お前が俺のために先輩に殴られることを受け入れた時から、俺達の絆は固く結ばれている。
俺が野球部の部費を盗んで、そのお金でお前と一緒にラーメンを食べたことがバレて、普段から素行の悪いお前が疑われたのは、当然ちゃ当然な成り行きだった。
お前は先輩に呼び出され、それが人一倍お前を嫌っている先輩だったこともあって、端から弁解を聞くつもりなどなかったようだ。
逆に俺はその先輩から好かれていて、疑われない自信があった。
いや、もし疑われても、誰かに脅されてやったと言えば、きっとそいつに仕返ししてくれただろう。
先輩は、俺の姉貴と付き合っていて、ベタ惚れだった。
先輩の方にこそ、俺に嫌われたくない理由があるってことだ。
だから…目の前で先輩に殴られるお前を見て、当然ちゃ当然な成り行きだと思ったんだ。
絆の言葉の由来は、犬などを繋ぐ手綱だそーだ。
だからか、俺はお前に強い絆を感じている。
お前を手放さなければ、俺はきっと自由に楽しく生きられる。
切っても切れない絆だ。
それは、俺が担うはずだったポジションを、後から入部したお前が奪ったあの時から始まっている。
殴られたお前は、俺の隣にやって来て、
「お前は何も言うな」
と、小声で囁いた。
後ろめたさと小さな戸惑いを感じながら、
「分かった」
と、神妙な顔をして頷いた。
2ヶ月後、俺の姉貴は元カレとよりを戻した。
先輩はあっけなくフラれ、後輩への暴力も明るみに出て、退部に追い込まれている。
姉貴の元カレは、お前だった。
それが理由で先輩に嫌われていたわけだが、部の上下関係が無くなった今、お前は先輩に、まるで忖度するつもりもないようだ。
まあ、喧嘩したところで、お前が圧勝することは目に見えている。
俺はといえば、
先輩よりも男らしく、素行は悪いが、俺をかばって守ってくれるお前に、強い絆を感じている。
絆…?いや…
お前を手放さなければ、俺はきっと自由に楽しく生きられる。
切っても切れない絆だ。
最近、姉貴が邪魔だなーと思うようになってきた。
お前が俺のために先輩に殴られることを受け入れた時から、俺達の絆は固く結ばれているのだから。
ひなまつり第三夜
違いますよ。
怪物なんか襲って来なかった。
そういえば、お姫様はあの時も、魂を無効化していましたね、今のように。
だからご存じないのでしょうが、ココだけの話、お殿様は官女の一人と恋仲でね。
あの夜も、一年に一度やっと会えると忍んで行ったわけですよ。
そしたら、足を滑らせてひな壇を転げ落ち、床に叩きつけられて首を破損してしまったと。
そーゆーことです。
そもそも、あの生き物は何とも可愛いですよ。
怪物なんかじゃない。
動けなくなっているところを、こちらの娘さんに助けられて、お母様に渡されたと。
娘さん、ひどく悲しんでおられましたね、本当に優しいお人です。
私が同じようになっても、悲しんでくれるのでしょうか。
…え、想いのレベルが違う?
そんな、顔の作りは同じなのに…。
なんか、いろいろと喋りたくなりました。
お殿様はね、官女三人と関係があったんですよ。
ええ、取っ替え引っ替えです。
まったく、てっぺんにいるからってやりたい放題ですな。
そのくせ、お姫様にバレることに怯え、我々に口止め料だと、ひなあられを振る舞いました。
まあ、この家のご主人が買ってきたものですけどね。
我々も、もっとやりたいことやっていいんですかね?
(たまには、お題とまったく違うことを書いてみたり。)
そろそろ、この楽器構成でのお囃子にも飽きてきたところでして。
実はこの間、テレビで見たんですよ。
私達がこれから、目指したいって思う音楽の形。
五人全員の意見が一致しました。
ええ、娘さんが好きなんですよね。
そうそう、ヒゲダンって言ってました。
まあ、我々一人多いですけど、踊りの得意な奴がいましてね。
真ん中で踊らしとけばいいかな、と。
え?
ギター?
ベース?
ドラム?
…何ですか、それ?
太鼓ならいろいろありますけど…。
大好きな君に。
ごめんね。
一番大事な夜を、君と過ごせなかった。
他の女性と一緒だったなんて、君はさぞかし腹を立てただろう。
違うんだよ。
彼女が、大ケガを負った僕を治療してくれたんだ。
夜通しね。
首を切られていたから、生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだ。
…分かるだろ?
