未知亜

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9/10/2025, 4:10:51 PM

ㅤ小学生の頃、図工の時間に校庭で写生をした。曇り空の広がる天候を僕はつまらないと思って、なぜか空を緑色に塗った。クラスメイトも担任教師も、不思議そうに苦笑いした。
 紅い空、蒼い空は普通にあるけど、碧の空なんておかしいよ。

「なあに? 思い出し笑い?」
 隣の妻がふふふと笑う。その頭上にたなびく、美しい光のカーテン。
「まあね。おかしな空の色のことを」
 そう答えて、僕は彼女の手を取った。

 天に近い部分から、赤、緑、青と揺らめく極光。
 僕らの見上げる宙は、こんなにも色とりどりだ。
 
『Red,Green,Blue』

9/9/2025, 8:58:43 PM

ㅤキリの良いところでようやく手を止めた。窓の外を見やれば、日差しが随分傾いている。壁の時計は五時近かった。ついさっき遅めのランチを食べたばかりなのに。
ㅤ立ち上がり、洗いカゴに伏せたマグカップをステンレスの上でくるりと返す。百均のドリッパーにペーパーフィルターをセットしながら、ふとあなたの顔が浮かんだ。ああ、そうかと私は思った。
ㅤ気づけば六時間。パソコンに集中していたことになる。動けなくなるほどに深い昨夜の不安は、無くなった訳じゃないけど、少しだけ遠ざかって私を見ている気がした。何も言えずにいる私に、ずっと付き合ってくれたあなたの短い言葉。
ㅤあなたと話した後には特に、ちゃんと大切なものだけが残っていく感じがする。必要で大切な濃くて美味しいものだけがゆるゆると濾されていく。

ㅤコーヒー滓が歪な円を描いて張り付く使い終わったフィルターを眺めながら、私は薄く笑った。


『フィルター』

9/8/2025, 11:11:22 AM

そうして私たちは言葉を失くし
薄っぺらな板を挟んで黙り込む
ついさっきまであれもこれもと
話したいことがあふれてたのに

掛け違えてしまっただけなら
最初のズレを探せばいいんだ
指先でさかのぼる会話履歴を
あなたの最新の発言が覆った

ハッキリ言えなかったけど、
実はずっと苦しかったの。

誰よりも近い場所にいて
分かり合えると思ってた
たぶんだけど私あなたと
上手く仲間になれなくて

……ごめんね。

『仲間になれなくて』

8/12/2025, 9:56:37 AM

あっけにとられた僕に君は風のように笑った。

二度は言わないよー。

伸ばされた手が僕の右手からアイスをさらう。

あー。夏って感じする。

誤魔化すみたいに齧り付いた唇の端のクリームが、
まるで虫みたいに僕を引き寄せて。

口の端から君の味がこぼれる。


『こぼれたアイスクリーム』

8/11/2025, 9:47:22 AM

あなたの後悔が少ない方に進みなさい。
そう、あなたは笑った。
あまり先のことを考えすぎず、嫌だなと思う方には行かないこと。
意外とそれだけで、目の前が開けることもあるよ。

けれど、
やさしさなんていまはいらない。

『やさしさなんて』

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