花火が始まる3時間前
いつものメンツで
シートを敷き
ラムネを買う
青空バックに
ラムネと記念撮影
ひとしきり撮れば
少し温くなった
ラムネをお供に
話し出す
卒業した
成人もした
が、集まれば高校生に戻れた
花火が始まるまで
内容も覚えてない
しょうもない話に
花を咲かせる
花火が始まれば
いっとき口を閉ざした
次々と咲いては散っていく
花を見送る
30分花見をすれば、
混まないうちに帰ろう
と立ち上がる
花火を見る人達と反対方向に
未練なく歩き出す
「うちら花火大会に
何しに来てるんかな」
と問えば
「ラムネ飲んで、
喋りに来てるんやろ」
と返ってくる
みんなの笑い声が
喧騒の中ではっきり聞こえた
その言葉が頭に残って
家に帰った私は
水彩絵の具でラムネの絵を描いた
〜友達の思い出〜
コップ代わりの取っ手付きビーカー
自家製のレモンシロップ50ml
炭酸水をたっぷり注ぎ
氷を放り込む
今日は贅沢がしたくって
星空を飲んでみたくって
月に見立てたレモンの輪切り
星に見立てた金平糖
ビーカーに入れた
それらは深く沈んでいった
あんまり星空には見えなくて
少しガッカリしたが
それでも何時もより贅沢で
気分は良かった
その気分のまま
夜更けの自室に戻り
卓上ライトにビーカーをかざす
そこにはキラキラした数え切れないほどの星があった
沢山の星が下から上へと昇り消えていく
図らずもそれは星空だった
私はその星空を飲み
底から掬い取った青い星を
奥歯で噛んだ
幽かに檸檬の味がした
小さな贅沢を噛み締めた
〜星空〜
幼い頃に読んだ
水木先生の『妖怪図鑑』
地獄絵図を
食い入るように 惹きつけられるように
何度も何度も見た
『虫を一匹でも殺せば地獄に落ちる』
この言葉が枷になった
虫が殺せなくなった
地獄に行きたくなかった
虫が出れば
父や母を頼る
今思えば残酷な子どもだ
歳を重ねると、
虫を殺さねばならない
状況が訪れた
覚悟を決めて、
ティッシュを使って
潰した
殺した
なんとなく開けて、
虫の状況を確認した
すれば、あんなに飛び回って
しっかり見えなかった虫の構造が
死によって
ありありとみえた
肢 翅 眼
食い入るように 惹きつけられるように
見た
さっきまでは飛んでいた
自分の手で止めてしまった
枷は外れた
虫を殺してもらっていたら
地獄に落ちなかったのだろうか
虫を殺してしまった私は
地獄に落ちるのだろうか
〜神様だけが知っている〜
室生犀星先生の
『靴下』を読んで
ふと思い出す
私にはもう一人兄弟がいたことを
兄弟だった子の
名前を私は知らない
兄弟だった子は
外の世界を知らない
なぜかそのことを
ふと思い出す
乗り換えで降りた駅
普段は買わない
抹茶キャラメルを手にする
この気持は何だろう
渇いた口にひとつ放り込む
執拗な甘苦さに喉が渇く
その子の哀しみ 私は知らない
その子の哀しみ 私は考えることしか出来ない
名前の知らない兄弟の分
私は知らなければならない
世界を知らずに死ぬ訳にはいかない
見つめた線路の先には青空
私の生きるべき道に見えた
〜この道の先に〜
隣にあるはずのスマホを探し
アラームを止めた
どたり
生まれ落ちた子鹿のように
ベッドに沈み込んだ体は動かない
薄いカーテン越しに
朝日がさしこむ
体に日差しがあたり
少しずつ目を開ける
両手を使って
必死に体を起こし
今日も私は生まれた
〜日差し〜