『貝殻』
イングランド東端で、約180年前に発見された、貝殻で装飾された『シェルグラッド』と呼ばれる地下洞窟がある。
185平方メートルの空間の内部の壁や天井は、計460万枚もの貝殻を用いた装飾で、びっしりと埋め尽くされている。
花や太陽に見えるマークやハート型のシンボル。全体的にモザイクのような模様になっていて、天井からは太陽光が差しこみ、芸術的な空間を演出する。
かように豪華なつくりの空間を建築したにも関わらず、誰がいつ何のために作ったのか、一切分かっていない。
古代の神殿なのか、秘密結社の集会所か、密輸業者の隠れ家なのか。謎は謎を呼んでいる。
古代の人々の考えや習慣、儀礼は
現在生きている我々には理解できないほど
ミステリアスなものである。
理解できないからこそ、理解できない部分を
いろいろ想像して、穴埋めしていくのが楽しい。
実際、合っているかは知ったこっちゃない。
だって世界中の歴史学者が議論し合っても
分からないんだから。
自分なりに解釈してもいい。
みんな。歴史を学ぼう!
楽しいよ〜
『キラキラ』
今日も激務だった。
仕事から家に帰り、寝室に入ると
猫がベッドのまくらのど真ん中で
気持ち良さそうに寝ていた。
当然だが、おかえりの挨拶はない。
『いい身分だね』と皮肉を言ってみたが
全く反応はない。
お腹がすいていたので、軽く夕食を取ろうと準備をする。
すると、あれほど反応がなかった猫が
ニョキっと立ち上がり
ご飯をくれとすりよってきた。
この時だけは一丁前に甘えてくる。
『俺はまだご飯食べてねえんだよ』
と言いつつも、先に猫のご飯を作る。
ようやく夕食を食べれるかと思ったら
今度はお尻をポンポンしろと催促してきた。
『猫だから許されるんだからな。ヒゲ面でわがままで、無愛想で、甘えん坊の中年なんか。』とブツクサと言いながらもお尻をポンポンと叩く。
頭も撫でて欲しいのか、顔を向けて俺を見つめてきた。
瞳がキラキラして綺麗だった。
金色の瞳、不純物が全くない。
湧き水に砂金の粒を散りばめたような瞳。
この瞳を見ていると、自分も他人も世界も
全て綺麗なものに見えてくる。
『明日も頑張ろう』
『不完全な僕』
完全であれば、それ以上は無い。
そこに創造の余地は無く、それは知恵も才能も愛も
立ち入る隙がないことを意味する。
不完全に人は希望を見出して、愛を育み
足りない部分を補うべく進歩するのだ。
完全とは絶望である。
過去に存在した何物よりも素晴らしくあれ。
しかし、決して完全であってはならない。
不完全な世界で良かった。
不完全な僕で良かった。
『言葉はいらない。ただ…』
俺たち二人は親友だった。
奴と出会ってかれこれ十年になるだろうか。
この十年という期間、関係性を維持していくのに不可欠であったことが一つだけある。
それは、どちらかが負けを認めるまで徹底的に殴り合うこと。
互いに対して溜まった鬱憤を、拳でぶつけ合うのだ。
他の人間には理解できないだろうが、俺たち二人にとっては、言葉より拳で語る方が雄弁であった。
そして今日、俺たち二人は公園のベンチに並んで座っている。
二人は互いに傷だらけになった顔を見つめて、微笑みあった。