ㅤ脛に走った衝撃に、手の中から箸が飛んだ。両手で脛を押さえ、痛みを堪えて呻く。コロコロと床を転がる箸の音が、耳の奥でやたら響いた。
「サイッテー」
ㅤマナミの冷え切った声が重なる。
ㅤ愛から恋を引いたら、何が残ると思う?
ㅤ向かい合った夕食のテーブルで、脈絡もなくそんなことを聞かれて。なんの気なしに答えたのだ。性欲?、と。
「なんだよ、蹴ることないだろ!」
ㅤそもそも意図も模範解答も謎な問いかけを急にしてくる方が悪い。ただでさえ、大きな問いを抱えてるってのに。
ㅤおまえならなんて答えんだよ、と逆質問すると、マナミは短く言い切った。
「家族」
「そっちかよ!」
「そっちもどっちもないわよ!」
ㅤ……難しい。迷いを見透かされてるみたいなのが。
ㅤ箸を拾って、そのままおもむろに席を立つ。マナミが不思議そうな顔をする。
ㅤソファに置いた通勤カバンに手を突っ込んだ。今を逃すと、一生切り出せない気がする。買っただけで長らく放置していたそれを、俺は神妙にテーブルの真ん中に置いたことり、という音が鼓動と似ていると思った。
『愛-恋=?』
10/16/2025, 9:59:13 AM