Ryu

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8/5/2024, 12:48:32 PM

夕暮れに、見覚えのない住宅地に迷い込んだ。
塾からの帰り道、自転車で一人、人気のない路地を彷徨っている。
おかしいのは、いつも通りのルートを走っていたのに、いつの間にかこんなところに迷い込んでいたこと。
まるで、誰かに誘われたかのように。

ノコギリで、何かを切るような音が聞こえる。
ギーコ、ギーコ、ギーコ、ギーコ、ギーコ、ギーコ、ギーコ。
人気はないのに、誰かがどこかで何かを切っている。
振り返ると、さっき通り過ぎた道が消えていた。
そこには、暗闇が広がっているだけ。
いよいよ、やばいところに来てしまったようだ。

スマホを取り出し、自宅に掛けてみる。
誰かと繋がったが、聞いたことのない言葉でずっと男性が喋っていた。
声に聞き覚えもない。絶対に家族の誰かではない。
仕方なく電話を切り、自転車を止め、目の前にある家のインターホンを鳴らしてみる。
鳴り響く鐘の音。これは…お寺の鐘の音だ。

玄関のドアが開き、真っ青な人が出てきた。
全身が真っ青。目も鼻も口もない。
これはやばい、と隠れようとしたが、どうやら向こうにはこっちが見えていないらしい。
辺りをキョロキョロとして、目の前の僕に気付かずに、扉を閉めた。

そして僕は途方に暮れる。
自転車に乗り、あてもなく走り出した。
すると、辺り一帯から鐘の音が響く。
寺の鐘の音が鳴り響く。
ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
左右に並ぶすべての玄関のドアが開き、真っ青な人が顔を出す。

まっすぐ前を向いて、一心不乱に自転車を漕いだ。
左右の青い人が、口々に何かを言っている。叫んでいる。
どうせ聞いたって分からない。走り続けるしかない。
道の先に、何かが立っていた。青い人だ。
右手に…ノコギリを持っている。
そして、左手には…誰かの首。

横を走り抜ける時、青い人が持っていた誰かの首がこちらを向いた。
その顔は…僕だった。
自転車はそこで豪快に転倒し、僕の体はアスファルトに叩きつけられた。

「交通事故で運ばれた男の子、助かったって?」
「ああ、一時はどうなることかと思ったけどな」
「首の骨が折れてて、心肺停止もあったとか」
「うん、たぶん、あの世を垣間見たんじゃないかな」

「だけど、手術中にも大変なことがあってさ」
「何?」
「突然、執刀医が倒れたんだよ」
「ホントかよ。なんか、不穏なものを感じるな」

「いや、それがさ、そいつ、次の日手術だってのに深酒したらしくてさ、それで体調崩して気を失ったらしいんだ」
「マジか。医者の不養生ってやつだな。で、そいつはどーなったの?」
「まあすぐに執刀医は交代して何とかなったけど、目を覚ました後でそいつに話を聞いたら、気絶してる間もこれはマズイって気持ちがあったのか、何故か夢の中でノコギリ持って手術を続けてて、周りにいる手術衣を着た同僚からやめろって言われても手を止めることが出来なくて、辺りから聞こえる寺の鐘の音に自分は死んだのかと不安になったところで院長が現れて、お前はクビだ、って宣告されたんだって」

8/4/2024, 3:57:44 PM

頭に浮かぶ、つまらないことでも、興味を持って聞いてくれる人がいる。
逆に、想いを尽くして送った言葉を、無下に聞き捨てる人もいる。
どっちがいいとかじゃない。
これで相手の人間性が分かる。ただそれだけ。

たとえば、愛想笑いの得意な人。
そして、自分の気持ちに正直な人。
つまらないことはつまらないと思われても仕方ない。
そのリアクションで、自分の力量を知るしかない。
どーせ、自分は自分を買い被るんだ。
現実を思い知るには、そのくらいの荒療治が必要なんだ。

