あと3歩踏み出せば話しかけられるの。私の友達と話してるから絶対に話に混ざれるの。でもあと3歩ができないの。何週間たってもできないの。ほら、帰っちゃった。一緒に話せばよかったのに、なんて言われるけど無理無理絶対無理。LINEはいっぱいするよ、話も盛り上がるし。LINEは得意なんだけどな。いつも会いたいって思うけど会ったらそれどころじゃない。どこ見たらいいのか分からなくなっちゃう。今までどうやって話してたんだっけか。好きになったはずなのにもっと遠くなった気がするよ。
どうしても、どうしても正体のわからない大きな感情に埋もれてしまいそうになったとき、本能的にワイヤレスイヤホンに手を伸ばす。そして縋るように音に頼る。私が言葉にできない負の気持ちを彼が代弁してくれる。ふいに涙が溢れる瞬間がある。歌詞に泣かされる、と言えばいいのだろうか。そのとき初めてあぁ、私本当はこう思っていたんだ、と自覚する。一生ファンとアーティストの関係。そんなのはわかっている。でも確実に私は彼に生かされている。私にとって彼の音は生活必需品。会えるはずもないのに会いたい、私を知ってるはずもないのに助けてよ、そんな無責任なことを言って泣く。でも一度だけ、自傷しようとしたとき貴方の声が聞こえた。『生きろ。』優しい貴方には珍しい強い口調だった。歌詞にあるような大丈夫、でも、泣かないで、でもないんだね。なんだか私、今日も死ねないみたい。
私は人見知りだ。クラスに馴染むのに、友達だと自信を持って言えるようになるまで半年以上かかる。だから、学校楽しみだな、明日はあの子とあの話をしよう、とか思い始めたら冬の始まり。せっかく仲良くなったのにもうお別れか。もう今年が終わるのか。寂しさ、上手に生きられない自分への落胆、未来への不安、それに反する期待。冬は私の頭の中が忙しい季節。
終わらせないで
怪我をして仲間はずれにされた白鳥と嘘がつけないうさぎが友達になった。嘘がつけない、というのは諸刃の剣である。思ったことをすぐ口にしてしまううさぎの周りには誰も近付かなくなってしまった。白鳥を除いて。
「あなたはいつまでこの湖にいるつもりなの。」
『いつも言っているだろう?羽が傷ついて飛べないんだ。仲間はみな既に北へ行ってしまったけどね。』
「他にも怪我をしていた白鳥はたくさんいたわ。」
『何でも他と比べればいいってものじゃないよ。僕は僕のペースでやっていくさ。』
「焦ったりしないの?」
『君は何か焦っているのかい。』
「何も別に…そういうんじゃないけど、」
ある日突然白鳥は言った。
『今日、北へ立とうと思うんだ。よければ君に見届けてほしい。』
「…ふうん。いいけど。」
『元気がないね。具合でも悪いのかい。』
「決してそんなことはないわ!」
『ならいいんだけど。それじゃあ、僕は行くね。短い間だったけどありがとう。』
「待って…!私ずっとあなたのこと!」
そこまで言って、うさぎは自嘲気味に笑った。
「やっぱりなんでもないわ。また来年、会えるのを楽しみにしている。」
真っ白な白鳥は一枚羽を落として北へ向かっていった。
人を憑依させることができるロボットがついに完成した。単語を思い浮かべるとその単語と関係が深い人物がロボットに憑依するのだ。僕の場合、"尊敬"を想像すると父が、"感謝"を想像すると妻が憑依した。ロボットが完成してからはいろいろな単語を想像し、その結果を記録し続けている。
今日は"愛情"を想像してみようと思う。
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君だったんだね。てっきり妻や息子が憑依するものだと思っていたよ。愛情、深く愛し慈しむ心のこと、だそうだ。君と付き合っていたのは何年前だったかな。7年、8年前か。なぜ今こうして現れるんだ。研究の成果ではあるが、本当に君にそっくりなのが私には酷だ。
ともかく、記録に付け加えておかないとね。「強い気持ちによって死者をも憑依させることができる」と。