Ryu

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今はもう他界した、祖母に聞いた話。
祖母がまだ幼かった頃、桃の節句には毎年ひな人形が飾られていた。
その当時にしてはなかなか立派なひな壇で、人形もオールスター勢揃いって感じ。
祖母のお気に入りはお内裏様で、子供ながらにその凛としたクールさに惹かれていたという。

ひなまつりの夜、祖母は、お内裏様がひな壇から落ちていることに気付き、拾い上げてみると、首のあたりが千切れかけていた。
当時、猫を飼っており、ひな壇のある部屋には入れないようにしていたつもりだったが、人の出入りに乗じて侵入したのだろう。
祖母は嘆き、母親に相談してみた。
それを聞いた母親は、今夜のうちに縫い直しておくことを約束する。
祖母は喜んで、ほっと胸をなでおろした。

次の日の朝。
祖母は、母親の悲鳴で目を覚ます。
慌てて両親の部屋に行ってみると、母の寝床の枕元に、お姫様と三人官女が並んで座っていた。
聞けば、目を覚まして横を見たら、お姫様と目があったという。
そりゃ悲鳴もあげるわけだ。

話はこれだけ。
母親は、夜に修繕したお内裏様をそのまま枕元に置いて眠ってしまったらしい。
お姫様は、夜になっても妻のもとへ帰らない夫を心配して、あるいは疑って、三人官女を引き連れてここまで来たのだろうか。
どうやってひな壇を降りたのか、どうやって扉を開けたのか。
謎は深まるばかり。

父親のイタズラかもしれない。
最後まで知らぬ存ぜぬの一点張りだったが。
それにしても、五人囃子の面々は、変わらずひな壇の上で呑気にお囃子を続けていたというから、女性同士で意気投合しての道行きだったのだろうか。

そんなことがあって祖母は、クールなお内裏様に熱を上げるのはやめようと心に決めたらしい。
それから何年も、ひなまつりのたびにそのひな人形は飾られていたが、誰もお内裏様にアプローチなどしなかったせいか、二度とカチコミが来ることは無かったそーだ。

3/3/2024, 1:49:06 PM