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5/27/2024, 4:06:56 AM

姫さま また、沢山のお願い事の山が来ておりますが、いかがいたしましょうか?

女官長はキチンと整え並べられた文が載った盆を捧げるように長く艶のある黒髪の持主が顔を上げるのを待った。小さなため息が聞こえた。

いつまでもお願いばかりで感謝もない。いくら妾が彼の地の者より優れていてもやりきれんわ。
この前の宣伝行為も未確認飛行物体の扱いで誰も妾の意図に気づかなんだ。誰ぞ妾に恨みでもあるのかえ?

盆の上の文を睨んでから女官長に脇に置けと手振する。

これも育ての爺様と婆様がいなくなってからの事、
調べはついたかの?

はい。姫さま。後の家を継いだ者が姫さまが言い残したと、困った事があれば文を送れ など持ち上げ、
『月に願いを』という観光スポットにしてしまったようでございます。未確認飛行物体も見られると付加価値をつけて一大産業になっておりました。

そうか。彼の地での妾の勤めは済んだ。爺様と婆様への恩も返した。哀しむかえ?妾がしようとしている事は。

何も知らずに文を書いた者は哀しむかと。

仕方ない。好き勝手にはさせるわけにはいかぬ。
今までの文を全て彼の地に戻しや。
文も受け付けるでないぞ。二度と。
この月の世界は交流を閉ざす。
『月に願いを』は一方通行じゃ。

彼の地では、ある日、空から大量の紙吹雪が舞い降りて来た。人々はかぐや姫からの祝福だと大喜びした。

5/26/2024, 2:29:06 AM

もう何日経ったかもわからない。ずっと雨が降っている。そして、同じようにここにいる。地面に縫い止められているように身体は重く、思考はぼんやりとしている。初めは雨滴が煩わしかったが慣れた。
帰る場所もないから、このままでもいいんだが、自分がどんな姿なのかも確認出来ないのは嫌だなと思う。
矛盾している。違和感しかない。そういえば、最後に食事したのはいつで、あれから何日経ったのだろうか?
急に怖くなってきたし雨が強くなってきた。

あれ?この雨に沿って空に登れるかもしれない。
とうとうおかしくなったみたいだ。

やっと、気がついたんだね?もうずっとこのままかと心配してたんだよ。
綺麗な顔立ちをした吸い込まれそうな黒い眼を持つ幼い子供がいる。

行こうか。この雨にはもうあたってはいけない。
また生まれないといけないからね。
手を取られたと同時に雨を伝うように天を目指す。

どういう事だ?また生まれないといけない?

下を見ると雑木林の開けた場所にある破けたテントの中に白骨が見えた。
寝ている間に身体が機能を失ったんだよ。すぐ来たんだけどね、眠りから覚めてくれなくて困ったよ。後少し遅かったら君はあそこに永遠にいる羽目になった。
この降り止まない雨はね、生まれ変わりさせない時もあり、こうして生まれ変わりをする者を登らせる役割があってね、ガイドが探しに行く時にも使う…理解した?
怖いってまだ生きていたいって事だよ。


5/23/2024, 10:34:51 PM


お気に入りの曲 Fly me to the moon の心地よいリズムにひたっていると、ストンと隣に腰をおろされた。

このまま、どこかに行くか?この曲、そういう意味だろう?リズムが良いから聴いているなら他にもあるよな。

急に何を言い出すのだろうかと、ゆっくりと顔を向ける。少し強張った様子に何かあったのかと自分の中のデータを高速演算する。逃げ出す事をするタイプじゃない。こちらに顔が向き見つめ合う。

昔は月へ行くなんて夢だった。それになぞらえたラブソングだ。確かに手を取って、抱きしめて 好き って言っているって事だとは思うけど、どこへ行くつもりだろう。なぜ、今? 優しい指先が頬に触れ髪をすくわれる。返事は?と問われる。落ち着かなくては事情を聞かなきゃ…おかしな事考えていたら止めなきゃ…。

あっ。また妄想しているな。ドライブでもと思っていたが、別世界に行かされそうだな。

苦笑する姿は苦しんでいるのかもしれない。
別世界に行きたいの?
間抜け!何をストレートに聞いているの!バカバカ!

笑い出された。腹を抱えて、 腹が痛いとまで。
ひとしきりそれが続くので、心配になる。

フゥ。笑ったらスッキリしたな。出かけようか?
お前の別世界から逃れられないな。
ありがとう。悩むのがバカらしくなって来た。
行きたがっていたアンドロメダ銀河観光に行こうか。

あなたの方が別世界じゃない。心地よい…。
逃れられない…頭の中のあなたから。




5/22/2024, 10:04:38 PM

他人事だった。
ニュースの映像はどうしたら臨場感を出せるか考えているのだろうか?なんて思っている。
いってらっしゃい ただいま の、毎日がなくなるなんて思いもしない。

そうなの?じゃ、そういう体験したいの?
私は嫌。

君はまっすぐに見つめてくる。
そういえば、哀しい事があったと言っていたな。

私は…納得していないもの。
約束した母の日も父の日も誕生日のプレゼントも選んでいないわ。

君はその力強い瞳を潤ませた。
その肩が震えている。

あなた、また明日探しに行こうって言ったじゃない!
君は黒いリボンのかかった写真を抱きしめる。
あぁ、また明日はもう言えないんだ。僕は。ごめんね。

5/21/2024, 10:18:11 PM

風景に溶け込むように目立たないように息をして、この瞬間を過ごしたい。
こうして良い香りのする紅茶と遠くまで続く緑の山脈を見ながらユラユラと揺れる椅子に自分がどこにいるのかなんて関係ない気がする。
身体の境はどこだっけ?
ただ漂っている。何もない。透明な空間。それでも何かの存在を感じる。

ドンと身体が跳ねた。
どこからか落ちたと辺りを見回す。緑の山脈は変わらず、冷めたカップがある。
胸がバクバクしている。
身体が重い。

また、違うとこに行っていたのね。
膝掛けをかけようとした手を止めて微笑む姿に、ゆっくりと首を振る。
君がいない所なんか行かないよ。
二人でいればいつも透明な世界だから。

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