次郎

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10/11/2024, 2:45:50 PM

『カーテン』

風に揺れるカーテンの

向こうには、

青々とした山が見える。

昔から知っている山ではないけれど

そんな山を眺めていると

懐かしい気持ちになる。

大人になって

喧騒の毎日に疲れた時、

思い出すものは、小さい頃に見た似た景色。

家族で登った山や

学校の遠足で友達と登った山。

ただそこにあるだけなのに、

朝も夜も景色を見る余裕も無い日々だった私に

色とりどりな世界を思い出させてくれた景色だ。


私は、揺れるカーテンの隙間から

青々とした山を眺めて

コーヒーを啜り考える。

後何年、この景色を見られるだろうかと。

10/10/2024, 3:28:05 PM

『涙の理由』

私は、貴女が深い眠りについて

ずっと後悔している事がある。


後悔は沢山あるけれど、

その中でも、心の中で、

今でもシコリのように残っている事がある。


貴女が、

辛い宣告をされた時、

一人で訊かせてしまった事だ。

貴女は、

まさかとも思っていなかった結果に

どんな気持ちで聞いていたのか

私には分からない。

どんな気持ちで、結果を訊いて

家路についたのか、私には計り知れない。


家に帰ってきた貴女の目は赤かった。

その目を見れば、言われなくても

どういう結果だったのか察しがついた。

私も絶望を叩きつけられた感覚がした。

長い闘病を漸く終えれたばかりだと言うのに。

今生の非情さを恨んだ。


一人で行かせるのでは無かったと後悔した。

一人でなければ、

貴女は押し殺さずに泣けたはずなのに。

何でも我慢してしまう貴女だからこそ

一緒に涙を流せる相手が、側に居るべきだった。

一人より、二人の方が

貴女の流した涙の重さを

少しは変えれたのかも知れない。

側に居られたのなら、

貴女が流した涙の理由も、変えられたかも知れない。


だって、

この世には、何よりも重い涙を

一人で受け止められる人間など居ないから。

10/9/2024, 10:52:09 AM

『ココロオドル』

大人になっても、

クリスマスはココロがオドルもの。

キラキラと街が煌めいて、

サンタクロースと出逢えない大人なっても

特別な1日に感じる。

きっと、

子供の時の気持ちが

思い出されるからだろう。


大人になると

生きて来た分、休みもなく、

何処までも心が枝別れをしていく。

そんな大木のように、

広がっていく心に疲弊する。

だけれど、

クリスマスは特に何かが起こるような気がして

ワクワクしながら眠りについた子供の時のように、

大人になっても

クリスマスは唯一許される気持ちになれる。

クリスマスは、心が枝別れしていなかった

子供の時の心に戻れる気がして

心がワクワクするのだ。

10/6/2024, 2:17:42 PM

『過ぎた日を思う』

貴女が秋に眠りについてから、

今年で5年が経つ。

今でも、あの一ヶ月と半月の事は昨日の事のように

覚えいている。


貴女が家に帰って来てから

その月日は怒涛の日々で

安心して眠れる日など無かった。

毎日目が覚めると

貴女の目が開かないのでは無いかと不安だった。

だけど、いつも

貴女は隣で眠る私が起きるのを待ってくれて居た。

目を開けると

隣には、おはようと

目で合図をくれる貴女がいて、

私は、ほっとする。


本当は貴女が一番恐くて、不安で眠れないのに。


だから、私は、

少しでも恐怖や不安が薄まってくれればと

毎日、隣に寝床を作り、

毎日、貴女の手を握り眠りにつく。

私は、貴女も

しっかりと手を握り締めてくれると

その温かさで

貴女の不安と私の不安が

少しだけ薄まる気がするのだ。


目を閉じて、

明日は、何を話そうか。

明日は、何が食べたいだろうか。

と考える。

自然と睡魔に負けても、

暫くすると、不安で目が覚める。

何度も目が覚めては、

隣で目を閉じたり、開けたりを繰り返して、

同じように眠れない貴女を静かに見ては

手から伝わってくる温かさに安心が出来た。


だけれど、

金木犀の香りがする秋の朝、

目が覚めると

私の手の中には、貴女の手が無かった。

しっかりと握って眠ったはずの手の中に

貴女の冷たくなって行く手が無かった。


隣で貴女は静かに眠ってしまった。

周りの人達も熟睡させて、

一人で深い眠りについてしまった。

目が覚めないと分かっていても、

貴女の温もりが消えてしまう前に

私は手を握らずには居られなかった。

貴女の手の温もりを忘れないようにと。


あれから幾度となく

日が過ぎようとも、私は

金木犀の香りがする秋の朝に

残してくれた貴女の手の温もりを

ずっと忘れない。

10/4/2024, 2:57:49 PM

『踊りませんか?』

ゆっくりと彼女の手を取って、

私は、踊りましょうと言うと

彼女は、少し恥ずかしいそうに俯きながらも、

手を優しく握り返した。


夕焼けが、彼女の頬を照らすと、

照れた彼女の頬も紅潮していくようだ。


長い間、

彼女と暮らしてきたのに

こんな風に紅潮する彼女を

間近で見たことがあっただろうかと

握られた手にじんわりと彼女の温かさを感じた。


彼女を身近に感じながら、

私の鼓動と彼女の鼓動が合わさって

ゆっくりと、音を奏でる。

同じように動いているようで、

全く違う音階が心地良い。


私は、長い間、

忘れていた温かくて心地よいこの感情に

泣きたくなって、鼻を啜ると

見上げた彼女の瞳に

夕焼けで紅潮した私が写る。


私は、少し笑いながら

彼女の手の温もりを

忘れないように包み込んだ。

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