何が言いたいのか分からないのは私も同じ。
ホント、つまらないことでもいいから書いてみようと始めると、いつもこんな感じになる。
それでも誰かが読んでくれたりして、また自分を買い被る。
人間ってそんな永久機関になり得るんだな。
でもそれで幸せなら…まあいいか。

週末の夜。
今さっき、つまらない日本のホラー映画を観終えたところ。
ホントにつまらなかった。タイトルは伏せる。
最近アマプラに追加されたから観てみたけど。
でもまあ、どれだけつまらなくても、誰かが一生懸命作ったものには違いないんだろう。
自分はそれを、無下に途中放棄する人間ではなかった。

そんな自分の人間性が垣間見えたから、まあ良しとして週末を終える。
自分の徒然なる思いを綴っただけのつまらないことでも、どこかで誰かの興味を少しでも引くことが出来たなら、自分なりに試行錯誤して生み出した甲斐があったということで、自己満足しよう。

…読み返せば、ホントにつまらないことでしかなかったが。

8/3/2024, 3:12:09 PM

次に目が覚めるまでに、この世界が終わってしまっていたら。
そんなことを考える。
もしくは、すべてのことが、私が眠っている間に見ていた夢だったら。
家族も友達も、自分自身でさえもが夢の中の登場人物で、目を覚ましたらそこは、誰一人いない荒野だったりして。
荒野に、見慣れない虫が一匹いるだけ。

いつも通りに目を覚ませたことに感謝しなきゃ。
家族がいる。部屋もある。美味しいご飯が食べられる。
これが当たり前なのに、当たり前じゃないかもしれない。
荒野を彷徨う一匹の虫なのかもしれない。
目覚めるべき世界が消え去っているかもしれない。
もっとリアルに言えば、体に巣食う悪いものが顔を出すかも。

今日も元気に一日働いた。
それがどれだけ幸せなことか。
家に帰ってゆっくり休める。
これがどれだけ至福な状況か。
夕飯食べて、お風呂に入って、明日に備えて眠る。
そして、目が覚めるまでに、世界が終わらないことを祈る。
孤独な虫になっていないことを祈る。
アメリカの株価が、これ以上暴落しないことを…祈る。

8/2/2024, 2:01:14 PM

「えっ…?」
深夜、病室の窓から女の子が入ってきた。
ここは4階。
さっきまで、明日の手術が怖くて眠れない時間を過ごしていたのに、それよりも怖い出来事が起きてしまった。
パニックを起こしても無理はないだろう。

ところが、
「あ、こんばんは。私、エミリって言います。初めまして」
なんて、可愛く微笑みながら言うもんだから、もはや怖さよりも不思議の方が勝ってきてる。

「こんばんは…って、なんで窓から?ここ4階だよ?」
「ああ、夜は病院の入口が閉まってるから。」
「いや、答えになってないよ。どうやって上がってきたの?」
「え?見て分かるでしょ。私、幽霊だよ。高さなんて関係ないから」
…そーゆーもんなの?じゃあ、入口が閉まってたって通り抜けられるんじゃ…という言葉を飲み込む。
「そーなんだ。ごめんね、私、幽霊って詳しくなくて」
「なんで謝るの?ところでおねーさん、明日手術なんでしょ?」
「そうだけど…なんで知ってるの?」
「んー、幽霊だから」
…答えになってないって。
「そんなことよりさ、手術、怖い?どんな気持ち?」
「そりゃ怖いよ。逃げ出したくて仕方がない」
「そっか。そー思ってね、私が出てきたの」
「…どーゆーこと?」
「あんまり時間がなくてさ。手短に言うね」

彼女の身の上話だった。
以前、この病院に入院していたこと。
手術が必要だったが、ある理由から輸血が許されず、手術を受けられないままに亡くなってしまったこと。
あとは…何故かどこへも行けず、ずっとこの病院の周りを彷徨っていること。

