"星が溢れる"
いつもの平凡な1日だった。
朝起きて家を出ていつも通り過ごして家に帰って眠りにつく
ずっとそれを繰り返す生活。
別にそんな生活に飽き飽きしたりはしていなかった
友人とおしゃべりもするし、趣味もあれば特技もある
けれど、特別楽しみがあるわけではなかった
それでもいい、波乱万丈な日常よりもよっぽど生きやすい
目の前で止まった電車の扉
降りる人を待ってから乗り込んで扉の近くに立つ
左耳にワイヤレスイヤホンを突っ込んで、音楽を流しながらスマホをぽちぽちとタップしていた
趣味の延長線上
ネットで探していれば、唐突に私の心が射抜かれた
一目惚れとはこのことか!
今にも愛の告白をし出しそうな口を押さえつけ、チラチラとはためくまるでアニメのようなエフェクトが現れる
頭の上にハートが浮かんでいる気がする
最早目がハートになっていると思う
ぎゅっと目を瞑ってみたり、皿のようにした目で舐め回すように見た
現実の人だったら誘拐して丸ごと食べてたかもしれない
その前に視線で通報されて豚箱行きになるだろうが
いつも通りで平和な日常に突如として溢れた星を、私は愛することにした
"安らかな瞳"
朝起きてこれはおかしいとすぐに思った
息が苦しい
腫れ上がっていると感覚でわかるほどに喉が痛んでいる
頭が熱くてツキンツキンと痛み、対して首から下は冬用の布団を被っているというのに震える程に寒い
喉が渇いた
「くそ…」
1人しかいない暗い部屋で、掠れた声が響く
そんな声も籠って聞こえて、耳もおかしくなっていることに気付いた
なんとか布団から起き上がると、次第に関節が痛む
呼吸をするたびにヒューヒューという音が聞こえて、具合が悪いことを否が応でも自覚させられる
台所へ向かい、コップを手に取る
蛇口の下にかざしたその手は震えていて、今にも落としてしまいそうだった
水が音を立ててコップの中に落ちる
半分を満たしたところで水を止めた、それ以上入れては落としてしまいそうだったから
慌てて両手で包み込み、近くの椅子に腰を下ろす
水を一口嚥下すれば喉が痛み、腫れているせいか空気まで一緒に飲み込んでしまった
不愉快な感覚を飲み下し、ふぅと息をつく
ふと隣の窓ガラスが目に映る
涙で潤み、蕩け切った瞳を見つけて
恋をした時、人はきっとこういう瞳をするのだろう
と、思った
鼻も頬も赤くなり、髪は無造作に束ねられている
私は喉の不快感に咄嗟に咳をする
荒いやすりをかけられたような喉の痛みに悶える
その痛みから出た涙を拭い、残りの水を捨てて部屋に戻った
"ずっと隣で"
隣で笑っていてほしい。
なんて私の身には余るから
どうか、どうか
私の知らないところで笑ってて
"もっと知りたい"
好奇心というのは、どこまでも人を突き動かすし
人を人たらしめる心の部分でもある
それに拐かされて、私の前から姿を消した君を
私はたまに思い出す
元気にしていればそれで良い
私が君のそばからいなくなって、寧ろ喜んでいるのなら
私も嬉しい
君お得意の好奇心で、もし私に白羽の矢を立ててくれるなら
いずれまた、会いたい
"平穏な日常"
バスに揺られながら、淡い空の色を見つめる
膝の上に乗ったリュックをぎゅうと包み込むと得も言えぬ安堵感に包まれる。
首や耳などに飾りをつけて、1ヶ月ほど前からこの日を待ち侘びていた
ほんの休日の昼下がり、止まったり出発したりを繰り返す。
目的の場所に近づいてきたら、ドキドキしながらボタンの位置を確認する
バス停の名前が言われたところで手を伸ばせば、顔も知らぬ誰かに先を越される。
ボタンが赤く点灯し、無機質な音声がバスに響いた。
耳につけた飾りが揺れる
行き先を失った右手が宙を彷徨い、またぎゅうとリュックを握った
他の押した誰かが降りるのを待って、運転手に感謝を伝えてからバスを降りる。
走り出してしまいそうな、もしくはスキップでもしてしまいそうな足と気持ちを抑えて、私は歩き出した。