Ryu

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8/2/2024, 2:01:14 PM

「えっ…?」
深夜、病室の窓から女の子が入ってきた。
ここは4階。
さっきまで、明日の手術が怖くて眠れない時間を過ごしていたのに、それよりも怖い出来事が起きてしまった。
パニックを起こしても無理はないだろう。

ところが、
「あ、こんばんは。私、エミリって言います。初めまして」
なんて、可愛く微笑みながら言うもんだから、もはや怖さよりも不思議の方が勝ってきてる。

「こんばんは…って、なんで窓から?ここ4階だよ?」
「ああ、夜は病院の入口が閉まってるから。」
「いや、答えになってないよ。どうやって上がってきたの?」
「え?見て分かるでしょ。私、幽霊だよ。高さなんて関係ないから」
…そーゆーもんなの?じゃあ、入口が閉まってたって通り抜けられるんじゃ…という言葉を飲み込む。
「そーなんだ。ごめんね、私、幽霊って詳しくなくて」
「なんで謝るの?ところでおねーさん、明日手術なんでしょ?」
「そうだけど…なんで知ってるの?」
「んー、幽霊だから」
…答えになってないって。
「そんなことよりさ、手術、怖い?どんな気持ち?」
「そりゃ怖いよ。逃げ出したくて仕方がない」
「そっか。そー思ってね、私が出てきたの」
「…どーゆーこと?」
「あんまり時間がなくてさ。手短に言うね」

彼女の身の上話だった。
以前、この病院に入院していたこと。
手術が必要だったが、ある理由から輸血が許されず、手術を受けられないままに亡くなってしまったこと。
あとは…何故かどこへも行けず、ずっとこの病院の周りを彷徨っていること。

「たぶん、この世界にサヨナラする気持ちが出来上がってなかったからだろーね、って、あのおじいさんが」
「おじいさん?」
「うん。あなたのおじいさんだって。二ヶ月前に死んじゃったって」
「え…?会ったの?」
「会ったってゆーか、最近ずっと一緒にいる。なんかね、自分が死ぬ直前に突然おねーさんがこれから入院ってなって、心配しながら死んだせいか、うまく成仏出来ないんだって」
「…罪悪感でいっぱいになりそうなこと、さらっと言うね」
「だからね、見守ってるから大丈夫だって」
「…ここには来れないの?」
「来てるよ。窓の外にいるんだけど…見えないんだね」
窓の外には夜の闇。人の姿はない。
「あなたは、こんなにはっきり見えるのに」
「私はね、手術がしたかったんだ。そしてもっと生きたかった。だから、おねーさんが羨ましいの。はっきり見えてても、私はもうこの世にはいないからね」
少しだけ、病室の窓が揺れて音を立てる。
「おじいさんが、頑張れって。まだこっちに来るなって。心配してくれる人がいるのも、羨ましいよ」
少女が目を伏せて、悲しそうな表情を見せる。
彼女の両親のことを聞こうとしたが、聞けなかった。
「だからね、もう心配しないで。今夜はゆっくり休んで、明日のために」
「…そーだね。生きるために、頑張んなきゃね」
あなたの分も…生きるよ。これは言葉に出来ない。
「あ、それと、これ」
蝶々の髪飾り。ローマ字で「Emilie」とある。
「私の名前入っちゃっててゴメンだけど、良かったら使って。ベットの下に落としたまま、誰も気付いてくれなくて」
「ありがとう。大事にするね」
「うん。それで、私の分も生きてね」
…さらっと言われた。
「じゃあ、行くね。あ、看護師の相田さんに、お世話になりましたってお礼言っといて」
「びっくりしちゃうだろうけど、言っとくよ」
「じゃあ、バイバイ。おじいさんも手を振ってる」
「うん。バイバイ。おじいちゃん、見守っててくれてありがとう」
「あー、おじいさん、泣いてる。大人も泣くん…」

気付いたら、私以外、誰もいない病室。
いつのまにか、窓の外には雨が降っていた。
おじいちゃん、あの子をよろしくね。
暗い窓の向こうにささやいた。

次の日、ナースステーションに向かう途中で、相田さんに会った。
私の髪を見て、足を止める。
「それ…どこにあったんですか?」
蝶々の髪飾り。気付いてくれた。
「私のベッドの下に。エミリちゃんのですよね」
「え…?どうして笑里ちゃんのこと…会ったことないですよね?」 
「会いました。可愛い子でした」
「そんな訳ないですよ。亡くなったの、もう何年も前ですよ?」

