寒空の下、手をつないで並ぶのはスイーツ店じゃなくてラーメン屋さんがいいな。ひそかな味変選手権を開催してたい。
あなたにね、ありがとって言われると、あたたかいものがじわりと満ちる。失敗か成功の二択じゃなくて、発見と成功の両取りに変わるんだ。
プールから見上げた晴れ間みたいに、明日は私がいっぱいありがとうを返すよ。
『明日への光』
星になるとか風になるとか言われるたびに口を塞いでやりたくなった。そんなの本気で信じてる奴なんているわけないし、信じたところで何も変わらない。
当時の僕が知りたかったのは、隣の誰かでも見知らぬ人でもなく、なんでうちの親じゃなきゃいけなかったのかってことだけ。
地球に流れてる時間なんて宇宙じゃなんの意味もない。流星はただの塵に過ぎない。
眼鏡のつるをいじりながら御手洗が言ったとき、いつもならイライラするのに不思議にストンと入ってきた。
時の流れは宇宙の膨張に過ぎない。
速く動くものほど時間の進み方が遅くなる。
どもりがちな声は、科学を語るときだけ淀みなく流れた。
死んだ人は星になるなんて俗説についてを、こいつならなんて説明するだろう。意外ともっともらしい由来を知ってたりして。
何万年も前の光を僕らは並んで見上げた。死んだ人間の魂かもしれない塵が、地上へと降る。
『星になる』
駅前広場に作られたマーケットの床は金属製で、下から照らす光がモザイク格子の隙間へと漏れている。
歩くに連れ手前から奥へと順に移動するように見える光を、君は笑顔で見下ろして歩いた。ギシギシと不穏に鳴る床を少しも気にすることなく。
人工スノー、輝くイルミネーション。こどもの声も行き過ぎる繋がれた手も、私がクリスマスに願うのはあなただけという定番のラブソングも、こんなにも美しいのに。
いつか鳴り響く鐘の音を僕はずっと恐れている。続けばいいと夢見る時間の中で僕だけ切り取られたように、なぜか胸が痛むんだ。
『スノー』『遠い鐘の音』
流星群は宇宙に漂うチリの集まりらしい。地球の公転軌道とチリの帯の位置関係で、地球にいる僕らには星が流れるみたいに映るだけであって、チリ自体は別に降っても動いてもない。宇宙空間には上も下もないし。
「夢がないなあ」
スマホ画面を見つめたまま君が、ぐるぐる巻のマフラーの端から唇を尖らせる。間を埋めたいがだけの解説を僕は引っ込める。
駅を出て歩いているうちにも雨が降ったり止んだりしていた。天気予報は晴れだったけど、雲が晴れる様子はない。
「どうする? 何か食べてく?」
「止むって」
「へ?」
「止むって、雨」
スマホを閉じた君が、僕の手を引く。僕らにはまだ見えない星が、雲の向こうで夜空を越える。
『夜空を越えて』
寒くなると、なぜか同じものばかり食べたくなることがある。ストーブをつけてから鍵を置いてコートを脱ぐ。実家にあった電気ストーブの、スチール柵越しのオレンジを思い出す。あなたのことなど何も考えてなかった頃。
あたたまった部屋で、メープルの入った小さなパンケーキにかぶりつく。病室で見たあなたの皺だらけの手を思う。ストーブがじりりと焦げる。名を呼んだあなたのぬくもりが肩に過ぎる。
『ぬくもりの記憶』