そりゃ僕だって、一年に一度のあの夜を、皆と過ごしたかった。
大好きな音楽を聴きながらお酒を飲んで、君と一緒にいたかった。
でもね、あの怪物だよ、僕を襲ってきたのは。
あの毛むくじゃらの、爪と牙の鋭い生き物だ。
抗えるわけがないじゃないか。
何とか一命を取り留めたけど、帰り道さえ分からなくて…君はよく僕の居場所が分かったね。
女の勘って…まさか、友達を三人も引き連れて迎えに来るとは。
怖かった…もとい、嬉しかったよ。
また来年まで会えないんじゃないかと思ってたからね。
とゆー訳で、これは決して浮気なんかじゃないんだ。
だって相手は、すでに結婚して夫がいる身だからね。
いや、それを浮気というって…確かにそうだけど…。
君の方が若くて美しいのに、他人の奥さんに手を出したりしないって。
え、その娘さんが僕に惹かれてる…?
いやいや、ひなまつりでお祝いされる娘さんって、いくつだと思ってんの。
今はもう他界した、祖母に聞いた話。
祖母がまだ幼かった頃、桃の節句には毎年ひな人形が飾られていた。
その当時にしてはなかなか立派なひな壇で、人形もオールスター勢揃いって感じ。
祖母のお気に入りはお内裏様で、子供ながらにその凛としたクールさに惹かれていたという。
ひなまつりの夜、祖母は、お内裏様がひな壇から落ちていることに気付き、拾い上げてみると、首のあたりが千切れかけていた。
当時、猫を飼っており、ひな壇のある部屋には入れないようにしていたつもりだったが、人の出入りに乗じて侵入したのだろう。
祖母は嘆き、母親に相談してみた。
それを聞いた母親は、今夜のうちに縫い直しておくことを約束する。
祖母は喜んで、ほっと胸をなでおろした。
次の日の朝。
祖母は、母親の悲鳴で目を覚ます。
慌てて両親の部屋に行ってみると、母の寝床の枕元に、お姫様と三人官女が並んで座っていた。
聞けば、目を覚まして横を見たら、お姫様と目があったという。
そりゃ悲鳴もあげるわけだ。
話はこれだけ。
母親は、夜に修繕したお内裏様をそのまま枕元に置いて眠ってしまったらしい。
お姫様は、夜になっても妻のもとへ帰らない夫を心配して、あるいは疑って、三人官女を引き連れてここまで来たのだろうか。
どうやってひな壇を降りたのか、どうやって扉を開けたのか。
謎は深まるばかり。
父親のイタズラかもしれない。
最後まで知らぬ存ぜぬの一点張りだったが。
それにしても、五人囃子の面々は、変わらずひな壇の上で呑気にお囃子を続けていたというから、女性同士で意気投合しての道行きだったのだろうか。
そんなことがあって祖母は、クールなお内裏様に熱を上げるのはやめようと心に決めたらしい。
それから何年も、ひなまつりのたびにそのひな人形は飾られていたが、誰もお内裏様にアプローチなどしなかったせいか、二度とカチコミが来ることは無かったそーだ。
今の私の目の前にある、たったひとつの希望。
それは、あとふたつの🖤をもらえたら、
いよいよ🖤1000に到達すること。
去年の暮れに書き始めて、2ヶ月と少し。
今読み返せば、始まりはたった3行のつぶやき。
こんなんでいいのか不安になりながら、しかも病院の待合室で違う意味でも不安になりながら、大空に対する憧れを描いたっけな。
それが今じゃ、長々と偉そうに自分語りしたりして、まったく人間のエゴってやつは…こんな控えめな俺なのに…ということはさておき、希望は欲望と同じで、ひとつには絞れないのが現実な気がする。
🖤が1000になったら、次は2000を目指す新たなる希望が生まれるだろうし、そろそろ新車も買いたいし、NISAで資産安定させたいし、家猫にもっともっと好かれたいし。
希望があるから人生楽しくなる。
叶わなくたって、思い描くだけでワクワクして、生きる糧にだってなり得るところが、欲望とは違うんじゃないかな。
欲望みたいに執着しないで、爽やかに追い求める…ん?
そしたら、自分語りも🖤1000も新車もNISAも家猫も、どっちかっていうと欲望に近かったりして。
思えば、去年の暮れのあの日、病院の待合室で不安を忘れたくて初めて書いた、あの大空に対する3行が一番希望にあふれていたのかも。
純粋な気持ち。これから始まることへの期待。叶う叶わないじゃなくて、ただ、大丈夫なんだという安心感を与えてくれることへの感謝。
そんな感情が、あの3行に込められている…気がする。
たまには初心に帰って、自分の心の内から生まれたものを読み返すことが、希望の種を見つけるヒントになるのかもしれないな。
まあ…🖤1000は純粋に嬉しいけど。