廊下で二人、少し涙ぐんで。
相田さんは私の話を信じてくれた。
エミリちゃん、私よりお姉さんだったのかもしれないな。

8/1/2024, 2:47:56 PM

うまくいかないことも うまく出来たことにして
不安なんか無責任に忘れて やり直せる明日を待とう

こんな日もあるけどさ もう日が暮れて夜が来て
今日が思い出に変わる前に 自分らしさを取り戻して

明日もし晴れたら あなたに会えるかもしれないから
話したいことたくさん持って あの公園に行こう

明日がもし雨でも あなたに会えなかったとしても
話したいことたくさん集めて 会える日を待つよ

雨音のBGMであなたを夢見てる

明日もし晴れたら カーテンを開けて朝の光浴びて
明日がもし雨でも 心も大空も晴れ渡る日を待って

うまくいかないことも うまく出来たことにしよう
不安なんか無責任に忘れて 明日が来ればやり直せる

そうやって頑張っていることを あなたに話したい
雨音のBGMで会える日を夢見てる 明日もし晴れたら

7/31/2024, 1:14:25 PM

運が悪いのかな。
周りの連中が、やたらと徒党を組んで、気付けば俺の悪口を言ってる。
分かってるよ。誰かをターゲットにしたいんだろ。
俺がその配役にちょうどイイんだろ。
喧嘩も強くないし、付き合いも悪いし、気の利いたことも言えないし。
俺がいて良かったな。
お前らの毎日は楽しいだろな。

誰かを陥れれば、自分の価値は上がる、ような気がする。
ワンランクアップしたような高揚感。
一人、格下を作るんだから当たり前だ。
でも、それは勘違いのネタが増えただけのこと。
お前らは誰よりも格下だよ。
徒党を組まないとトイレにすら行けない。
ちょっと運が良かったのかな。
今回は、白羽の矢を立てられなかっただけ。
明日は我が身だってことを思い知れ。

誰かを貶めて作る笑顔ならいらない。
心から笑うほど自分が腐っていく。
無理に付き合って自分を擦り減らす必要はない。
いずれきっと、俺以外の誰かがターゲットになる。
だって、誰だっていいんだから。
ロシアンルーレットを外してしまった。それだけのこと。
運が悪いんだ。
誰にだって起こり得る、アンラッキーなイベント。

群れをなす奴らが見つけた暇潰しは、獣以下の愚かな行為。
人ならざるものに堕ちてゆくだけの、虚しく意味のない争い。
あれに交われば黒に染まる。
だから、一人でいたい。

7/30/2024, 12:05:32 PM

あなたの澄んだ瞳は、世界を変えることは出来ないけれど、世界を変えたいと願っている兵士の心を癒すことは出来る。
ただ、そばにいるだけで。

命を賭して、人ならざる行為に身を捧げる者達へ。
その澄んだ瞳に何を見るのか。
過ちを繰り返す人類の愚かさを、夕暮れに小石蹴る少女の切なさを。

子どものように澄んだ瞳で、この薄汚れた世界を見回せば、きっと幼き時代に、精霊と交わした約束さえ思い出す。
こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかった。
濁りゆく世界は、あなたの瞳が映し出すリアル。

故郷を捨てて、大人になるためのプロットを経て、すべてがうまくいく魔法はないと知り、澄んだ瞳に陰りが生まれた。
あの日、両親に見送られて、遠く新しい世界を目指していた私はどこへ行ったのか。

道を誤ったボクサーのように、がむしゃらに生きることに疲れ果てた夜。
闘志と汗にまみれたその瞳は、どこまでも澄んでいて、誰よりも真実を見据えていたのに。
そっと今、リングを降りる。

澄んだ瞳で見つめられたら、もう一度すべてをやり直したいとさえ思えた。

人の子として生まれ、同じ世界に生きて、隔てるものなど何もないのに、あなたの瞳はフェイクのガラス玉。
濁るはずもなく、綺麗に磨き上げられて、世界の現実をありのままに映し出す。
残酷な、生きるに値しない世界を。

私は今日も、生き続けるために、濁った瞳で世界を見下ろしている。

7/29/2024, 12:29:57 PM

どんなに嵐が来ようとも、という言葉を聞いたら、その嵐にいかに耐えるか、が、必然的にイメージとして描かれるような気がする。
でも、所詮人間なんて、自然の力の前には為す術もない。
嵐が来て、様々なものを破壊され、大切なものを失っても、ただただ、耐えるしかない。

あ…そうか、耐えるのか。
命を失わない限り、人は耐えるんだな。
立ち向かうことは出来なくても、受け入れ、耐えることは出来るんだ。
そして、嵐という困難を乗り越えるんだろう。
あれ…?これは、立ち向かっていることにならないか?
嵐に打ち勝ったことにならないか?

人間は、どんなに嵐が来ようとも、打ち倒して前に進むことが出来るんだな。
白々しい、と思われるかもしれないが、本当に本当に、これを書き始めて成り行きに任せてたら、そんなオチに辿り着いた。
書いてみるもんだ。

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