ㅤいつも一緒にいたから、そばにいるのが当たり前だと思ってた。
ㅤ君の注いでくれる愛を当たり前に飲み干して。それがどんなに特別だったか考えもしないで。
ㅤ今思えば奇跡みたいな夜。
ㅤ肌に重なった君の声が、耳の奥にこびりついて消えない。
ㅤ
『君が紡ぐ歌』
歩きながら頭を整理してるうち
ふと光が差すかのように鮮明に
ひらめいたアイデアを試そうと
思うそばから全く別の関係ない
ことがたちまち霧のように垂れ
込めて何を思いついたのかもう
次の瞬間には思い出せもしない
そんな感じなんです、たぶん君。
『光と霧の狭間で』
夕闇が一層深まった気がした。額に滲む汗を感じる。少しも暑くはなく、むしろ冷たさを覚えるのに。
こちらに戻された瞳から、強い意志を感じる。部屋を支配する不自然な沈黙が、 何より雄弁に語っていた。
ここまで我慢したよ、と。もう限界だ、と。
見えない砂時計の中、最後の一粒が落ちる音が聞こえた。
『砂時計の音』
ㅤ肌を撫でていた手がふと止まる。
どしたの?
ㅤ目を開けてあたしは尋ねた。
ㅤ答えが気になったわけじゃなくて。
ㅤもっと触ってて欲しくって。
いや……
ㅤあたしの肌を見つめ、あなたが呟く。
ホクロって減るの?
しらない
ㅤ細い指先を手繰り寄せる。
減ってんの?
たぶん
ㅤ再び肌をすべり出したそれに、
ㅤあたしは溜息を漏らす。
じゃ、そうなんじゃない?
星座みたいで綺麗だったのに。
ㅤ消えたと思しき場所に唇を落とされ
ㅤ名残惜しげな頭をあたしは抱き締めた。
『消えた星図』
ㅤ脛に走った衝撃に、手の中から箸が飛んだ。両手で脛を押さえ、痛みを堪えて呻く。コロコロと床を転がる箸の音が、耳の奥でやたら響いた。
「サイッテー」
ㅤマナミの冷え切った声が重なる。
ㅤ愛から恋を引いたら、何が残ると思う?
ㅤ向かい合った夕食のテーブルで、脈絡もなくそんなことを聞かれて。なんの気なしに答えたのだ。性欲?、と。
「なんだよ、蹴ることないだろ!」
ㅤそもそも意図も模範解答も謎な問いかけを急にしてくる方が悪い。ただでさえ、大きな問いを抱えてるってのに。
ㅤおまえならなんて答えんだよ、と逆質問すると、マナミは短く言い切った。
「家族」
「そっちかよ!」
「そっちもどっちもないわよ!」
ㅤ……難しい。迷いを見透かされてるみたいなのが。
ㅤ箸を拾って、そのままおもむろに席を立つ。マナミが不思議そうな顔をする。
ㅤソファに置いた通勤カバンに手を突っ込んだ。今を逃すと、一生切り出せない気がする。買っただけで長らく放置していたそれを、俺は神妙にテーブルの真ん中に置いたことり、という音が鼓動と似ていると思った。
『愛-恋=?』