ㅤキリの良いところでようやく手を止めた。窓の外を見やれば、日差しが随分傾いている。壁の時計は五時近かった。ついさっき遅めのランチを食べたばかりなのに。
ㅤ立ち上がり、洗いカゴに伏せたマグカップをステンレスの上でくるりと返す。百均のドリッパーにペーパーフィルターをセットしながら、ふとあなたの顔が浮かんだ。ああ、そうかと私は思った。
ㅤ気づけば六時間。パソコンに集中していたことになる。動けなくなるほどに深い昨夜の不安は、無くなった訳じゃないけど、少しだけ遠ざかって私を見ている気がした。何も言えずにいる私に、ずっと付き合ってくれたあなたの短い言葉。
ㅤあなたと話した後には特に、ちゃんと大切なものだけが残っていく感じがする。必要で大切な濃くて美味しいものだけがゆるゆると濾されていく。
ㅤコーヒー滓が歪な円を描いて張り付く使い終わったフィルターを眺めながら、私は薄く笑った。
『フィルター』
9/9/2025, 8:58:43 PM