【優しさ】
Q.優しくなるには何が必要?
A.相手の気持ちを推し量る想像力。
Q.想像力を身につけるには何が必要?
A.楽しい経験と苦い経験。
Q.経験を得るには何が必要?
A.生きる覚悟。
Q.覚悟を決めるにはどうしたらいい?
A.決めた自分にただ誠実であればいい。
Q.誠実であるためにはどうしたらいい?
A.…しりとりをしようと言ったんだけどなんで禅問答になってるの?
Q.なんでしりとりが禅問答になっちゃったの?
A.…お互い暇を持て余しているから。
Q.つきあってくれるなんて優しいね?
A.余裕があると人は優しくなるのさ。
【確率】
地面がゆれた。
砂ぼこりが舞う中で、よろけるように走った。
お母さんがぼくの手をひっぱり、逃げ道を必死に探していた。
お腹がすいた。
とても苦い草をなんとか口に押し込んでからだいぶ経つ。
のどが渇いた。
雨が久しく降っていなかったので溜まり水を飲んだけど、
じきにまたお腹が痛くなってくるに違いない。
息を切らしながら──目の前に倒れ込んだ。
すぐに温かいお母さんの手が伸びてきてぼくを包む。
ぼくが生まれる前からこの国は戦争をしていた。
周りの国が首を突っ込み、ますます悪化していった。
食べるものも飲むものも事欠く中では、
住むところも着るものもどうでもよくなっていた。
お母さんが泣いてぼくをさすってくれた。
赤いぶつぶつがいっぱい腕に出ている。
体中が熱い!
まだ小さかったぼくには大人ほどの体力が無かったのだ。
深く、深く息をしてから静かに目を閉じる。
そして生まれて初めて──爆撃音の無い静かな世界を知った。
…どうしたことだろう。
しばらくしてぼくは目を開けた。
空を昇ったぼくは、下に小さな骸と泣き叫ぶお母さんを見た。
それから、戦争をしていない豊かな国の人々の声が聞こえた。
「なんで他の国にお金なんか寄付するの?」
「自国民を助けるのが先だろう?」
空にはたくさんの人がいた。
ふわふわの雲の上でだれもがふわふわと歩いていた。
ここは天国かと尋ねると、違う、とその人は応えた。
ここは天国に行く前の世界で、この先どうするのか決めるところだと言われた。
「君はずいぶんな目に遭ったみたいだね?次は天国に行きたいかい?」
そう聞かれたので、
「ぼくはまた人間に生まれたい」
と言ったらその人は目を丸くした。
「どうして?」
「だって、お母さんにまた会いたいから」
その人は小さく笑って言った。
「人間に生まれるのは…難しいんだよ」
「そうなの?どのくらい?」
ぼくは尋ねた。
「”盲亀浮木(もうきふぼく)の譬え”というのがある。
100年に一度海面に上がる盲目の亀が、たまたま流れてきた穴の空いた浮木に頭を通す
…そのくらい難しいんだ」
「ふうん。じゃぁうんとうんと待てば、いつかは人間になれるんでしょ?」
「そうだね、確率はゼロではないね」
「じゃぁ、人間になれるまで待ってる」
その人は上を見て、次にぼくを見てから再び笑って言った。
「君がまた人間に生まれたい、と言う確率もまさに盲亀浮木のごとくだったんだけどね」
そして僕の肩に手をかけて続けた。
「では天国に行きなさい。次に生まれるその時まで、楽しく遊んでいらっしゃい」
柔らかな光がぼくを包み、一緒に更に上へと昇っていった。
最後にその人の声が聞こえた。
「人間に生まれるのは、ほんと難しい──”有り難い”ことなんだよ」
【安心と不安】
気が付けば息苦しく暗い道に居た。
長く長く、終わりが無いように見えるトンネル。
この道を自分は進まねばならない。
何故って、後ろを振り返ればトンネルが閉じられていくのが見えるからだ!
呑まれてしまえば何もかも終わるのだろう。
だからひたすら進む。
前へ、前へ…!
心臓がドキドキする。
気を緩めば呑まれて終わってしまうかもしれない恐ろしさと、
この先に何か開けた場所があるかも知れない希望が入り混じり
僕の胸を締め付ける。
前へ、前へ…!
不安から逃れるように、
不安に吞み込まれないように。
前へ、前へ…!
次の瞬間だった。
あまりにも眩しすぎる光に目を閉じた僕は、
思い切り息を吸い、そして吐いた。
何が起こったのだろうか。
その時は理解できなかったが、耳からはこんな言葉が聞こえた。
「無事に生まれましたよ、元気な男の子です!
おめでとうございます!」
くすぐったい温かさをもったその言葉に僕は安心した。
【逆光】
外は明るい。
夏の強い日差しを真っ直ぐに受けた背中が熱い。
眩しさに顔をそむけた私の顔には濃い影が落ちていた。
くらくらするほどの蝉の声、遠くで走る電車の音、
空には一筋の飛行機雲。
川辺には自生する向日葵や夏の草花。
にぎやかな世界。
でも私の顔には濃い影が落ちていた。
それは、
映し出される明るい世界とは真逆の私の心のようだった。
多くの人の人気を博す人たちの中で、
凡庸な私はどこまでも影だった。
才能を輝かせる友たちの中で、
凡庸な私はどこまでも影だった。
大きな太陽は光と影をくっきりと分ける。
熱い背中と暗い顔。
でもどちらも自分なのだ。
逆光の所為で顔が暗かったとしたら──
そう、反対を向いたらどうだろうか。
太陽の方へ向いたらどうなるだろうか。
顔は明るくなるだろうか。
心は温かくなるだろうか。
その一歩を決めるのは
自分しかいない。