大切なもの
「大切なもの」って、
失った後に初めて理解するらしい。
そんなの嫌だ。
もっと早く、
誰か教えてくれれば良かったのに。
見つめられると
他人の目が怖くなったのはいつからだろう。
「他人の目」というのはそのままの意味で、体の部位としての眼だ。
他人の私を見る目は、どこか冷たくて、私を突き放しているような目に見える。
他人が私をどう思っているかわからないから、本当のことは知らない。
それとも、知らないからなのか。
いつ、誰に見られているか分からない。
そんな恐怖感が頭にこびりついている。
だから、「見られても怖くない」相手は久しぶりに感じた。
彼の視線は、怖くない。
今は特に、周りの視線がきつくなっているように感じるのに、不思議だ。
それどころか、見つめられると心地良さを感じるなんて。
人の温もりって、こういうことなのかな……兄さま。
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自創作 硝煙は笑う より
目が怖い人 優子
彼 西浦
兄さま 高嶋
My heart
「なんで心臓とか心って、ハートの形で表すんだろうな」
突然、隣の相棒が言う。
「なんでって……そりゃ、心臓の形がハートに似てるからじゃないの?」
「いや、心臓はそうかもしれないが、『心』はおかしいだろ。形とかねーし」
「そんなこと言われてもなぁ……」
そんなことに疑問ももたなかった私は、相棒の話にあまり集中していなかった。
そんなことも構わず、彼は話を続けているが……
翌日。
「なぁ、あん時のハートの話さ、オレ分かったんだよ」
「ハートの話……?ってなんだっけ」
「うぉい!あれだよ、心ってハートの形で表すよなって話!!」
「あー、あったねそんな話」
まさかまだ考えていたとは思わなかった。そんなに悩むような話でもなくないか。
「────『心』は『愛』なんだよ!」
「はぁ?愛?」
「そう。人間誰しも、心臓も心も愛も、なきゃ生きていけない。だから、共通してハートマークで表す」
「なんで知ったような口調なんだよ……」
「でも、これが一番しっくり来たんだって」
愛。
また「中二病」だとか言われそうだが、最近愛を実感した覚えはない。
生きていくには愛が必要。なら、私は?
……そう自分に問うと、自身を見失ってしまいそうだ。
この話は、私を良い気分にさせるものじゃなさそうだし。
とりあえず今のところは忘れてしまおう。
────心も愛も心臓も、今の私には複雑で重すぎる。
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自創作 To My Imaginary より
ないものねだり
俺には技量がない。
俺には話術がない。
俺には根性がない。
俺には人望がない。
俺には仲間がない。
俺には生命がない。
俺には何もない。あるもの全部、彼奴に持っていかれた。
だが、後悔もない。捧げた、という方が正しいのか。
ただ、一つだけ、どうしても、欲しかったものがある。
今更言っても、ないものねだりになるだけでも。
一つだけだったら、罰当たりにはならないと信じて。
お前のその、眩しいほどの希望を。
少しだけ分けてほしくて。
特別な存在
ずっと、誰かにとっての特別な存在になりたかった。
誰かの人生に関われるって、とても素敵なことだと思うから。
誰かの、貴方の、その物語のメインキャストになりたくて。
気を引く方法なら知っているから。
気付いた時にはもう遅かった。
その視線が、私の利用価値にしか向いていないことに。
「頭良い」「可愛い」「優しい」……って。
全部、そうやって口ずさむ自分自身を褒めているんだね?
でも、それでもいいよ。
特別な存在になれなくても、
誰かの人生に関われるって、とても素敵なことだと思うから。
……あれ。
私の人生は、結局誰のものなんだっけ。