よく友人と遊びに行って
思うことがある
なんて愛おしい時間なんだと
人生という尺度で見れば短い時間
もう覚えてもいない中身のない会話
何をそんなに笑っているのだろう
本当にしょうもない時間だ
ただただあっという間に過ぎていく
それなのに愛おしくてたまらない
最後に走馬灯を見れるのなら
こんなしょうもない時間たちを見せてほしい
そんな大切にしたい時間を忘れたくなくて
スマホを手に取り、
ぱしゃり
時間を切り取る
そして現代っ子には珍しいだろうが
手に取れる形にして
ノートに時間たちを貼り付ける
何時でもその愛おしい時間たちが
ノートを開けば走馬灯のように駆けていく
〜大事にしたい〜
今、人生を歩んでいるような気がしているが
本当は過去の記憶を辿る夢を見ている
本当は宇宙の何処か
遠い惑星の花畑で眠っている
初めの人生を終えれば其処に行く
体は動かない 目は覚めない
まるで棺の中で眠るように両手を組んで
動いてみえるは宇宙に浮かぶ星だけ
そんな夢のような場所で
人生の夢を見ている
選択肢から選んだ気になっているが
夢なので、自分が選択するものは
はなから決まっていたこと
つまり運命なのだ
話すことも考えることも全て
過去をなぞっているだけ
其れは、台本通りに進むだけ
死んでしまえばどうなるか?
夢のような花畑で目覚めることない
もう一度、其れの再上映を見るだけ
〜花畑〜
今日本当に面白いことがあった
これを聞いたら驚いて、大爆笑間違いなしだ
話したくて堪らなくなった
でも、せっかく笑わせるなら
文字の「おもしろい」じゃなくて
「それはおもしろい」という言葉が
大爆笑して、思わず手を叩く姿が見たい
話したい欲をぐっと我慢して、LINEを開く
久しぶりに君たちとのトークには
「あけおめ」と「おたおめ」と日程調整しかない
「めっちゃ面白いことがあったから、ご飯食べに行こう」
グループで既読が2ついた
「何を食べようかな」
と皮算用しながら
送る前から知っている返信を待った
〜君たちからのLINE〜
ぱっと目を覚ます
暗闇の中、蝋燭を持っていた
蝋は長かった
向かい風が吹いた
火を消すまいと
風を背中で受けた
火はゆらゆらとしたが
消えはしなかった
雨が降ってきた
雨あしはどんどんと増した
蝋燭を地面に置き
体を屋根にして
火を守った
火はゆっくりと燃え
蝋は半分ほどになった
向かいから見知らぬ人が歩いてきた
蝋はあるのに火は消えていた
目に光はなかった
「火はどうされたんですか」
「或る人に吹き消されたんです
もうどうなるか分かっています」
憐れに思った
「よければ私の火を分けましょうか」
「良いのですか」
「減るものでもないですしね」
火は燃え移り
小さいながらも蘇った
「アジャラカモクレン、ナンタラカンタラパってね」
「フフ、何ですかいそれ」
その人の目に光が宿った
「ほんとうにありがとう」
そしてまた別れた
雨を凌ぎ 風を凌ぎ
火を分けて 火を貰って
長かった蝋は随分短くなった
火はもう少しで消えそうだった
フードを深く被った人が近づいて来る
「火が消えそうですね」
「ええ、消えそうです」
「あなたが火を分けたように
誰かから蝋を分けてもらえばよいのでは」
「火は減りませんが、蝋は分ければ減ります
そこまでしようとは思いません」
「ああ、消える…」
「ああ、消えるね」
笑みを浮かべ
すっと目を閉じる
火は燃え尽きた。
〜命が燃え尽きるまで〜
丁寧に毎日日付にバツをつけていく
残念なことにそんな几帳面な性格ではない
壁に掛かったカレンダーは未だに7月
予定はスマホにあるので
未だにまっさらなカレンダーは
海を宿している
夏の風が吹きつける
どんなにズボラでも
流石にマズいかと
めくった
海は忽ち秋桜になった
一気に自室は秋に模様替え
部屋に吹いた生ぬるい風は
海中を漂うように
身体に纏わりついた
暫く海月の心地で
カレンダーを凝視した
〜カレンダー〜