ななしさん

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10/2/2025, 7:54:27 AM

秋の訪れ

「今年の秋はいつ来るかな?」
「わかった!じゃあそれについて一緒にマインドしよう」
「はいはい、いつものね」
「まず普段どうなったら秋だなと感じますか?」
「それは、、ご飯がおいしくなったら?」
「じゃあそう仮定して。」
「待った待った!うそうそ、、そうだなやっぱり気温じゃない」
「具体的には?」
「暑くなくなってきたなぁ〜とか」
「ん〜もっと具体的に、温度は?」
「え~とっ、20前半じゃない?」
「じゃあそれが正解だね」
「あー確かに、気温が20前半になったら秋が訪れたってことかぁ」
「ここで僕の個人的な意見を言うね」
「うんうん」
「秋、なくない?」
「たしかに、、、」
「急に暑くなったり急に寒くなったりで、ちょうどいい気温になることがないから、結論は」
「、、、」
「秋はもう死んでいる」

10/1/2025, 9:23:23 AM

旅は続く

人はよく人生を旅に例える
僕もその考えは好きだ

「もういっそのこと、飛び降りて死んでやろうか」
夕日が直接差し込む放課後の屋上
僕は柵の内側から校門に目を向けていた
失恋
それはこの世で最も残酷なものなのだ
校門の前に見知らぬ男性がいたので興味本位でそれを眺めていた
そうしたら校門の内側からやってきた僕と同じクラスの永井美那が笑顔で手を振りながらその男性と仲良さそうに会話を始めた
僕はしばらくの間、空を眺めた
白い雲の縁が赤く囲われていた
皮肉にも綺麗な空だった
僕のその行動は無駄だったようだ
目尻から涙がこぼれ落ちた
人生に悩みはつきものだ

次の日、僕は朝から寝不足で疲れていた
学校に行くのがこわかった
もう今までどおりに美那と会話はできない
最近はやっと仲良く会話ができるようになったと思ったのに
あんな光景を見たらもう同じ教室に入るのがこわかった
話しかけられるのがこわい
何を話していいかわからなくなる
「もうすべてが消えてなくなればいいのに、あの男も、美那も、人間みんな」
布団の中でうずくまる
「僕って、最低な人間だな」
もう何もしたくない
こんな残酷なこと本当にあってもいいのか
そう強く思う
それでもこの世界はなお残酷だ
世界は何事もなかったように動き続ける
「秋人!早くご飯食べ〜!!」
母親の大きい声が僕の部屋まで響き渡る

僕は残酷な世界に逆らうことができず、教室に入った
「おーきたきた!秋人ぉ今日は遅かったね」
やはりこの世界は残酷だ
よりにもよって教室に入って開口一番、美那の声が僕に降りかかった
もちろん美那はいつも通り
それがより残酷だ
僕はどう会話をしていいかわからず、素っ気なく会釈だけして自分の席に向かった
背中から美那の「秋人ぉ〜?」という声が聞こえてきた
その直後、先生が教室に入ってきて朝礼が始まった

「ねぇ秋人ぉ〜、どうしたの?今日元気ないけど、」
1時間目が終わった休み時間すぐに美那は僕の席の前まで来た
「別に、いつも通りだけど」
また素っ気なくしてしまった
こんなことよくないとわかっているのに、こうなってしまう
「そう、今日さぁ放課後にちょっと話あるんだけどいい、屋上来れる?」
「、、、」
「ホントに元気ないよ!大丈夫?、、、なんかあるんだったら言ってね、私、秋人のためだったらなんでもするよ!」

それ以降の授業は全く頭に入らなかった
美那は僕に何を話すのか
いや、考えなくてもわかる
どうせ「彼氏いるから私に関わらないで」とか言うのだろう
やっぱり全て消えてしまえばいいのに

