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3/27/2026, 6:00:18 AM

「私には何もないから」
というのが姉の口癖だった。
兄弟や姉妹というものは必ずしも平等ではない。両親だって人間だ。いくら子供でも好きなところもあれば嫌いなところもある。子供から見てもそうだということは、数十年生きてきた中で十分学んできたことだ。
姉は私とは違い、とても女の子らしかった。私から見ても美人だと思うし、姉が気づいていないだけできっとモテていたはずだ。
私はというと、陸上部に所属していて、男の子っぽい性格もあり、いわゆる同性からモテるタイプだった。
中学に入って陸上を始めてからは、どうやら素質があったらしくメキメキとタイムを縮めていった。
元からお淑やかというか、自慢しないタイプの姉が、さらにそうなってしまったのは私が中学2年生の頃。
私は県の大会で表彰台に上った。
元々正反対であった私たちは、周囲からはさらに比べられるようになっていた。たぶんそこから姉の口癖が目立つようになったのだ。
姉が中学を卒業する頃、とある男子生徒に告白された。
その男子生徒は、私と同じ学年の野球部員だった。成績はそこそこ、野球でも目立った活躍があったようには見えなかった。放課後、部活の休憩中。誰よりも声を出し、一生懸命に野球に打ち込むその生徒に、私は目を奪われていた。

才能なんて、結局他人の評価でしかなかったんだ。


お題:ないものねだり

3/26/2026, 3:11:39 AM

木曜日の深夜0時。壁に掛けた時計の針がてっぺんを回ったとき、テレビのチャンネルが自動で切り替わり、録画が始まった。
きっかけは単なる予定外の夜更かしだった。普段、見てもいないテレビをつけっぱなしにする習性がある私は、その日もいつもと同じように、とあるチャンネルを映していた。
深夜0時を回って、明るいジングルとともにそのアイドル番組は始まった。
特にファンというわけでもないし、推しがいるわけでもない。CDがリリースされたという広告を何度か見たことがあるぐらい。有名なプロデューサーがプロデュースしている、というだけの認識だった。
内容はよくあるアイドル番組と同じで、好きなものやハマっているものの紹介、ライブで遠征したところでの観光の様子だったり、そのアイドルグループが好きな人にとっては見応えのあるものなのだろうと思っていた。
それからしばらくその番組をリアルタイムで見るようになった。理由は特にない。たまたま夜更かししたときにつけていたチャンネルがそこだったり、なんとなく見続けていたら見ないと落ち着かなくなってしまっていた。
しばらく経って就職活動が始まってからは夜更かしも、その番組の存在も忘れていた。
ふと思いだして、そのアイドルグループを調べてみたら、センターの娘が卒業していた。
特に好きでも無かったが、なんとなく寂しさというか、ストンと何かが落ちたような、そんな気持ちになった。


お題:好きじゃないのに

3/25/2026, 3:30:51 AM

「〜ところにより雨が降るでしょう」
朝のニュース番組で聞き流したアナウンサーの声が反芻する。
僕は部屋の中から、窓を打ちつける雨の音を聞いていた。時々、ゴロゴロと音を立てている。昔から雷は苦手だった。今でもそんなはずはないと思いつつ、雷がなったら部屋の電気を全て消してしまう。祖母の脅しのような言葉のせいで、部屋の中は真っ暗だった。
いつもならこの時間はまだスマホをいじっていて、少しの眠気も許さない。しかし今は、一刻も早く眠気を呼び起こそうと布団のなかで丸まっていた。
部屋の中はビールの空き缶や空のペットボトルが占領していた。片付けないといけないと思うごとに、それらは領地を広げていった。ウサギのキーホルダーの着いた赤色のランドセル。落として割れてしまった写真立て。それらをみないように、僕は再び布団のなかに潜った。
小学校近くの裏山。そこの土が大雨によって掘り起こされる映像を鮮明に想像してしまう。
雨の音に混じってサイレンの音が聞こえるような気がした。
ずっと「気の所為だ」と言い聞かせながら、僕はいつの間にか眠りについていた。

お題:ところにより雨

3/21/2026, 1:11:12 AM

ラブレターを書いた。
中学3年の春。ずっと片思いしていた女子に。
僕はいつも通り早く、家を出て学校を目指した。部活動にも入らず、ましてやクラス委員でもない自分がこんなに朝早くに家を出ることを母親は不思議がっていたが、なんとか誤魔化せた。いや、母親のことだ、もしかしたら気づいていたのかもしれない。
こんな朝早くに学校に来ることなんてなかったから、生徒で溢れかえっていない昇降口というのは新鮮だった。僕は彼女の上履きが入っている場所を探した。棚の側面にピタリと立てかけて、正面からは見えない位置にセットした。安直ではあるが、映像作品ではよくある、下駄箱に入れておくという手法だ。もしかしたら僕以外の人が登校してきて後ろでこの様子を見られているのでは。そう考えて指先が震えていたと思う。
彼女はクラスの人気者というわけではないが、特別一人で浮いているというわけでもなかった。
誰にでも当たり障りなく接し、だからといって、群れているわけでもない。容姿は綺麗な方だと思う。恋愛経験がない僕にとって、当時の気持ちは今思えば興味に近かったのかもしれない。
教室に向かうときも静かだった。普段、生徒同士の会話や、職員室から漏れ出る先生たちの声、そういう物があまり聞こえない。その静けさが僕の心を落ち着かせた。
教室について席に着いた時、早起きの代償である眠気が襲った。誰もいないこの空間で、僕は机に突っ伏した。直にほかの生徒が来て騒がしくなるだろう。
僕は、覚めないようにと願って眠りについた。



お題:夢が覚める前に

3/4/2026, 2:55:52 PM

大好きな君のために言葉を贈った。
それはもう緊張に緊張を重ねて途中噛んでしまったが、君は笑ってくれた。

大好きな君と散歩に行った。
普段気にもしていない景色が、君といると少しだけ違って見えた。

大好きな君に花を贈ろうと思った。
だけど、なんだか照れくさくて、結局玄関先に置いてきてしまった。

大好きな君のためにりんごをむく練習をした。
それはもう、プロ顔負け…とはいかなかったけど、りんごは美味しかった。しばらくは見なくていいと思った。

大好きな君に会いに行った。
昼が近いというのに、君はまだ寝ていた。僕はそれを見守った。

大好きな君のために、あと何回、何かができるのだろうか。



お題:大好きな君に

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