ある日突然世界が逆さまに見えるようにらなった。天井が下に、床が上に。人々は僕の頭上の床を何くわぬ顔で歩いている。僕は天井を歩く。無論人々は落ちてきたりしない。僕は平衡感覚が狂ってしまって、出歩いても人とぶつかるばかりだったのでだんだん家に引きこもるようになっていった。しかし週一の買い物だけは避けられない。近所のスーパーまでゆっくり歩いていく。あの日僕は出会った。僕と同じように天井を歩く彼女に。見ず知らずの人だったが、咄嗟に引きとめてしまった。
「どうして、!どうしてあなたも天井を歩いているのですか!?」
彼女は一瞬驚いた後、まるで何かを懐かしむように微笑んで言った。
『あなたも、素直になりなさい。』
そうか、僕はずっと素直になれなかったから、いつも"逆さま"なことばかり言っていたから。これはきっとその罰なんだろうな。僕の心はいつまでも思春期のままだった。あぁ、世界が逆さまなんじゃない。僕が逆さまだったんだ。
次の朝、世界は元通りになっていた。
眠れないほど何かを考えたことはありますか。心配なこと。嫌だったこと。好きな人のこと。寝たいのに眠れなかった?それともこの時間がずっと続けばいいって思ってた?でもみんな本当に寝てね。子供だけじゃない大人もだよ。嫌なことは全部忘れられないけど、寝たらちょっとは忘れられるかもよ。
夢 寝ること
現実 眠れない
睡眠時間をとればいいってもんじゃないんだよ。みんながストレスを忘れてにっこり布団に入れる日が来たらいいな。
「どうせみんないつかはさよならするんだよ。」
そこまで言ってハッとした。この俯瞰しすぎたような発言のせいで私は2度も彼氏を失ったのだ。でも、言いたくて言っているわけではない。未来が急に怖くなるときがある。未来どころか明日でさえ怖くなるときがある。押しつぶされそうになったとき不安が口をついて出てしまう。私は恐る恐る彼の顔を見る。意外にも、彼は怪訝そうな顔をしただけだった。そして言った。
『うーん、じゃあさよならしたらまたすぐ会いに行くわ。』
予期せぬ言葉に私は戸惑った。同時に少し考え込んだ。さよならってもう会えなくなるってことだと思ってた。そうじゃなかったのか。君にとっては普通のことなのかもしれないけど、私の弱さをかき消すには十分だった。私もう、さよならなんて言わなくて済みそう。
高校を卒業して、夢など一つもなかった俺は大学進学するはずもなくコンビニバイトに明け暮れていた。しかし高卒コンビニバイトの給料は取るに足らず、お金はすぐに底を尽きた。お金欲しさからついに俺は闇バイトに手をだしてしまった。闇バイト初日、与えられた仕事は昼休憩中のえんま大王に代わって地獄行きの死者の罪を数えることだった。そこで俺は重大なミスに気づいてしまった。俺が応募したのは"闇"バイトだったのだ。最初こそ戸惑ったが、金がもらえるならなんでもいい。それからというもの昼はコンビニバイトで愛想よく、夜は薄暗い部屋で淡々と罪を数える、というような対称的な日々が続いた。
ある日、見覚えのある顔が地獄へやってきた。コンビニ店の元同僚だった。たしか仕事をやめて数ヶ月後事故で亡くなったとかだったかな。さて、礼儀正しく、親しみやすい性格だった彼がどうしてここへやって来てしまったのか。俺の生活の"光"の部分と"闇"の部分が交差するこの瞬間、俺は地獄を見ることになる。