Ryu

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5/23/2024, 2:06:28 PM


大学の友達が、まったく講義に出てこなくなった。
心配なので家を訪ねると、昼なのにカーテンを閉め切って、暗い部屋の中で身を縮めている。

「いったいどうしたんだ?何をそんなに怯えてるんだよ」 
「ヤバいんだ。ずっと俺を監視してる奴がいる」
「監視?何のために?」
「そんなの俺が聞きたいよ。外に出ると、俺にピッタリくっついて、ついてくるんだ」
「どんな奴なんだ?それは」
「黒ずくめで、顔も分からない」
「危害を加えられたりはしないのか?」
「今のところは。でもきっといつか、何か仕掛けてくる」
「今はどこにいるんだ?」
「姿は見えないけど、きっと近くにいるよ。俺には分かる」

夜になっても明かりをつけようとしない。
奴に見つかってしまうからだと言う。
だが、比較的落ち着いて見えた。
「こうして暗闇に隠れてれば、奴は姿を現さないんだ」
本当だろうか。夜の方が、闇に紛れて動いていそうな気がするが。

今夜は泊めてもらうことにして、明日は一緒に大学に行こうと約束した。
そしてもしそいつが後をつけてきたら、俺が撃退してやると。
俺は空手有段者だ。
そんなコソコソ野郎に負けるつもりはない。
彼は少し安心したように、その夜は深い眠りについた。

翌日は快晴だった。
恐れるものなど何もないと思えるような清々しさだが、太陽に向かって歩く大学への道中、後ろを振り返ると、彼の表情は信じられないほどに強張っている。

「どうしたんだ? 奴がいるのか?」
「お前…見えないのか…?」
「え…どこにいる!?」
「俺の…足もとだよ!」

彼の足元には、彼の影があった。
正面からの太陽の光を受けて、背後に、黒ずくめの…ずっとついてくる…。
すべてを瞬時に悟ったような気がした。
思うように単位が取れずに悩んでいたとも聞いている。
だが、まさかこんなにまで…病むほどに…。

その時、気付いた。
彼の影の右手には、刃物のようなシルエットが握られている。
実体の彼はそんなもの持ってない。
「きっといつか、何か仕掛けてくる」
そんな、馬鹿な。俺まで病んでしまったというのか。
幻を振り払おうと目を凝らした。

眩しい陽光の中、右手に刃物を持った影が、ゆっくりと地面から身を起こす。
ゆらゆらと立ち昇る影。
右手の刃物は、いつの間にか銀色のそれに変わっている。

「お、おい…」
「なあ、お前のおかげで、昨夜は久し振りに楽しかったよ。…ありがとな」

影が、彼に覆い被さるようにして、彼の体を黒ずくめに変える。
慌てて飛びかかったが、血まみれの彼にタックルしただけだった。
道行く人が立ち止まりこちらを見ている。
いつの間にか、血に濡れた刃物は俺の手に握られていた。
そして、あの暗黒の存在は、彼の足元で何事も無かったかのように…単なる影に戻っていた。

5/22/2024, 2:26:33 PM

こんなはずじゃなかったと思う一日だったけど、
そんな一日ももうすぐ終わるから。

美味しい夕飯食べて、
軽くお酒とか飲んで、
ゆったりとお風呂に浸かって、
のんびりYouTubeでも見て、
ぐっすり眠ろーか。

今日辛いことがあった分だけ、
明日はきっとイイ日になるよ。

だから大丈夫。
今だけはそう信じよう。
幸せな眠りにつくために。

それではまた明日。
このフレーズを使うなら今しかない。
明日になる前に、それではまた明日。

5/21/2024, 2:19:06 PM

ドラえもんが透明マントをくれた。
背中に羽織ったら、周りの誰にも気付かれない存在になれた。
いや、存在すらしていないのかもしれない。
「これで…どうしろと?」
ドラえもんは寝転がった三日月のような口で笑いながら、
「君の好きなようにしたらいいよ」

まずは、男の憧れを現実に。
詳細は省く。
でも、誰にも気付かれないから虚しさの方が強くなってくる。
しずかちゃんなら悲鳴を上げてくれるだろうか。
「キャー!のび太さんのエッチー!」って。
それが男の憧れだったりもする。

お金を手に入れるあれやこれやも考えた。
でも、所詮は小学生だ。
親の財布からお金を抜くとか、駄菓子屋のレジからお金を盗むとか。
「小学生だろうが、それ立派な犯罪だからな」
三日月の口が言う。
「分かってるよ。たとえバレなくたって、僕の良心が許さないからね」
男の憧れは満たそうとしたくせに…と言いたげな三日月。

「で、どーするんだ?」
「そーだな、ジャイアンとスネ夫にいつもの仕返しかな」
「セコいな。透明にならなきゃ勝てないのか?」
「だって僕はのび太だよ」
「だから何だ。自分に自信を持てよ」

