インターフォンが鳴った。
ドアを開けると、制服姿の警察官が二人。
「近所で、悲鳴とか、聞こえなかったですか?」
「何があったんです?」
「女性がね、殺されたんですよ。」
「もしかして…ピエロの格好をした…」
「え?なんでそんなことを?」
「あ、いや、見たんですよ。とゆーか、襲われました。何とか逃げ切りましたけど」
「襲われたって…強姦魔ですよ。男性のあなたには…」
「強姦魔?いや、あれは殺人鬼ですよ。血だらけでナイフを持ってた」
「目撃者によると、それはハロウィン用の仮装じゃないかと。ピエロのマスクで顔を隠していたそうですね」
「仮装…」
その可能性も考えたが…それでも、本当に人を殺したなんて…。
「実は、最近同一犯と思われる犯行が続いてましてね。この辺りに住む女性には、注意喚起していたんです。ピエロの仮装をした強姦魔が出没しています。もし、後をつけられたりした場合は、やむを得ないので、どなたか男性に声をかけて知り合いのフリをしてもらってください、と」
「知り合いのフリ…?」
彼女に、「ついてきて」と言われた。
あれは…助けて、という意味だったか。
女性しか襲わない強姦魔なら、そこに男性がいるだけで抑止力にはなる。
だけど、仮装とはいえ、あんな格好で目の前に立っていたら…。
私は、逃げてしまった。
その後、彼女は捕まってしまったのだろうか。
それとも、別の女性か。
いずれにせよ、ちゃんと状況説明がなくちゃ、助けられるものも助けられないじゃないか。
私は悪くない。
私のせいじゃない。
次の日の朝。
昨夜の警察官から無理矢理聞き出した、女性の殺害現場に赴いた。
私があのピエロと対峙した場所から、ほんの数百メートルしか離れていない。
被害者はきっと、昨夜私が会った女性だろう。
開店直後の花屋で買った花束をそっと置き、手を合わせた。
心が苦しくて、座り込んだまま、立ち上がることが出来ない。
あのすれ違いが、単なるすれ違いでなく、彼女の命運を分けるものになってしまった。
そして、その命運を分けたのは、私の行動だった。
その日は仕事を休み、家に帰って作戦を練った。
あのピエロ野郎を捕まえる。
私は今も、あのマスクの下の目を覚えている。
彼女についていくことはもう出来ないけれど、復讐することならまだ出来る。
やってやる。
もう、彼女との気持ちのすれ違いが起こらないように。
私のこんな気持ちを、払拭するために。