未知亜

Open App
12/13/2025, 11:53:23 AM

 駅前広場に作られたマーケットの床は金属製で、下から照らす光がモザイク格子の隙間へと漏れている。
 歩くに連れ手前から奥へと順に移動するように見える光を、君は笑顔で見下ろして歩いた。ギシギシと不穏に鳴る床を少しも気にすることなく。
 人工スノー、輝くイルミネーション。こどもの声も行き過ぎる繋がれた手も、私がクリスマスに願うのはあなただけという定番のラブソングも、こんなにも美しいのに。
 いつか鳴り響く鐘の音を僕はずっと恐れている。続けばいいと夢見る時間の中で僕だけ切り取られたように、なぜか胸が痛むんだ。

『スノー』『遠い鐘の音』

12/12/2025, 9:59:09 AM

 流星群は宇宙に漂うチリの集まりらしい。地球の公転軌道とチリの帯の位置関係で、地球にいる僕らには星が流れるみたいに映るだけであって、チリ自体は別に降っても動いてもない。宇宙空間には上も下もないし。
「夢がないなあ」
 スマホ画面を見つめたまま君が、ぐるぐる巻のマフラーの端から唇を尖らせる。間を埋めたいがだけの解説を僕は引っ込める。
 駅を出て歩いているうちにも雨が降ったり止んだりしていた。天気予報は晴れだったけど、雲が晴れる様子はない。
「どうする? 何か食べてく?」
「止むって」
「へ?」
「止むって、雨」
 スマホを閉じた君が、僕の手を引く。僕らにはまだ見えない星が、雲の向こうで夜空を越える。

『夜空を越えて』

12/11/2025, 9:58:57 AM

 寒くなると、なぜか同じものばかり食べたくなることがある。ストーブをつけてから鍵を置いてコートを脱ぐ。実家にあった電気ストーブの、スチール柵越しのオレンジを思い出す。あなたのことなど何も考えてなかった頃。

 あたたまった部屋で、メープルの入った小さなパンケーキにかぶりつく。病室で見たあなたの皺だらけの手を思う。ストーブがじりりと焦げる。名を呼んだあなたのぬくもりが肩に過ぎる。


『ぬくもりの記憶』

12/10/2025, 9:51:56 AM


 手が冷たいと言いながら手袋をしない人だった。覆われる感じがあまり好きじゃないって。
 カイロをシャカシャカ振る指先の赤さを私は見つめる。それを持ち歩くのは君と会うときだけだって、そろそろ気づいてくれるかな。


『凍える指先』

12/9/2025, 9:48:43 AM

 年が改まるからって、なにかが劇的に変わるわけじゃない。誰しもそんなことわかってるはずなのに、今年もあと何週間、あと何日とカウントダウンし始めるのはなぜだろう。
 商店街でもらったカレンダーをパラパラとめくる。商店街の名前が入っただけの、圧倒的に真っ白なやつだ。手渡してくれたお店のおじさんも「あと3週間だねえ」と話していた。「来年も楽しい予定で埋まりますように」
 近所の神社に初詣へ行きたい程度で、年明けにはまだ何の予定もなかった。無職なんてこんなもんか。
 ふと思い立ってボールペンを取り、ちょんちょんと動かしてみる。昔習った田んぼの地図記号みたいなのをふたつみっつ書くと、商店街の名前の向こうが、雪の積もった地面みたいに見えてきた。
 雪原の先に分け入るような気持ちで、私は思い切り表紙を破る。1月1日の枠の中へ、とりあえず「初詣」と書き込んだ。


『雪原の先へ』

Next