僕は残酷な世界に抗えず、放課後になると屋上へ向かった
美那は待っていた
「おっきたきた、すごいよ!みてみて、真っ赤な海!」
僕は美那が指差す方を見た
確かに、屋上から見える海は夕日で真っ赤に染まっていた
「話ってそれだけ?」
僕は本当に最低だ、また素っ気なくなってる
もう今までどう接していたかさえも分からなくなっているのだ
「あ~、あのね秋人、私今まで秋人にはいっぱい助けられてきてさ、感謝してるの」
「、、、」
「だからその、、私、、、秋人のことが好きです!付き合ってください」
「えっ、、、」
まったく想像していなかったことだった
「ダメかな、、」
美那は僕の様子を伺うように言っている
「でも、昨日、一緒に帰ってた男の人は?」
「えっ、え~とっあれは、お兄ちゃん、えっみてたの!?」
この世界は最高だ

週末の土曜日の夜、僕は明日の美那との初デートがうまくいくかと悩みに悩んでいた
どんな格好で行くべき?どんな会話をしたらいい?
人生に悩みはつきものだ
先の見えない悩みと思い込んでいた失恋という旅が終わったと思ったら、また新たな悩みの旅が始まった

9/30/2025, 7:00:35 AM

モノクロ

"カランコロン"
「いらっしゃいませぇ〜、中山さん、いつものですかぁ〜?!」
「うん、頼むよ」
「店長!いつものコーヒー頼みまーす!」
「はいはい」
私は常連の中山さんにいつもの接客をする
中山さんは身なりがきれいで、優しい声をしている
いつもコーヒーを飲みながら読書をしに来る
中山さんは良い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする

「赤莉ちゃん、今日もかわいいねぇ」
カウンターの端の方から常連の原田さんの耳障りな声が聞こえてくる
「ありがとうございます」
私はそれだけ言ってすぐに原田さんとは反対のカウンターの端の席に腰掛ける
そして中山さんのコーヒーが出来上がるのを待つ
原田さんはいつも昼すぎに来て、カレーを頼み、それを汚く食べる
見てるだけで気持ち悪いし、いつも私に気持ち悪いことを言ってくる
原田さんは悪い人だ
私はそう見えている
だからそれ相応の対応をする

「中山さん、コーヒーっておいしいですか?」
私はカウンター席に座って頬杖をつきながら、ポツリとそんなことをつぶやく
「そうだね、おいしいよ」
窓際の二人掛けのテーブル席、中山さんはそこから優しい声で言った
「苦くないですかぁ?」
私は続けて質問する
「そうだね、確かに苦い」
少し微笑みながら中山さんは言う
「ほらぁ〜、おいしくないじゃん」
「僕はコーヒーを飲むとき、雰囲気で楽しんでるだ」
店内の雰囲気のある間接照明に照らされている中山さんの顔は優しかった
中山さんがそう言うなら間違えはないのだろうが、私にはわからない
喫茶店の店員をしているのにも関わらず、私はコーヒーが苦手だった
カウンターの中でコーヒーを作っている店長の手元を眺める
無駄のない動きで、もう間もなくコーヒーが出来上がる
見てて気持ちがいい

「赤莉、コーヒーを中山さんに」
店長は私が座っているカウンター席の目の前に出来上がったコーヒーを置き、そう言った
「は~い、、、どうぞぉ~、中山さん」
私はそのコーヒーを中山さんのテーブルまで持っていった
「ありがと、赤莉ちゃん」
「いえいえ!ゆっくりしてってくださぁ〜い」
変な気分

私にはこの世界がモノクロに見えている
そうやって世界を見た方が単純で、楽に生きられる
複雑に物事を考えないことは楽なのだ
例えば、コーヒーは黒、店長の無駄のない動きは白
常連の原田さんは黒、常連の中山さんは白
そうやって何でも白黒区別して見た方が、無駄なことを考えずにすんで楽だ
黒に対しては適当に、白に対しては大切に
周りの人からどう言われようと知ったことではない
それが私、七瀬赤莉の見ている世界

