ひなまつり第三夜
違いますよ。
怪物なんか襲って来なかった。
そういえば、お姫様はあの時も、魂を無効化していましたね、今のように。
だからご存じないのでしょうが、ココだけの話、お殿様は官女の一人と恋仲でね。
あの夜も、一年に一度やっと会えると忍んで行ったわけですよ。
そしたら、足を滑らせてひな壇を転げ落ち、床に叩きつけられて首を破損してしまったと。
そーゆーことです。
そもそも、あの生き物は何とも可愛いですよ。
怪物なんかじゃない。
動けなくなっているところを、こちらの娘さんに助けられて、お母様に渡されたと。
娘さん、ひどく悲しんでおられましたね、本当に優しいお人です。
私が同じようになっても、悲しんでくれるのでしょうか。
…え、想いのレベルが違う?
そんな、顔の作りは同じなのに…。
なんか、いろいろと喋りたくなりました。
お殿様はね、官女三人と関係があったんですよ。
ええ、取っ替え引っ替えです。
まったく、てっぺんにいるからってやりたい放題ですな。
そのくせ、お姫様にバレることに怯え、我々に口止め料だと、ひなあられを振る舞いました。
まあ、この家のご主人が買ってきたものですけどね。
我々も、もっとやりたいことやっていいんですかね?
(たまには、お題とまったく違うことを書いてみたり。)
そろそろ、この楽器構成でのお囃子にも飽きてきたところでして。
実はこの間、テレビで見たんですよ。
私達がこれから、目指したいって思う音楽の形。
五人全員の意見が一致しました。
ええ、娘さんが好きなんですよね。
そうそう、ヒゲダンって言ってました。
まあ、我々一人多いですけど、踊りの得意な奴がいましてね。
真ん中で踊らしとけばいいかな、と。
え?
ギター?
ベース?
ドラム?
…何ですか、それ?
太鼓ならいろいろありますけど…。
大好きな君に。
ごめんね。
一番大事な夜を、君と過ごせなかった。
他の女性と一緒だったなんて、君はさぞかし腹を立てただろう。
違うんだよ。
彼女が、大ケガを負った僕を治療してくれたんだ。
夜通しね。
首を切られていたから、生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだ。
…分かるだろ?
そりゃ僕だって、一年に一度のあの夜を、皆と過ごしたかった。
大好きな音楽を聴きながらお酒を飲んで、君と一緒にいたかった。
でもね、あの怪物だよ、僕を襲ってきたのは。
あの毛むくじゃらの、爪と牙の鋭い生き物だ。
抗えるわけがないじゃないか。
何とか一命を取り留めたけど、帰り道さえ分からなくて…君はよく僕の居場所が分かったね。
女の勘って…まさか、友達を三人も引き連れて迎えに来るとは。
怖かった…もとい、嬉しかったよ。
また来年まで会えないんじゃないかと思ってたからね。
とゆー訳で、これは決して浮気なんかじゃないんだ。
だって相手は、すでに結婚して夫がいる身だからね。
いや、それを浮気というって…確かにそうだけど…。
君の方が若くて美しいのに、他人の奥さんに手を出したりしないって。
え、その娘さんが僕に惹かれてる…?
いやいや、ひなまつりでお祝いされる娘さんって、いくつだと思ってんの。
今はもう他界した、祖母に聞いた話。
祖母がまだ幼かった頃、桃の節句には毎年ひな人形が飾られていた。
その当時にしてはなかなか立派なひな壇で、人形もオールスター勢揃いって感じ。
祖母のお気に入りはお内裏様で、子供ながらにその凛としたクールさに惹かれていたという。
ひなまつりの夜、祖母は、お内裏様がひな壇から落ちていることに気付き、拾い上げてみると、首のあたりが千切れかけていた。
当時、猫を飼っており、ひな壇のある部屋には入れないようにしていたつもりだったが、人の出入りに乗じて侵入したのだろう。
祖母は嘆き、母親に相談してみた。
それを聞いた母親は、今夜のうちに縫い直しておくことを約束する。
祖母は喜んで、ほっと胸をなでおろした。
次の日の朝。
祖母は、母親の悲鳴で目を覚ます。
慌てて両親の部屋に行ってみると、母の寝床の枕元に、お姫様と三人官女が並んで座っていた。
聞けば、目を覚まして横を見たら、お姫様と目があったという。
そりゃ悲鳴もあげるわけだ。
話はこれだけ。
母親は、夜に修繕したお内裏様をそのまま枕元に置いて眠ってしまったらしい。
お姫様は、夜になっても妻のもとへ帰らない夫を心配して、あるいは疑って、三人官女を引き連れてここまで来たのだろうか。
どうやってひな壇を降りたのか、どうやって扉を開けたのか。
謎は深まるばかり。
父親のイタズラかもしれない。
