列車に乗って 遠くの街へ
現実からの逃避行
君は今 物憂げな空の下
小さな命を燃やしてここにいる
Love you 太陽のようなあなたと
0からやり直すことが出来るなら
同情から始まる恋でもいい
枯葉に埋もれた 今日にさよならしたいから
あなたのお気に入りの歌
他の誰よりも上手く歌えるわ
10年後の私から手紙が届くなら
10回目のバレンタインをあなたとどう過ごしたか
知りたいけど 待って言わないで
伝えたい気持ちは 隠しておいて
この場所で誰もがみんな祝福の
花束を抱えてスマイル スマイル スマイル
誰にも言えないことがあるとすれば
時計の針は 戻したくてももう戻せないってこと
溢れる気持ちに嘘はないけど
Kissをするたびに不安になる
1000年先も変わらないものはなく
勿忘草でさえ いつかは枯れてしまう
ブランコに揺られるような旅路の果てに
あなたに届けたい I LOVE…今だけは…
心配しないで、大丈夫だから。
あなた無しでも、やっていけるから。
夕暮れの電車。
中吊り広告に、来週までのイベント。
あなたと行くはずだった、海外アーティストの展覧会。
同じ作品が好きだと知って、運命を感じたもう遠い日。
あなたは遠くの街で、きっと彼女と上手くやれる。
こんなにも私から遠く離れたのは、気持ちを振り切るためだってちゃんと分かってる。
新しい彼女は、あの作品をどう思うの?
あなたの住む街では、この展覧会は見れないの?
きっと、出会えたことは幸運だった。
こんな傷跡を残したけれど、あの頃の私は幸せだった。
ありがとう。二十歳の誕生日を祝ってくれて。
ありがとう。私のワガママを聞いてくれて。
心配しないで、大丈夫だから。
あなた無しでも、やっていけるから。
鉄橋を渡る電車から、川の向こうに沈む夕日を見てる。
あなたの住む街でも、同じ夕日が空をオレンジ色に染めているのだろう。
私とあなたが好きだった、あの絵のように。
電車が向かう場所には、あなたはもういない。
でも、心配しないで。
私を待つあの人がいる。
もう一度やり直そうと言ってくれた、あの人がいるから。
遠くの街へ行ってしまったあなたも、どうか幸せでありますように。
あの展覧会が、あなたの住む街にも訪れますように。
青空の下で、深呼吸。
これが私の現実逃避。
青い空も、自分の呼吸も現実だけど、日常、心はもっと窮屈な場所にいるから、これだけでなんか解放された気分になれる。
雨の日や曇りの日は、青空は望めないから音楽を聴く。
今いる世界線とはまったく別の場所へ連れ去ってくれるような音楽。
ポップでもシリアスでも、その時々の気持ちに寄り添ってくれる音楽が必ずあって、それを見つけ出すことも楽しい。
どう頑張っても、現実から逃げることは難しいのが現実。
だから、逃げるポーズを取るだけ。
たまにはツライことや嫌いなことに背を向けて、気分のイイ世界に浸ることは必要だ。
現実逃避の方法は人それぞれだと思うけど、そのためのツールはそこら中に転がってる。
今日も気持ちのイイ青空だ。
朝の電車の中で深呼吸。
現実は、詰め込まれた車内で身動きも取れないような状況だけど、心が弾む音楽を聴きながら、窓の外の青空に溶け込んでゆくような気分で、さあ、テキトーに仕事する心の準備を整えよう。
君は今、閉じ込められている。
もうずっと暗闇の中、ほとんど身動きも取れず、
体を丸めた状態でロープに繋がれているようだ。
時折、暗闇の向こうから誰かの笑い声が聞こえてくる。
男と女の笑い声。
彼らが、君を閉じ込めたのだろうか。
本来なら憎むべき相手であるのに、
何故かその声に愛情を感じてしまう。
早くここから出して欲しい。
でも、君は心のどこかで、
このままでいられることも望んでいた。
気付けば、過去の記憶が一切無い。
自分はいったいどこから来たのか。
君の心に、次第に不安が広がってゆく。
ずっとここにいた方がいいのでは?
ここなら、お腹を空かすこともなく、
安心に包まれた液体の中にいるようだった。
ある日突然、暗闇に光が射し込み、
次の瞬間、眩い光に溢れた空間に放り出された。
白衣を着た、数人の男女が君を見下ろしている。
そして、聞き覚えのある二人の声。
優しげな笑顔で、君を見つめる二人の男女。
いつしか室内は君の泣き声に包まれていた。
産声を上げた君のへその緒が切られ…。
祝福された君は、いつかの不安などすっかり忘れて、
これから始まる新しい人生に、心震わせていた。
バスを待つ彼女の横顔はいつも物憂げで、その横顔に僕は恋をしていた。
醸し出される大人の雰囲気。
そこはかとない色気と、妖艶さまでを感じるほど。
クラスの女子には感じたことのない女性そのものを、彼女は身にまとっていた。
恋は実らずに、僕は社会人となる。
仕事はキツく、ミスを繰り返しては怒鳴られ、プライドを削り取られてゆく。
そんなある日、初めて美容院デビューしたお店で、バス停で見かけなくなって久しい彼女に出会う。
彼女は美容師として働いていた。
でも、あの頃の面影はまるで無く、満面の笑顔で接客する彼女は、まるで別人のようだった。
偶然彼女は僕の担当となり、僕はドギマギしながらも、鏡越しの彼女に当時のことを話す。
「朝のバス停で、あなたをよく見かけてました」
「そうなんですか。もう何年も前ですよね。私が、前の会社に勤めてた頃のことですもんね」
「会社、やめられたんですか」
「ええ、あまりにも仕事がキツくて、毎日のように怒鳴られて。朝のバス停じゃ私、死んだ魚みたいな目をしてなかったですか?」
大人の色気と妖艶さを持った、死んだ魚だったのか、あの当時の彼女は。
憂いにあふれる朝を繰り返す彼女にとって、物憂げな雰囲気が横顔に滲み出ることは必然だったようだ。
今、こうして僕の髪を切る彼女は楽しそうで、接客中であることを差し引いても、前の会社をやめたことは彼女にとって正しい選択だったのだろう。
アンニュイな横顔に惹かれていた僕にとっては複雑極まりない展開だったが、当時の思い出を楽しそうに話す彼女の笑顔も、色気と妖艶さは無くとも、恋が芽生えそうなほどの魅力を含んでいた。
店を出ると、物憂げな空が広がっていた。
あの頃の彼女に似合う天気だった。
僕はといえば、明日の仕事に対する不安な気持ちと、また次回の美容院で彼女に会える期待が入り混じって、気楽に考えていいのかな、いざとなったら別の道だってあるんだ、と自分に言い聞かせながら、家路を歩いた。
あのバス停の前を通り過ぎる。
物憂げな空の雲の隙間から、ゆっくりと太陽の陽射しが差し込むのが見えた。