9/29/2025, 7:09:59 AM

永遠なんて、ないけれど

永遠に続くことはない
人は忘れる生き物だ

学校の先生、ノート、焦げた焼きそば、ペット、親、友達、いつもの通学路、いつも電車が一緒になるあの子、行きつけの喫茶店、いっぱい勉強をした机、椅子、ベッド、本棚、本、靴

自分が覚えているものなんて、意外と少ない
けれど、それら全部記憶の中では永遠に生き続ける

9/27/2025, 11:46:43 AM

涙の理由

「遅れてごめん、美凪のことが僕も好きです」
美凪は驚きの顔をこちらに向けていた
僕の急な告白に驚いたのだろう
沈黙を恐れた僕は言葉を続けた
「あのときは、なんて返し、、、えっ」
白いカーテンの隙間から差し込んだ赤い夕日
その夕日のスポットライトを浴びて、涙が赤く光った
彼女は病室のベッドで涙を流していた
僕には、その涙の理由がわからなかった
そして、僕は告白をするべきではなかったと後悔した

真っ赤な夕日に染まる街を見るたびに思い出しては、あの涙の理由を考えている
しかし何度考えても答えはわからない
そして、答え合わせもできない
彼女はあの涙の日を最後に旅立ってしまった
僕が最後に見た彼女は涙を流していた
あれが最初で最後の美凪の涙だった
美凪が涙を流すなんて信じられなかった
そういった感情表現をしないのが美凪なのだ
だから涙の理由が分からなくなっていた
こんな予測は思い上がりすぎと考えながらも、素直に好きと言われたことが嬉しかったからなのだ
でも長年美凪の側にいた僕からしたら合点がいかなかった
美凪がそういうときに涙を流すと思えない
自分の死期が近づいて、涙もろくなっていたと片付けてしまえばおしまいなのだが
どうしても引っ掛かって、考えてしまう
涙の理由を

僕は夕日に染まる街の中を歩き、自宅に帰ってきた
右手には手紙があった
美凪の母からもらった、美凪の遺書的な手紙だ
僕は自室のベッドに腰掛け、手紙を開いて読んだ

『優斗へ
今日はありがと、花火すごくきれいだった
私は今、どうしても伝えたいことがあって、病室に帰ってきてこの手紙を書いています

まずは一緒に花火を見に行こうと、連れて行ってくれてありがと
人の多さと、花火の大きな振動音は病人の私の胸に少し毒だったかもしれないけど
でも花火はすごくきれいで
なにより、優斗と一緒に見れたことがすごく幸せだった
あの花火を私は一生忘れることはないと思う
まぁその一生はもうわずかだけど
でも死ぬその瞬間まであの時の幸せは残り続ける
本当にもう後悔はない、そうはっきり思えた

でも一つだけ後悔があるとしたら
私ね、優斗のことが好きです
この言葉を一緒に花火を見ているときに私は言ったの
花火の音で聞こえなかったよね
優斗が「えっ」って聞き返してきて、私にはこの言葉を2回も言う勇気がなかった
私のこの思いが伝えられなかったことが、私のたった一つの後悔
声に出しても、伝わらなかったら意味がないよね
だからせめて、こういう形で伝えようと思って、今この手紙を書いています
美凪より』

「あぁぁぁぁ〜」
僕は美凪と同様に柄にもなく涙を流した
いや、美凪のきれいな涙よりよっぽどひどい涙だ
「だから、そう、だったんだ」
ずっとわからなかった答えがわかった
あのときの涙は僕が、「美凪のことが『僕も』好きです」と言ったときに自分の思いが伝わっていたことに気づいた
そして美凪は驚き、涙を流していたのだ
それが嬉しかったのだ
合点がいった
そして僕は心から思った
あのとき、告白をしてよかったと
「美凪、ちゃんと、聞こえてたよ」

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