「たぶん、この世界にサヨナラする気持ちが出来上がってなかったからだろーね、って、あのおじいさんが」
「おじいさん?」
「うん。あなたのおじいさんだって。二ヶ月前に死んじゃったって」
「え…?会ったの?」
「会ったってゆーか、最近ずっと一緒にいる。なんかね、自分が死ぬ直前に突然おねーさんがこれから入院ってなって、心配しながら死んだせいか、うまく成仏出来ないんだって」
「…罪悪感でいっぱいになりそうなこと、さらっと言うね」
「だからね、見守ってるから大丈夫だって」
「…ここには来れないの?」
「来てるよ。窓の外にいるんだけど…見えないんだね」
窓の外には夜の闇。人の姿はない。
「あなたは、こんなにはっきり見えるのに」
「私はね、手術がしたかったんだ。そしてもっと生きたかった。だから、おねーさんが羨ましいの。はっきり見えてても、私はもうこの世にはいないからね」
少しだけ、病室の窓が揺れて音を立てる。
「おじいさんが、頑張れって。まだこっちに来るなって。心配してくれる人がいるのも、羨ましいよ」
少女が目を伏せて、悲しそうな表情を見せる。
彼女の両親のことを聞こうとしたが、聞けなかった。
「だからね、もう心配しないで。今夜はゆっくり休んで、明日のために」
「…そーだね。生きるために、頑張んなきゃね」
あなたの分も…生きるよ。これは言葉に出来ない。
「あ、それと、これ」
蝶々の髪飾り。ローマ字で「Emilie」とある。
「私の名前入っちゃっててゴメンだけど、良かったら使って。ベットの下に落としたまま、誰も気付いてくれなくて」
「ありがとう。大事にするね」
「うん。それで、私の分も生きてね」
…さらっと言われた。
「じゃあ、行くね。あ、看護師の相田さんに、お世話になりましたってお礼言っといて」
「びっくりしちゃうだろうけど、言っとくよ」
「じゃあ、バイバイ。おじいさんも手を振ってる」
「うん。バイバイ。おじいちゃん、見守っててくれてありがとう」
「あー、おじいさん、泣いてる。大人も泣くん…」

気付いたら、私以外、誰もいない病室。
いつのまにか、窓の外には雨が降っていた。
おじいちゃん、あの子をよろしくね。
暗い窓の向こうにささやいた。

次の日、ナースステーションに向かう途中で、相田さんに会った。
私の髪を見て、足を止める。
「それ…どこにあったんですか?」
蝶々の髪飾り。気付いてくれた。
「私のベッドの下に。エミリちゃんのですよね」
「え…?どうして笑里ちゃんのこと…会ったことないですよね?」 
「会いました。可愛い子でした」
「そんな訳ないですよ。亡くなったの、もう何年も前ですよ?」

廊下で二人、少し涙ぐんで。
相田さんは私の話を信じてくれた。
エミリちゃん、私よりお姉さんだったのかもしれないな。

8/1/2024, 2:47:56 PM

うまくいかないことも うまく出来たことにして
不安なんか無責任に忘れて やり直せる明日を待とう

こんな日もあるけどさ もう日が暮れて夜が来て
今日が思い出に変わる前に 自分らしさを取り戻して

明日もし晴れたら あなたに会えるかもしれないから
話したいことたくさん持って あの公園に行こう

明日がもし雨でも あなたに会えなかったとしても
話したいことたくさん集めて 会える日を待つよ

雨音のBGMであなたを夢見てる

明日もし晴れたら カーテンを開けて朝の光浴びて
明日がもし雨でも 心も大空も晴れ渡る日を待って

うまくいかないことも うまく出来たことにしよう
不安なんか無責任に忘れて 明日が来ればやり直せる

そうやって頑張っていることを あなたに話したい
雨音のBGMで会える日を夢見てる 明日もし晴れたら

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