特別な存在
ずっと、誰かにとっての特別な存在になりたかった。
誰かの人生に関われるって、とても素敵なことだと思うから。
誰かの、貴方の、その物語のメインキャストになりたくて。
気を引く方法なら知っているから。
気付いた時にはもう遅かった。
その視線が、私の利用価値にしか向いていないことに。
「頭良い」「可愛い」「優しい」……って。
全部、そうやって口ずさむ自分自身を褒めているんだね?
でも、それでもいいよ。
特別な存在になれなくても、
誰かの人生に関われるって、とても素敵なことだと思うから。
……あれ。
私の人生は、結局誰のものなんだっけ。
バカみたい
全く、バカみたいだ。
何が一目惚れだ、何が協力しようだ。
結局騙して、利用していただけじゃないか。
悔しい、と同時に、何故か悲しくもある。
……裏切られた。
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真夜中の暗い路地を走る足は、とうに疲れ切っている。
このままでは追いつかれてしまうのがオチだろう。
どうせ一度は命を捨てた身だ、今更死んだってどうしようもない……が。
あの時、俺は確かに「死ぬ覚悟」を見たはずだった。のに。
どうしようもなく、別れを恨んでいる。
俺は、こうも我儘だったのか。
彼の影が、背後に迫る。
かつて彼が掲げた「殺す覚悟」。今になってやっとわかった。
彼にとっての決別が、死に等しいものだったのだ。
「────全く、バカみたいだ」
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自創作 赤い祝日 より
裏切られた人 翼
裏切った人 ギル
夢が醒める前に
最近、高嶋の夢を見ることが多くなった。
彼奴とまだ戦場にいた頃の夢。
夢の中で笑う高嶋は、いつもどこか哀しそうな面を見せる。
それは、まるで俺のあの日の愚かさを表しているようだった。
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時には、あの日、俺が高嶋と話した最期の夢を見る。
『これは命令だ───西浦』
あの言葉が今も耳から離れない。
いつも、泥だらけで俺を見る眼を見る度に、いつも、
やり直せたならと、そう思う。
夢の中で、現実の自分の思い通りにいかないのは。
己の無力さか、それとも罪を自覚しているからか。
自分の願いではなく、記憶を映し出した鏡なのか。
それでも、どうか、この夢が醒める前に、
もう一度名前を呼ばせてくれないか。
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自創作 硝煙は笑う より
いなくなった人 高嶋
夢を見る人 西浦
不条理
この世ってのは、大抵不条理でできている。
実際大体が辻褄合わせで付け足されたもので、誰もが身勝手なものだ。
誰かが身勝手に振る舞えば、そのツケはまた誰かに降りかかる。
言わば水の掛け合い。世界は不条理のパズルで回っている。
……少なくとも、自分の目からは世界がそう見えただけだ。
自分は誰かの尻拭いをしていて。
また他の誰かに自分の身勝手の尻拭いをさせている。
もし誰もが同じなら、
道理がどうとか気にせずに、身勝手でいいから幸せに生きちゃあ駄目だろうか。
ずっと隣で
ずっと隣で笑っていられたら幸せだった、なんて、
今更遅いだろうに、
まあ、もし、
この戦争が終わったら、
いつか、変わったら、
ずっと、
隣で