最後まで知らぬ存ぜぬの一点張りだったが。
それにしても、五人囃子の面々は、変わらずひな壇の上で呑気にお囃子を続けていたというから、女性同士で意気投合しての道行きだったのだろうか。
そんなことがあって祖母は、クールなお内裏様に熱を上げるのはやめようと心に決めたらしい。
それから何年も、ひなまつりのたびにそのひな人形は飾られていたが、誰もお内裏様にアプローチなどしなかったせいか、二度とカチコミが来ることは無かったそーだ。
今の私の目の前にある、たったひとつの希望。
それは、あとふたつの🖤をもらえたら、
いよいよ🖤1000に到達すること。
去年の暮れに書き始めて、2ヶ月と少し。
今読み返せば、始まりはたった3行のつぶやき。
こんなんでいいのか不安になりながら、しかも病院の待合室で違う意味でも不安になりながら、大空に対する憧れを描いたっけな。
それが今じゃ、長々と偉そうに自分語りしたりして、まったく人間のエゴってやつは…こんな控えめな俺なのに…ということはさておき、希望は欲望と同じで、ひとつには絞れないのが現実な気がする。
🖤が1000になったら、次は2000を目指す新たなる希望が生まれるだろうし、そろそろ新車も買いたいし、NISAで資産安定させたいし、家猫にもっともっと好かれたいし。
希望があるから人生楽しくなる。
叶わなくたって、思い描くだけでワクワクして、生きる糧にだってなり得るところが、欲望とは違うんじゃないかな。
欲望みたいに執着しないで、爽やかに追い求める…ん?
そしたら、自分語りも🖤1000も新車もNISAも家猫も、どっちかっていうと欲望に近かったりして。
思えば、去年の暮れのあの日、病院の待合室で不安を忘れたくて初めて書いた、あの大空に対する3行が一番希望にあふれていたのかも。
純粋な気持ち。これから始まることへの期待。叶う叶わないじゃなくて、ただ、大丈夫なんだという安心感を与えてくれることへの感謝。
そんな感情が、あの3行に込められている…気がする。
たまには初心に帰って、自分の心の内から生まれたものを読み返すことが、希望の種を見つけるヒントになるのかもしれないな。
まあ…🖤1000は純粋に嬉しいけど。
足るを知る。
世界にはモノがあふれている。
中でも、日本の品揃えはヤバすぎないか。
カップラーメンひとつとっても、種類が多すぎて選べない。
悩んでしまう。…そんなにいる?
中には、こんなカップラーメン誰が食う?みたいなんもあって、遊び半分で作ってんのか?と勘ぐってしまう。
個人的には、カップヌードルがあれば十分だけどな。
でも、シーフードが好き。
都庁にプロジェクションマッピング。
ピカピカさせて映像を見せるだけで総じて18億円かかるそーだ。
下手な映画よりコストがかかってる。
雷もオーロラも無料だぞ。
都内にはたくさんのホームレスの人とか、生活困窮者がいるのに。
人が生きることが第一優先だよな。
鑑賞料取って、それを財政に回せばいい。
だけど、人は欲望の生き物だから、
いろんな種類のカップラーメンも食べたいし、
綺麗なプロジェクションマッピングだって見たい。
食べたことのない珍しいラーメンがあれば食べてみたくなるし、壮大な光のShowが無料なんて願ってもない。
素晴らしい世の中だけど、歯止めが効かなくなりそーで、ちょっと不安。
老子は言った。足るを知る。
そんなにたくさんの種類のラーメンがなくたって、デッカイ建物をスクリーン扱いしなくたって、私達は幸せに生きていける。
でも、娯楽がいろいろあればあるほど、その幸せは増幅されるだろう。
人間の欲望は尽きることがないから、ずっと何かが足りないと錯覚してしまうのだろう。
だからつまり、無理や無駄や無茶がなければいいのかな。
全員が、とはいかずとも、たくさんの人がそれを楽しめるのなら、それは決して無駄じゃない。
日本中が停電になるほどの無理な電力供給はせずに、
コーラ味のラーメンなんて無茶なレシピは考えずに。
欲望のままに生きてちゃ、人間だって単なる獣だからね。
ただ、あれ…居酒屋の残飯処理はちょっとな。
…いや、居酒屋が悪いんじゃなくて、食えもしないのに次々と注文する奴ら。
海賊かっての。食べ残して貴重な食料を無駄にする。
足るを知れ。一品二品で十分なはずだ。
いや、何品頼もうと勝手だが、頼んだからには全部食え。食えるだけ頼め。
まあ、たまには酔っぱらって細かいこと考えないで、自分の好きなもん頼んで失敗することもあるか。
だけどせめて失敗した時には、世界には満足に食べられない人達がたくさんいることを、ほんの少しでも思い出して欲しい。
ダイエットの励みにも…なるかもよ?