些細なことでも、人は人を敵とみなす。
最近気付いたが、自己承認欲が強い人が苦手だ。
自分の手柄を主張したい人、会話の輪の中心にいたい人、あるいは、思ったことすべてを声に出す人。
そんな人達が、何故か周りにたくさんいる。
世の中の人達は皆こうなのか?と思うほど。
いや、もちろんそうでない人もいる。
私だってそうだ。
自画自賛している訳ではなく、自己主張が弱くて、話題を盛り上げられず、発言力のない人間だと自覚してる。
…まあ、時と場合によるが。
そんな自分はたぶん、他人の自己承認欲を満たす側の人間とされているのか、気付くと主張の強い人間が集まってくる。
ウザい。はっきり言ってウザい。
あちらこちらに首を突っ込んで、自分の存在をアピールしてる。
その合間にアピールの矛先をこっちに向けてくるのは、付き合いきれないほどにウザい。
些細なことでも、人は人を敵とみなすんだな。
そもそもが、相容れない、タイプの違う人間なんだろう。
とは言っても、大人だからね。
波風立てず、うまくやってるよ。
所詮、生きてく上では些細なことなんだ。
認められたい、褒められたい、気にされたい人達が多いねってこと。
日本人は、自己主張が苦手なんじゃなかったっけ。
彼らがこの日本を変えていってくれるのかな。
芸能人や政治家には向いてるのかも。
そーいえば、確かにそんな人達が少しやり過ぎて、トラブってるニュースが多くないか?
出る杭は打たれるって言うけど、平坦なだけの土地じゃ面白くない。
謙虚さは美徳だと信じてるけど、凪の海ばかりじゃ夏の思い出には物足りない。
こんな、些細なことでも、文章にして誰かに読んでもらいたいという…あれ?これは自己承認欲求では…ないのか、な?
心を燃やせ。
この言葉に泣いた。
自分の人生で、心を燃やしたのはいつのことだろうか。
何に心を燃やした?
燃やすに値することだったろうか。
ギャンブルとか、徹夜でゲームとか、彼女を口説くとか、若さに任せて燃やしまくったこともあるけど、そんなんで良かったのか?
煉獄さんは認めてくれるのか?
いや、何に心を燃やすかは、人それぞれだよな。
きっと正解なんてない。
人を喰う鬼退治に心を燃やすのは、何よりも素晴らしいことだと思うけど、幸い今の世に鬼は存在しない。
鬼のような悪党は存在するかもしれないが、幸い私の仕事はそれらと対峙するものではない。
それなら私は、家族のために心を燃やそう。
今の私にはそれしか出来そうにない。
働いて、お金を稼いで、家族で当たり前の生活が出来るように。
当たり前の定義も人それぞれだけど、心を燃やして成し遂げたことなら何だっていい。
家族でショッピングモールにでも行って、今は貴重な美味しいお米でも食べようかな。
煉獄さんのように味わって、美味い!を連呼して。
あのシーンがたまらなく好き。
心の灯火は、美味しいご飯を食べた時にこそ燃え上がるのかもしれないな。
燃料補給は大切だからね。
昨夜、彼女と電話で大喧嘩した。
次の日の朝、彼女から届いたLINEには、
「あなたを殺してあげる」
目を疑ったが、間違いなく彼女からだ。
彼女と約束していた週末の旅行が、僕の仕事で行けなくなった。
早朝からの仕事で、断れそうにない。
彼女は昨夜の電話で、
「そんな仕事、誰かに代わってもらうか、午前中のうちに終わらせるとか、出来ないの?」
とか言ってきた。
無理言わないでくれ。
それじゃなくても僕は、朝が弱くて、起きられるかも心配なのに。
続けて彼女からのLINE。
「どんな方法がいい?」
そんなの、僕に決めさせないでくれ。
彼女がこんなにクールな殺し屋だったとは。
殺人予告も板に付いて、一介のOLとは思えない。
その後の彼女からのLINEは怖くて開けなかった。
いくつか届いていたが、自分の殺され方を描写しているようなメッセージなど読んでいられない。
仕事を断って彼女と旅行に行こうか。
いやいや、殺し屋の彼女とこれからも付き合っていけるのか?
一方彼女は、途中から既読が付かない彼へのLINEに、少し焦りを感じていた。
「打ち間違えたの。殺してあげる、じゃなくて、あなたを起こしてあげる、ね。モーニングコールでも、前の夜から泊まりに行ってもいいし。方法はあなたが決めて。…ねえ、既読が付かないんだけど、大丈夫?」
君は、不完全な僕を支えてくれる不完全なパートナー。
不完全同士だから、お互いの役割を持ってお互いを支え合える。
お互いに感謝して、お互いを信頼し合える。
必要とされる喜びは、何物にも代えがたい。
今日の失敗は明日を乗り切る糧となる。
失敗した数だけ、経験値が上がるから強くなれる。
完璧に仕事をこなすあの人だって、過去には何度も失敗して勇者となったのかもしれない。
最初から完全な人なんていないから。
不完全なら不完全なりに、幸せの感じ方ってのがある。
少しずつ、日々積み上げてゆく人生への期待だ。
出来なかったことが出来るようになる、
これは、最初から出来る人には味わえない喜びだ。
自転車だって、逆上がりだって、一人飯だって、出来なかった時代の自分がいるから、達成感を手に入れられる。
自分の足りない部分を攻撃する輩がいるなら、そいつには決定的に足りないものがある。
思いやりとか優しさとか、本来人間にとって標準装備されているはずの一番大切なものだ。
でもまあ、そいつも例に漏れず不完全な人間だから、不完全同士、大目に見てあげよう。
不完全な人達で溢れる電車に乗って、不完全な人達が集う職場で働いて、不完全な家族が待つ我が家へと帰る。
不完全な世界が愛おしくなるほど、誰もが精一杯生きている。
不完全だから。
伸びしろがたくさんあるから。
終始無敵モードのマリオなんて、きっと五分で飽きるから。
街の雑踏に紛れて、あなたを見失った。
あなただけは特別だったのに。
他の誰かと混ざり合うことなんてないと思ってたのに。
そして、私との繋がりは決して断ち切れないものだったはずなのに。
野良犬のように、あなたの香りを求めて彷徨う。
この街の何処かで、きっとあなたも私を探している。
街行く人の好奇の目に晒されながら、あなたを探して叫び続ける。
あなたと家に帰りたい。
「ツン!」
あなたが私の名前を呼んだ。
人混みをかき分けて、あなたが走ってくる。
ああ、あの重そうな体。見慣れた浴衣姿。
私を探して走り回ったのだろう、汗だくの体から、私にだけ分かるあなたの香りが漂ってくる。
それはあなたの香水。私にとっての。
あなたと再会し、私達はまた繋がれる。
二度と断ち切れることのない、硬い石の縄で。
上野と薩摩を結ぶ、この一本のリードで。