『ごめんね』
謝るぐらいならやるなよ!何余計な事してくれた訳?
テーブルの上には、飛び散ったご飯粒、処分の仕方がわかなかったらしい材料の断片が所狭しと転がっていた。
ごめんなさい。
そう言って怯えているのか、目の前で次に振りおろされるかもしれない小刻みに震えている華奢な拳を見る。
まぁまぁ、お母さん、理由を聞きませんか?
潰れてひしゃげているおにぎりらしきものを横目で見て、母親らしい女性に声をかけて、俯いている子の肩に触れる。肩がビクンとはねあがる。
身なりはちゃんとしているな。
理由?腹減ったなら買ってこいって金渡してあるんだよ。遊びでこんな事すんじゃないよ。
違う。遊びじゃない。片付けはするよ。いつも、夜遅く帰って来てお腹空いているみたいだから、前に作ってくれた丸いおにぎり作りたかったんだ。だって、美味しかったし、美味しいねって言ってくれるかなって。
うまく出来なくて『ごめんね』
拳がおにぎりに振りおろされるのかと思うぐらいの勢いで伸び、ゆっくりと指が開き歪な塊に触れる。
『ごめんね』今から一緒に作ろうか。
材料は目の前にあるし、活きがいい感じだよ。
あぁ、この家、変って言われていたのはそういう意味だったのか。巡回気をつけろって…もう遅い。
『ごめんね』帰れそうにないな。
もう意識が遠くなっているんだ。
半袖
そろそろ冬物を着る時期なのだが、駅でよく見かける人は、半袖シャツにチノパンにリュックを前抱えて文庫本を読みながら電車を待っている。
鍛えていそう…あぁ、ムキムキじゃなくても代謝がいいから暑いのかな。
あれ、薄いダウン着ているぞ。
周りはモコモコなのに、あっ、ウルトラダウンか!
すぐ脱げるな。
ん?新半袖…違う人か 腹ポッコリだし、パツパツだよな。代謝機能かな?
半袖シャツの上にジャケット羽織って真似したら寒かった。代謝悪 脂肪は冷えるんだよな?
パツパツさんはどうして暑い?こっちもそこそこだが、何が違う?脂肪のつき方だろうか 血行か? いや、それなら条件は変わらんだろう。
そんな事ばかり考えていたら春が来て夏になり、半袖の季節となってしまった。パツパツだな。半袖シャツ。
天国と地獄
際限なく続く苦しみに叫び、身悶え、救われる事もないのに助けを求め、それすらも許されない。
それだけの事をしたのです。
あなたの罪を認めなさい。語り口はやわらかだがやっている事は苦痛を与える事だ。
おいおい、誰だよ。ナンマンダとか言ってたら極楽浄土に行けるって言ったのは…
目の前では容赦ない罪への戒め…そうソフトに言おうか…が行われている。
あぁ、新しい配属の方ですか?
足元で一息つきそうな罪人を呵責しながらニコリとこちらを見る。まるで聖人の笑みだ。
足元の罪人をポンと蹴り上げ近くな針だらけの木へ張り付ける。木の枝がたちまちそね枝で締めあげ、叫び声が聞こえる。不思議と血肉の匂いがしない。まぁ、そうだよな。
珍しい方ですね?。わざわざ転属してくるとは。
血肉まみれだったのにすぐに純白の衣装になる、
罪の意識が消えない方が多くて困ります。今更、行先を変える事もできないですし…。
そうですね。それで決まったのですが、このエリア一帯は地下に移転させる事にしました。
貴方には特命がくだりました。
天国での呵責行為のせいで地獄が緩んどるですわ。
一緒に下へ行き、貴方が呵責した方々をしっかりと指導し、かつ、あの厳つい顔の鬼達に貴方の呵責を教えてピシッとさせて来て欲しいんです。
期待させて落とすという貴方の手法は期待されています。よろしくお願いしますね。
信じられないという表情を浮かべたまま、黒く染まった地面にのみこまれていく。
ここはね、苦労した人が報われる場所なんだよ。
天国なんだよ。自分を責めて苦しむやつは地獄でいいだろう?神様否定しているんだからな。
姫さま また、沢山のお願い事の山が来ておりますが、いかがいたしましょうか?
女官長はキチンと整え並べられた文が載った盆を捧げるように長く艶のある黒髪の持主が顔を上げるのを待った。小さなため息が聞こえた。
いつまでもお願いばかりで感謝もない。いくら妾が彼の地の者より優れていてもやりきれんわ。
この前の宣伝行為も未確認飛行物体の扱いで誰も妾の意図に気づかなんだ。誰ぞ妾に恨みでもあるのかえ?
盆の上の文を睨んでから女官長に脇に置けと手振する。
これも育ての爺様と婆様がいなくなってからの事、
調べはついたかの?
はい。姫さま。後の家を継いだ者が姫さまが言い残したと、困った事があれば文を送れ など持ち上げ、
『月に願いを』という観光スポットにしてしまったようでございます。未確認飛行物体も見られると付加価値をつけて一大産業になっておりました。
そうか。彼の地での妾の勤めは済んだ。爺様と婆様への恩も返した。哀しむかえ?妾がしようとしている事は。
何も知らずに文を書いた者は哀しむかと。
仕方ない。好き勝手にはさせるわけにはいかぬ。
今までの文を全て彼の地に戻しや。
文も受け付けるでないぞ。二度と。
この月の世界は交流を閉ざす。
『月に願いを』は一方通行じゃ。
彼の地では、ある日、空から大量の紙吹雪が舞い降りて来た。人々はかぐや姫からの祝福だと大喜びした。
もう何日経ったかもわからない。ずっと雨が降っている。そして、同じようにここにいる。地面に縫い止められているように身体は重く、思考はぼんやりとしている。初めは雨滴が煩わしかったが慣れた。
帰る場所もないから、このままでもいいんだが、自分がどんな姿なのかも確認出来ないのは嫌だなと思う。
矛盾している。違和感しかない。そういえば、最後に食事したのはいつで、あれから何日経ったのだろうか?
急に怖くなってきたし雨が強くなってきた。
あれ?この雨に沿って空に登れるかもしれない。
とうとうおかしくなったみたいだ。
やっと、気がついたんだね?もうずっとこのままかと心配してたんだよ。
綺麗な顔立ちをした吸い込まれそうな黒い眼を持つ幼い子供がいる。
行こうか。この雨にはもうあたってはいけない。
また生まれないといけないからね。
手を取られたと同時に雨を伝うように天を目指す。
どういう事だ?また生まれないといけない?
下を見ると雑木林の開けた場所にある破けたテントの中に白骨が見えた。
寝ている間に身体が機能を失ったんだよ。すぐ来たんだけどね、眠りから覚めてくれなくて困ったよ。後少し遅かったら君はあそこに永遠にいる羽目になった。
この降り止まない雨はね、生まれ変わりさせない時もあり、こうして生まれ変わりをする者を登らせる役割があってね、ガイドが探しに行く時にも使う…理解した?
怖いってまだ生きていたいって事だよ。