10/7/2025, 9:40:54 AM
こちらに気づかないまま、君が通り過ぎる。足早なあいつに歩幅を合わせ。僕の見たこともない顔をして。
乾いた心に吹きすさぶ風が、心の森に火を呼び覚ます。次第に明るく燃える葉を、なすすべもなく僕は眺めた。
『燃える葉』
10/6/2025, 9:54:57 AM
ㅤ外に出た途端、君は空を指さした。
ㅤその先には大きな丸い衛星。
ㅤなんかいつもより、近くにある気がする。
ㅤ長い映画を観たあとみたいな顔で君が呟いた。
ㅤ首筋に残る紅い跡を月が照らしている。
『moonlight』
10/5/2025, 9:43:47 AM
ㅤ声を聞いているうちに、涙が溢れてきた。震える声を気づかれても良かった。今更良いとこだけ見せるなんて出来ないもんね。
ㅤ誰しもそれぞれの正義を振りかざして、ただ幸せになりたいだけなんだってようやく分かった気がする。誰も悪くない。だからこそ、私はこんなにも辛かったんだ。
ㅤ大丈夫。いま君は誰かのものだってちゃんと知ってるから。誰よりも君に聞いてほしいと思ったんだ。弱音、今日だけ許してよ。
『今日だけ許して』
10/4/2025, 8:20:21 AM
ㅤ浴衣から覗く丸い踵が、歩くたびに見え隠れする。右足の隅が赤く腫れている。
ㅤ交差点を渡った君は、手に掛けたビニル傘を広げた。角の向こうから現れた相手に笑顔で手を振る。
ㅤ雨に煙る街、寄り添う君と誰か。それは僕の見る夢の、僕なのかもしれない。
『誰か』
10/3/2025, 9:58:33 AM
遠い足音。
何を言えばこの人に響くのか。分からなくて涙が出る。
遠い足音。
昔から碌な結果を運ばない。
夕暮れに帰宅する母親の空気。不機嫌さを孕んだ父の、圧倒的な戦慄。静かな部屋にぴしりと破滅の気配が走る。
そしていま、近付く足音。惨めな時間の始まり。
なにも出来ない自分を、思い知るのみ。
『遠い足音』