正城が部屋の掃除をしていると小学校の卒業アルバムと、クラスの文集が出てきた。
卒アルは綺麗な写真が製本されているし、記念品に残しておいてもいいだろう。問題は文集の方だ。小学生の手描きのヘニャヘニャとした文字で、プロフィールや学校で一番楽しかったことが綴られている。今後読み返すことはあるだろうか?
正城は文集をぺらぺらとめぐりながら、数人の友達のページを見返した。友達…と言えるのだろうか?私立中学に入ったため、彼ら彼女らとは一切連絡をとりあっていない。当時は楽しいこともあったはずだ。でも、その楽しさを具体的には思い出せない。自分には小学校の友達の思い出と呼べるものが無い気がする。
正城はため息を付き、文集を捨てるモノ側に置いた。
これは教訓だ。人の縁や思い出はもっと意識して作って、繋ぎ止めておかなければならないという。幸い中学のクラスも水泳部も気の良い奴らだ。
不要なプリント類と一緒くたに打ち捨てられる小学校の思い出。中学の文集はこんな目に合わせないようにしてやりたいものだ。
『現実逃避』
幹也はPCを閉じる。空港に向かわなければならないギリギリの時間まで、結局オフィスに残ってしまった。
これから日本に帰国して一ヶ月は今のプロジェクトに手を付けられないのだから、最後まで粘るのは当然のことだろう。そう自分でも思っていたが、朝日が登ってきた窓を見て、自嘲の笑みがこぼれた。
「これが現実逃避とは、悲しいものだな」
どうせ気が乗らない帰省なら、腹いせに思いっきり遊び倒せばよかったのに。
まったく、義務感というのは麻酔である。
結局自分は嫌がりながらもその麻酔に頼りきりなのだ。きっと。
麓の高校へ進学を決め、受験の合格通知が届いたのと時を同じくして、祖母が病に伏せた。
ずっと通い病院に行っていたが、今度は長期入院になるらしい。気が付かなくてごめんと謝ると、祖母は
「受験のほうがずっと大事よ。制服姿が見れるまで生きてただけでも儲け物さね。合格おめでとうねぇ」
と病室で笑顔を見せてくれた。
一人きりで山の上の実家に戻る。自分は進学を機に街で一人暮らしだから、祖母のいないこの家はしばらく無人になるのだろう。いつまでだろうか、祖母は帰ってこれるのだろうか。
ここに尋ねてくる人は、誰もいない家を前にがっかりしないだろうか。
わかっている。もうあの子と別れて2年になる。これまで顔を見せに来てくれなかったのに、これから来ることはない。
彼は今頃どうしているのだろうか。
「小さな命」
迫水はようやくその猫を見つけた。
増水した河川に巻き込まれ、息も絶え絶えな小さな命は、それでもまだ生きていた。
この子猫を助けて、そう彼女に頼まれたからには全力を尽くすしか無い
しかし、ここまで弱っていたら動物病院に駆け込んでなんとかなるだろうか?
奇跡の力がこの世にはあると最近知ったのに、自分にはどうしようもないことばかりだ。
迫水は唇を噛み締めた。