そして、ボコボコにされた。
透明マントを羽織って、誰にも知られずに咽び泣く。
「そこにいるのは分かってるよ。戦えたじゃないか」
「ほっといてくれよ。僕なんか存在してないんだ」
「君ほど世話が焼けて、存在感のある人間はいないよ」
「褒めてるのか貶してるのか、よく分かんないよ」

青い満月に赤い三日月。未来の世界の猫型ロボット。
「そんなもん、いる訳ないか」
部屋に閉じ籠もって、周りの誰にも気付かれない存在になる。
どんなもんだい僕、透明人間。
マントなんてなくたって、ひみつ道具がなくたって。

夜空には黄色いお月様。明日は晴れるかな。
しずかちゃんからのLINE。
「明日こそ、学校に来てね」
さすが未来の僕の奥さん。こんな僕に気付いてくれた。
彼女に会いに、学校に行ってみようかな。
ジャイアンやスネ夫にも、リベンジがしたいし。

赤いお鼻の猫型ロボットは、僕達の未来は透明だって教えてくれた。
何の色にも染まらず、白いキャンバスに描いていくようなもんだって。
そうかもしれないな。
僕がしっかりしなきゃ、未来の奥さんだって失いかねない。
そして、僕達の努力次第で未来は変わっていく。
ありがとう、ドラえもん。夢は叶うと教えてくれて。

5/20/2024, 10:37:12 PM

理想は理想であって、現実とはかけ離れていて、手が届かない。
だから追い求めるけど、手に入れたと思っても、より高みの理想が現れて、結局永遠に追い求め続けることになる。
気付けば、最初の理想だった存在を自分が追い越してたりするけど、もうすでにそれは今の自分の理想ではなく、どれだけ頑張ったって理想の自分にはなれない。

まあ、なれてしまったら、すでにそれは理想ではないもんな。
つまりこれは、人間の欲が生み出す存在ってこと。
理想の相手を作った時点で、ありのままの自分を否定することになる。
いや…理想を抱く自分が、ありのままの自分なのか…。
いずれにせよ、ありのままの自分とは程遠い場所にいるのが、理想のあなたということ。

個人的には、理想は手に入れるものじゃなく、高みに置いて憧れるものであって、理想はいつまでも理想のままであることが理想なんだと思う。
…ヤバイ、よく分かんなくなってきた。
いつも行き当たりばったりで書き始めるから、だいたい途中で収拾がつかなくなる。
これじゃホント、理想には程遠いな。

通勤の電車には様々な人達が乗っていて、この中には、自分が理想とすべき存在がいるのかもしれない。
だけど、ホントの他人の心の内なんて分からないし、上辺だけ繕ってる人だってきっといる。
それならばもう、今の自分がいつだって理想の姿だと刷り込んで、より高みを目指すことだけ考えればいいのかも。

追い求めても手に入らないんであれば、もうすでに我がものにしてますよ作戦で。

アラを探せば矛盾だらけの文章だけど、まあ、大きすぎる欲を持つのも理想的とは言えないから、足るを知って尚且つ向上心があるくらいがベストかな、と。
ほら、高すぎる理想を持つと、虚しくなったりするし…身のほどを知ることも大切だよね。

…とか、アユネクを見て励まされてる人間が言うことじゃないな。
矛盾が過ぎる。
こんな矛盾のない、理想的なあなたになりたい。

5/19/2024, 9:48:08 PM

9.11 同時多発テロの追悼集会で朗読された詩、『最後だとわかっていたなら』。
これを聞いて、涙が止まらなかったことを覚えている。

あなたがドアを出て行くのを見るのが
最後だとわかっていたら
わたしは あなたを抱きしめて キスをして
そしてまたもう一度呼び寄せて
抱きしめただろう

その詩の一節だが、これは、いつの日も忘れてはいけない想いだなと改めて思った。

家族として暮らしていれば、そりゃあ喧嘩だってする。
だけど、険悪なまま言葉も交わさずに送り出して、そのまま帰って来なかったら?
どれだけ後悔してもしきれないだろう。

もちろん、言葉を交わしていれば平気という訳ではないが、私達は何が起きてもおかしくない世界で生きている。
いつ突然の別れが訪れても、精一杯の自分で接していたと言えるようでありたい。
運命を前に、私達の出来ることはそれくらいだから。

スティーブ・ジョブズは言った。
「今日が人生最後の日だったら、今日やろうとしていることをやりたいと思うか」
ジョブズは仕事も含めて話したのかもしれないが、私が人生最後の日にやりたいことは仕事なんかじゃない。
真っ先に家に帰って、家族との精一杯の時間を過ごすだろう。

普段の生活では、頭を過ぎらない突然の別れ。
だがそれはいずれ、必ずやって来る。
それを見据えて、どう生きるか。
私はただ、自分という人間を偽りなく表現して人と接していこうと思う。
それしか出来ない。

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