Ryu

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君は今、閉じ込められている。
もうずっと暗闇の中、ほとんど身動きも取れず、
体を丸めた状態でロープに繋がれているようだ。
時折、暗闇の向こうから誰かの笑い声が聞こえてくる。
男と女の笑い声。
彼らが、君を閉じ込めたのだろうか。

本来なら憎むべき相手であるのに、
何故かその声に愛情を感じてしまう。
早くここから出して欲しい。
でも、君は心のどこかで、
このままでいられることも望んでいた。

気付けば、過去の記憶が一切無い。
自分はいったいどこから来たのか。
君の心に、次第に不安が広がってゆく。
ずっとここにいた方がいいのでは?
ここなら、お腹を空かすこともなく、
安心に包まれた液体の中にいるようだった。

ある日突然、暗闇に光が射し込み、
次の瞬間、眩い光に溢れた空間に放り出された。
白衣を着た、数人の男女が君を見下ろしている。
そして、聞き覚えのある二人の声。
優しげな笑顔で、君を見つめる二人の男女。

いつしか室内は君の泣き声に包まれていた。
産声を上げた君のへその緒が切られ…。
祝福された君は、いつかの不安などすっかり忘れて、
これから始まる新しい人生に、心震わせていた。

2/26/2024, 10:19:21 PM